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潰瘍性大腸炎

腹痛めまい下痢体重減少倦怠感・だるさ発熱・高熱血便・黒色便 大腸・十二指腸の病気

疾患の概要

潰瘍性大腸炎は、大腸に慢性的な炎症と潰瘍が生じる炎症性腸疾患の一種です。
主に大腸粘膜を侵す病気で、炎症は直腸から始まり連続的に大腸全体へ広がります。
典型的な症状は持続する下痢や腹痛で、発熱を伴うこともあります。
原因は明確にはわかっていませんが、遺伝的な素因と免疫の異常反応が関与すると考えられています。
20歳前後の若年成人で発症が最も多いものの、中高年で発症する例も増えています。
現時点で潰瘍性大腸炎を完全に治す根治療法はありません。
そのため、日本では指定難病として認められています。
潰瘍性大腸炎を長く患っていると、結腸がんのリスクが高くなることが分かっています。
一方で近年は治療法が飛躍的に進歩し、適切な治療により大腸の炎症を抑え込むことで、日常生活に大きな支障なく過ごせる患者さんも増えてきています。
潰瘍性大腸炎は確かに注意が必要な病気ですが、正しい知識と治療により平均寿命は一般の人と変わらず、仕事や学業・家庭生活を続けていくことが可能です。

症状

潰瘍性大腸炎の代表的な症状は下痢です。
初期や軽い場合には、軟らかい便が続く程度であまり気にならないこともありますが、炎症が広がると水のような便になり、粘液や血液が混じる血便が見られるようになります。
下腹部に痛みや不快感を伴い、特に便意を感じた際に強く痛むことがあります。

症状が悪化すると、1日に10回以上排便があるような頻繁な下痢になり、夜間の睡眠中にも症状が続くことがあります。
便の状態は粘液や膿を含むことが多く、重症では血液に近い状態の排泄物になる場合もあります。
このような状態が続くと、発熱・貧血・全身のだるさ・脈が速くなるといった全身症状が現れ、体調が大きく崩れます。
これらの症状は、病気の重症度を判断するうえでも重要な指標です。

なお、軽症の場合には血便が見られないこともありますが、進行とともに血液や滲出液を含む下痢に加えて、腹痛・発熱・体重減少などの症状が加わるのが一般的です。

潰瘍性大腸炎では腸管以外の症状が現れることもあります。
具体的には、口内炎や関節の痛み・腫れ、皮膚の赤いしこりや難治性の潰瘍、眼の虹彩炎などが知られています。
これらは腸管外合併症と呼ばれ、潰瘍性大腸炎の消化管症状が強い時期に出現しやすい傾向があります。

なお、潰瘍性大腸炎の病状は良くなったり悪くなったりを繰り返すことが特徴です。
多くの患者さんは寛解と再燃を繰り返す再燃寛解型の経過をたどりますが、中には症状が一度きりでその後安定する方や、逆に慢性的に症状が持続する方、急激に悪化して手術が必要になる方もいます。
現在、日本人患者の多くは再燃と寛解を繰り返すタイプであり、治療薬の進歩に伴って慢性持続的に症状が出続けるケースは減ってきています。

原因

潰瘍性大腸炎の明確な原因はまだ分かっていません。
感染症のように特定の病原体が見つかっているわけではなく、人から人へうつる病気でもありません。
現在有力とされている考え方は、遺伝的素因と環境要因が複雑に関与して、腸の免疫システムが過剰反応を起こしてしまうという仮説です。
つまり、食事やストレス、腸内細菌バランスの乱れなど何らかの刺激に対し、うまくコントロールできない遺伝的体質を持つ一部の人で、免疫が自分の大腸粘膜を攻撃して炎症を持続させてしまうのではないかと考えられています。
実際、潰瘍性大腸炎は家族に同じ病気の方がいるケースも報告されており、遺伝要因の関与が示唆されています。
また衛生環境や食生活の欧米化との関連も指摘され、日本でも食事の欧米化が進んだ1970年代以降に患者数が急増しています。

一方、精神的ストレスや性格そのものが発症原因ではないことが明らかになっています。
かつては「ストレス性の病気」と思われた時期もありましたが、現在ではストレスそれ自体が発症を招くわけではないとされています。
ただし心と体は密接に関係するため、ストレスは症状を悪化させる誘因になり得ます。
過労や睡眠不足などの肉体的ストレスも含め、負担が大きいときに下痢や腹痛など再燃症状が引き起こされるケースがあるので注意が必要です。

食事に関しても、特定の食品が直接の原因ではありません。
香辛料やアルコールなど刺激物の過剰摂取は一時的に腸を刺激する可能性がありますが、潰瘍性大腸炎を発症させる決定的な原因とは考えられていません。

なお、潰瘍性大腸炎と喫煙との関係も興味深い点があります。
一般に喫煙は健康に有害ですが、潰瘍性大腸炎に関しては非喫煙者の方が発症率が高いことが知られています。

治療

潰瘍性大腸炎の治療目標は、可能な限り早く炎症を鎮めて症状を抑え、その寛解状態を長期に維持することです。
これにより大腸粘膜のダメージを最小限に抑え、患者さんの生活の質の維持を図ります。
治療の基本は薬物療法で、病状の重さに応じて適切な薬剤が選択されます。
軽症〜中等症であれば外来での内服治療が中心となり、重症の場合は入院して集中的な治療と全身管理を行います。

5-アミノサリチル酸製剤

軽症から中等症の潰瘍性大腸炎に対しては、腸の炎症を抑える抗炎症薬が第一選択となります。
これらの薬は安全性が高く、長期的な治療にも適しているため、再発を防ぎながら症状を安定させる目的で幅広く使用されています。
通常は内服薬として服用しますが、炎症が直腸付近に限られる場合には座薬や浣腸として局所的に投与することで、より効果的に炎症を抑えることができます。
多くの患者さんで症状の改善と寛解の維持に役立つ治療法です。

ステロイド

中等症以上で炎症が強い場合には、ステロイド薬による治療が行われます。
これらの薬には強力な抗炎症作用があり、内服や点滴で投与することで、短期間で症状の大幅な改善が期待できます。
寛解導入には非常に効果的ですが、長期間の使用によって副作用が現れやすいため、症状が安定した後は、数週間から数ヶ月かけて徐々に減量・中止することが基本です。
炎症が直腸やS状結腸に限られている場合には、坐薬や浣腸による局所投与も選択され、全身への影響を抑えながら効果的に炎症をコントロールできます。
なお、ステロイドが効きにくい場合や、減量すると症状が再び悪化してしまう場合は、難治性と判断され、次の段階の治療に進むことになります。

免疫調節薬・生物学的製剤

難治例や重症例では、免疫の働きを抑えたり調整したりする薬剤が用いられます。
これらは、ステロイド薬を長期的に使い続けることによる副作用を避ける目的で、寛解を維持する治療に役立ちます。
効果が現れるまでに一定の時間がかかることもありますが、継続的に使用することで、病状を安定させながらステロイドの減量・中止が可能になります。
さらに近年では、生物学的製剤や分子標的治療薬などの新しい治療法も導入されています。
これらは、従来の治療で十分な効果が得られなかった中等症から重症の患者さんに対して有効とされており、ステロイドに依存しているケースでの寛解維持にも効果を発揮することがあります。
さまざまな特徴や働き方の薬が登場しており、症状や体質に応じて使い分けができるようになってきました。
これらの新しい治療薬の登場により、これまでコントロールが難しかった患者さんでも症状の改善が期待できるようになっています。
ただし、強い免疫抑制作用に伴う感染症のリスクなど副作用もあるため、使用にあたっては専門医の慎重な判断と管理が必要です。

支持療法・栄養管理

症状が強い活動期には、薬物治療に加えて栄養サポートや生活管理も重要です。
激しい下痢や出血がある場合、脱水症や電解質異常、貧血、栄養不良を伴いやすいため、入院して点滴による水分・栄養補給を行ったり、必要に応じて輸血を行ったりします。
腸を休めるため一時的に食事を中止し、静脈から高カロリー輸液で栄養管理を行う場合もあります。
症状が落ち着くまでは刺激の少ない食事を心がけ、消化に良い食品を選ぶとよいでしょう。
重症例では専門スタッフによる経腸栄養剤の使用なども検討されます。
整腸剤や下痢止めは補助的に使われることもありますが、重症の下痢に強力な下痢止めを使うと中毒性巨大結腸症という重篤な合併症を誘発するリスクがあるため、自己判断で市販薬を飲まず必ず医師の指示に従ってください。

外科手術

潰瘍性大腸炎は大腸の病変であるため、大腸を手術で切除すれば理論上は根治します。
実際、他の治療で効果がない重症例や、腸管穿孔・大量出血・中毒性巨大結腸症といった生命に関わる合併症が生じた場合、あるいは大腸がんが発生した場合には大腸全摘出術が選択されます。
手術では大腸を全て取り除いた後、小腸と肛門を直接つなぎます。
その際、小腸の一部を袋状に加工してJ型嚢とし、大腸の代わりに一時的に便をためられるようにして肛門に接続する方法が一般的です。
この手術によって人工肛門を造設せずに体内で排便経路を再建でき、術後しばらくは排便回数が増えるものの、多くの方はやがて社会生活に支障のない状態まで回復します。
手術適応の判断は内科・外科の専門医が協力して行い、患者さん本人の生活の質も考慮して慎重に決定されます。
手術によって病気自体は治癒し、その後の平均寿命も一般の方と変わらなくなり、大腸がんのリスクも解消されます。
ただしごく一部の方では手術後に小腸に炎症が起こることが報告されているため、術後も定期的な経過観察は続けましょう。

以上のように治療法は多岐にわたりますが、個々の患者さんの病状や生活背景に合わせて治療計画が立てられます。
現在の医療水準では潰瘍性大腸炎と上手に付き合っていくことが可能です。
症状が落ち着いている寛解期でも油断せず、医師の指示通りに治療を継続することが再燃予防に極めて重要です。
治療を継続し、定期的に通院することで、病状を安定させながら日常生活や仕事を無理なく続けていくことができます。

早期発見のポイント

潰瘍性大腸炎は、初期の症状が軽いために気づかれず、見過ごされてしまうことがあります。
しかし早期に発見し治療を開始することが望ましい病気です。

下痢が長引く場合は注意

多くの胃腸炎は1週間程度で自然に治まります。
数週間以上も下痢が続く場合や、いったん治まっても繰り返す場合は単なる食あたりや感染症ではない可能性があります。
特に便に粘液や血液が混じむようであれば、潰瘍性大腸炎を疑って早めに医療機関を受診してください。

痔や過敏性腸症候群との違い

血便が出ると痔出血と自己判断しがちですが、下痢を伴う血便は痔より潰瘍性大腸炎など腸の病気を示唆します。
腹痛や残便感がある場合も腸の炎症が疑われます。
また、過敏性腸症候群でも下痢が続くことがありますが、過敏性腸症候群では便に血や粘液は混じらない点が異なります。
さらに過敏性腸症候群の下痢は睡眠中には起こりにくいのに対し、潰瘍性大腸炎では夜間も症状がみられることがあります。
こうした点から、自分の症状が他の病気によるものか判断が難しい場合は専門医の診察を受けましょう。

確定診断には大腸内視鏡検査が有効

潰瘍性大腸炎の診断には、大腸内視鏡検査が欠かせません。
お腹の症状や便検査・血液検査の結果から本疾患が疑われた場合、内視鏡で大腸粘膜を直接観察し、びらん・潰瘍や出血の所見を確認します。
同時に組織検査を行い、顕微鏡レベルで典型的な炎症像がみられるか調べます。
早期に内視鏡検査を受けることで、他の疾患との鑑別もでき、適切な治療方針を立てることができます。
「下痢くらいで内視鏡は大げさでは」とためらわず、症状が続く場合は消化器内科を受診し、医師と相談のうえ必要な検査を受けるようにしましょう。

早期治療で重症化を防ぐ

潰瘍性大腸炎は放置すると重症化し、手術が避けられなくなる危険もあります。
例えば重い炎症が長く続くと中毒性巨大結腸症という緊急事態を引き起こす可能性があります。
症状が軽いうちに発見し治療を始めれば、強力な薬剤や手術を使わずともコントロールできる場合が多く、合併症の予防にもつながります。
特に初発の症状が出た段階で適切に対処することが、その後の経過を良好に保つ鍵になります。

予防

潰瘍性大腸炎は原因がはっきりしていないため、残念ながら発症を完全に防ぐ確実な方法はまだ見つかっていません。
しかし一度発症した場合、再燃を防ぎ寛解を維持するために日常生活で工夫できる点があります。
また将来的な合併症リスクを減らす取り組みも大切です。

治療の継続

症状が落ち着いている時でも自己判断で薬を中断しないことが最も重要です。
医師の指示通りに維持療法を続けることで、潰瘍性大腸炎の悪化を予防できることが分かっています。
調子が良いからと勝手に通院や服薬をやめず、必ず主治医と相談の上で治療方針を決めましょう。

生活リズムと休養

普段から規則正しい生活を心がけ、十分な睡眠と休息を取ってください。
睡眠不足や過労は体の免疫バランスを崩し再燃を招きやすくなります。
疲れを溜め込まないようにし、適度に体を動かしてストレスを発散することも大切です。
軽い有酸素運動やストレッチなどは腸の動きを整える効果も期待できます。

食生活

バランスのとれた食事を続けましょう。
寛解期であれば特別な食事制限は不要で、栄養バランスの良い通常の食事で構いません。
乳製品や食物繊維も過度に避ける必要はなく、少量ずつ試して問題なければ取り入れて大丈夫です。
カフェイン飲料や香辛料も、症状が落ち着いている間は適量であれば問題ありません。
ただし再燃期には腸への負担を減らすため、脂肪分や食物繊維の多い食品、生野菜・生もの、香辛料・アルコールなど刺激の強いものは控えめにしましょう。
個人によって合わない食品がある場合は、日頃から食事日記をつけるなどして自分の体調との関係を把握すると良いでしょう。

ストレスケア

心理的ストレスや緊張を溜め込まない工夫も再燃予防に有効です。
適度に趣味やリラックスできる時間を作り、睡眠や休暇で心身をリフレッシュしましょう。
潰瘍性大腸炎自体は「心の病気」ではありませんが、ストレスはあらゆる病気の敵です。
特に忙しい生活を送っている人ほど意識的に休養を取り、必要に応じて周囲に協力をお願いすることも大切です。

禁煙と適度な飲酒

喫煙者の方はこれを機に禁煙を検討してください。
喫煙が潰瘍性大腸炎の発症リスク自体を下げるという報告はありますが、再燃や合併症リスクを考えると喫煙は百害あって一利なしです。
実際、喫煙者が潰瘍性大腸炎を発症した場合には治療効果が出にくいとの指摘もあります。
飲酒に関しては、適量であれば必ずしも禁止ではありません。
ただしアルコールは腸粘膜を刺激しやすいため、節度を守って控えめにしましょう。
特に症状が不安定な時期は禁酒するのが無難です。

定期検診と癌予防

潰瘍性大腸炎の罹病期間が長くなると、大腸がんの発生率が上昇することが知られています。
特に大腸全体に炎症が及ぶタイプの患者さんでは、発症後7~10年ほどでリスクが高くなり始めます。
そのため、発症から8年程度経過したら定期的に大腸内視鏡検査を受けることが推奨されます。
内視鏡検査で粘膜の状態を定期的に確認し、異常な細胞の変化が見つかった際には、早めに治療を行います。
こうしたがんのスクリーニング検査を計画的に受けることが、将来的なリスク管理に極めて重要です。
また潰瘍性大腸炎患者さんは免疫調節薬を使用する機会も多いため、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンなど予防接種も適切に受け、感染症を防ぐことが望まれます。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。