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胃潰瘍
疾患の概要
胃潰瘍とは、胃の内側を覆う粘膜が深く損傷し、その部分に潰瘍と呼ばれるただれた病変が円形または楕円形に形成される状態を指します。
十二指腸に生じた場合は十二指腸潰瘍と呼ばれ、胃潰瘍と合わせて「消化性潰瘍」と総称されます。
胃潰瘍が起こると主にみぞおち周辺に痛みを感じ、場合によっては吐血や下血などの症状を伴うことがあります。
近年、日本における胃潰瘍の患者数は減少傾向にあります。
厚生労働省の調査によれば、国内の胃潰瘍患者はおよそ30万人と推定され、十二指腸潰瘍とともに減少傾向にあります。
この背景には、胃潰瘍の主な原因であるピロリ菌感染者の減少や、ピロリ菌に対する除菌療法の普及により発症や再発が抑えられていることが考えられます。
一方で、痛み止めなどの薬剤による胃粘膜障害が原因の薬剤性潰瘍の割合は相対的に増えてきています。
放置された胃潰瘍は出血や胃壁に穴が開いてしまう穿孔といった重篤な合併症を引き起こすおそれがあり、速やかな対応が必要です。
症状
胃潰瘍の代表的な症状はみぞおちの痛みです。
この痛みは食事との関連がみられ、胃潰瘍では食後しばらくしてから痛みが出ることが多く、食べ過ぎると長時間痛みが続く傾向があります。
痛み以外の症状も多く、胃もたれ、食欲不振、胸やけ、吐き気、背中の痛みなどが現れることがあります。
ときには全く自覚症状がないまま健康診断の検査で偶然に胃潰瘍が見つかる場合もあります。
一方、潰瘍が進行して血管が傷つくと出血を起こし、大量に出血した場合には吐血や下血が見られます。
出血により貧血が進行すると、めまいや動悸、冷や汗など体調不良をきたすこともあります。
さらに稀ではありますが、潰瘍が深く進んで胃壁に穴が開いてしまう穿孔が起こると、突然の激しい持続性の腹痛や発熱を生じ、緊急の治療を要します。
このように、胃潰瘍の症状は軽度のものから重篤なものまで幅がありますので、注意深く観察することが大切です。
原因
胃潰瘍が生じる背景には、胃酸など「攻撃因子」の刺激に対して粘膜を守る「防御因子」のバランスが崩れることがあります。
最も多い原因はピロリ菌感染で、消化性潰瘍全体の60~70%がピロリ菌によるものと報告されています。
ピロリ菌は胃の中に生息できる特殊な細菌で、感染すると長期間胃に住み着き、胃粘膜に慢性的な炎症を起こします。
ピロリ菌に感染していると防御因子である粘膜のバリア機能が弱まり、胃酸によるダメージを受けやすくなるため潰瘍が発生しやすくなります。
次いで多い原因が痛み止めの薬剤です。
アスピリンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬は日常的によく使われる鎮痛薬ですが、これらは胃粘膜を保護する物質の産生を抑えてしまうため、長期間の使用により胃粘膜が傷つき潰瘍の発生リスクが高まります。
実際、非ステロイド性抗炎症薬の使用者が増加したことに伴い、これら薬剤を原因とする胃・十二指腸潰瘍の頻度は近年上昇傾向にあります。
このほか、喫煙は胃潰瘍の重要な危険因子であり、喫煙者は非喫煙者に比べて潰瘍ができやすく治りにくいことが知られています。
過度のストレスや飲酒、香辛料などの刺激物の過剰摂取も胃酸分泌や胃粘膜の防御機能に影響を与え、潰瘍発症の一因になると考えられています。
なお、非常にまれな原因として、胃酸を必要以上に分泌させるホルモンを産生する腫瘍などが挙げられますが、そのような特殊なケースはごく限られています。
治療
胃潰瘍は適切に治療すれば多くの場合は治癒が期待できます。
治療の基本は薬物療法です。
胃酸という攻撃因子を抑える薬剤の内服は潰瘍の治療に極めて有効であり、現在はプロトンポンプ阻害薬と呼ばれる強力な胃酸分泌抑制薬が中心に用いられています。
プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を抑えて潰瘍部位の刺激を減らし、痛みの緩和と粘膜の治癒を促進します。
かつてはH2ブロッカーが主力でしたが、プロトンポンプ阻害薬の登場によりより確実な治癒が可能となりました。
加えて、胃粘膜の防御因子を増強する薬や胃の働きを整える薬を併用することもあります。
例えば、潰瘍の原因として痛み止めの長期服用が疑われる場合には、同時にこれらの胃薬を服用して胃粘膜を保護することが考慮されます。
一方、ピロリ菌に感染している患者さんにはピロリ菌の除菌療法を行います。
通常、プロトンポンプ阻害薬と複数の抗生物質を1週間程度内服する除菌治療によってピロリ菌を殺菌し、潰瘍の治癒と再発予防を図ります。
除菌療法が成功すれば、その後の胃潰瘍の再発率は大幅に低下します。
潰瘍による合併症が起きている場合には、さらに積極的な治療が必要です。
潰瘍から出血している場合には緊急で内視鏡による止血処置を行います。
具体的には、胃カメラで出血部位を直接観察し、内視鏡用の小さな金属クリップで出血箇所を挟んで止血したり、止血効果のある薬剤を出血部位周囲に注射したりします。
この内視鏡的止血術により多くの出血はコントロールできますが、内視鏡で止血が困難なほど大量の出血が持続している場合や、潰瘍による穿孔が起きて腹膜炎を併発している場合には外科的な手術が必要になることもあります。
いずれの場合も専門医による迅速な対応が望まれます。
治療後は医師の指示に従って薬を継続し、症状が改善しても自己判断で中断しないことが重要です。
また、再発防止のため原因となったピロリ菌感染の除去や生活習慣の見直しを行い、必要に応じて定期的に胃の検査を受けるようにします。
早期発見のポイント
胃潰瘍は症状が出たり治まったりすることがあり、初期の段階では見逃されることもあります。
特に痛み止めを服用中の方や高齢者では、典型的な症状がはっきりしないまま進行してしまうこともあるため注意が必要です。
胃潰瘍を早期に発見し適切に対処するためには、日頃から自分の体調の変化を見逃さないことが大切です。
みぞおちの痛み、胃の不快感、胃もたれ、食欲低下、胸やけ、吐き気といった症状が現れた場合には、たとえ軽い症状でも放置せずに消化器科などを受診しましょう。
特に痛みが長引いたり、空腹時に痛みが強まったりする、あるいは便が黒っぽくなる・吐血するなど明らかに異常な症状がある場合には、一刻も早く医療機関で検査を受ける必要があります。
胃潰瘍の診断には主に胃カメラが用いられます。
胃カメラでは直接胃の中を観察できるため、小さな潰瘍も見つけやすく、必要に応じて組織検査を行って良性か悪性かを確認できます。
さらに出血が見つかった場合には、その場で止血処置を施すことも可能です。
バリウムを用いた胃のレントゲン検査も潰瘍の検出に有用ですが、異常が疑われた際には精密検査として内視鏡検査が推奨されます。
自覚症状がない場合でも、ピロリ菌に感染していると判明した方や消化性潰瘍の既往がある方、長期間にわたり痛み止めを服用している方などリスクの高い方は、定期的に医師の診察を受け必要に応じて検査を行うことで早期発見につなげることができます。
予防
胃潰瘍を予防するには、原因への対策と生活習慣の改善が重要です。
主な原因であるピロリ菌感染の有無を調べ、陽性であれば除菌治療を受けることが再発予防に有効です。
ピロリ菌の除菌により、将来的な胃潰瘍のみならず胃がんの発生リスクも大きく下がることが知られています。
また、痛み止めや解熱鎮痛薬を日常的に服用している場合には、必要性を主治医と相談し、可能であれば減量や休薬を検討します。
どうしても継続が必要な場合には、胃酸を抑える薬をあらかじめ一緒に服用して胃を保護することで潰瘍の発生を予防できる場合があります。
一部の痛み止めは胃への副作用が少ないタイプに変更できることもありますので、医師に相談してみてください。
さらに、禁煙は胃潰瘍予防に欠かせません。
喫煙は潰瘍発症のリスクを高めるだけでなく治療効果を妨げ再発を招きやすいため、これを機に禁煙することを強くお勧めします。
過度の飲酒も控えましょう。
アルコールの摂り過ぎは胃粘膜を荒らし潰瘍を悪化させる原因となります。
加えて、日頃から規則正しい生活を心がけ、ストレスを溜めすぎないようにすることも大切です。
過労や睡眠不足が続くと胃の働きが乱れ胃酸分泌も過剰になりがちなため、十分な休養とバランスの取れた食事を意識しましょう。
刺激の強い香辛料やカフェインの過剰摂取も避け、胃にやさしい食生活を維持することが望ましいです。
これらの対策により胃潰瘍の発症リスクを下げるとともに、再発の防止につながります。
万一症状が出現した場合には早めに受診し、医師の指導の下で適切な予防策と治療を継続することが、胃潰瘍から身を守るポイントです。