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胃がん

体重減少吐き気・嘔吐胃痛血便・黒色便食欲不振 胃・食道の病気

疾患の概要

胃がんは胃に生じる悪性腫瘍で、その約95%は胃の粘膜から発生する腺がんという種類です。
世界的にも発生数の多い主要ながんの一つで、日本を含む東アジアの国々では特に患者数が多い傾向があります。
胃がんはかつて日本人のがん死亡原因の第1位でしたが、診断法や治療法の進歩により、現在では男性で第3位、女性で第5位となっています。
依然として罹患数は多く、患者さんは50歳代以降に増加する傾向があります。
かつては20~30代の若年層にも多くみられましたが、原因となるピロリ菌感染率の低下に伴い、現在では若い世代の胃がんは大きく減少しています。
早期に発見され胃の内部にとどまっている段階であれば、適切な治療によって完治が期待できます。
なお、胃にはまれに悪性リンパ腫や消化管間質腫瘍といった、腺がん以外の悪性腫瘍が発生することもあります。
これらは一般的な胃がんとは性質が異なり、治療法も別個に検討されます。
しかし胃がんは進行すると比較的早期から他の臓器へ転移しやすく、症状が出た時点では既に病状が進んでいることも多いため、全体としての治療後の経過はあまり良好ではありません。
一方で、日本では集団検診などによる早期発見が奏功し、胃がんを早い段階で見つけて治療できる機会が増えているため、治癒できる可能性も高くなっています。

症状

胃がんは初期には自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても無症状の場合があります。
代表的な症状として、胃の痛みや不快感、食欲不振、体重減少、吐き気や嘔吐、食べ物が胃の中でつかえるような感じ、吐血や黒色便などがみられます。
初期の症状が胃潰瘍の症状と似た焼けるような痛みであったり、食後に胃もたれを感じたりするケースもあります。
しかし、これらの症状は胃がんに特有なものではなく、胃潰瘍や胃炎などの良性の病気でも起こりうるため注意が必要です。
症状の進行に伴って少量の食事でもすぐに満腹になるようになり、食べる量が減ることで体重が減少する場合があります。
また、慢性的な出血が続くことで貧血を引き起こすこともあります。
症状が進行した段階では、お腹を押すとしこりが触れたり、大量の吐血や黒色便が現れたりする場合もあります。
このような症状が長く続く場合には、自己判断で市販の胃薬を服用して様子を見るだけにせず、早めに医療機関を受診して検査を受けることが大切です。

原因

胃がんの原因はさまざまですが、なかでもピロリ菌の感染が最も大きな要因とされています。
ピロリ菌は胃の粘膜に慢性の炎症を引き起こし、それが長年にわたり続くことで一部の人に胃がんが発生すると考えられています。
実際、日本人の胃がん患者さんの大多数でピロリ菌感染が認められており、WHOもピロリ菌を胃がんの明確な発がん因子と認定しています。
日本では50歳以上の約7割がピロリ菌に感染しているとされていますが、もちろん感染者全員が胃がんになるわけではありません。
このほか、胃がんのリスク因子としては、過去に胃の粘膜に生じた慢性胃炎や胃潰瘍、胃ポリープの存在、自己免疫性萎縮性胃炎といった胃の病気が挙げられます。
一部には遺伝的な要因もあり、家族性の胃がんに関連する遺伝子変異が知られています。
食生活との関連では、塩分や炭水化物の多い食事、くん製食品などに含まれる防腐剤の多い食事、野菜や果物の不足などがかつて指摘されてきましたが、これらの要因自体が直接的に胃がんを引き起こす明確な証拠はありません。
ただし、ハム・ソーセージなどの加工肉の多量摂取と胃がんとの間には一定の関連性が報告されています。
喫煙は胃がんの明確な危険因子であり、たばこを吸う人では胃がんのリスクが高く、治療後の再発リスクも上昇するとされています。
また、喫煙者では胃がん治療の効果が低く出やすい傾向も報告されています。
さらに、長年にわたり大量の飲酒を続ける習慣がある場合も、胃がんの発症リスクが高くなると指摘されています。

治療

胃がんの治療法は、病気のステージによって異なります。
早期の胃がんの場合、内視鏡による切除が行われることがあります。
内視鏡治療では、腹部の手術をせずに胃カメラを使ってがんを切除するため、体への負担が小さく入院期間も比較的短くて済みます。
がんが粘膜下層以深に及ぶ場合や病変が大きい場合には、外科手術による治療が基本となります。
手術では胃の一部または全部を切除するとともに、周囲のリンパ節を取り除きます。
病状によっては腹腔鏡を用いた体にやさしい手術法が選択されることもあります。
手術により目に見えるがんをすべて取り除くことで完治が期待できますが、進行がんでは周囲臓器への浸潤や遠隔転移があるため、手術で根治が難しい場合もあります。
そのような場合でも、症状緩和を目的として手術を行うことがあり、たとえば腫瘍で胃の出口が塞がれて食べ物が通らない場合には、胃と腸をつなぐバイパス手術を行って通過路を確保します。
手術による治療が難しい場合や、手術後に再発が判明した場合には、抗がん剤治療が用いられます。
抗がん剤治療は外科手術と併用して行われることもあり、手術前に腫瘍を小さくする「術前補助化学療法」や、手術後の再発リスクを下げる「術後補助化学療法」として実施されます。
進行した胃がんでは放射線療法が併用されることもあります。
抗がん剤治療や放射線治療は症状を和らげ、病状の進行を遅らせる効果が期待できます。
近年では新しい薬物療法も登場しており、がん細胞の特定の性質を狙い撃ちする分子標的治療薬や、患者さん自身の免疫力を利用してがんを攻撃する免疫療法薬が進行胃がんに対して使用されることもあります。

早期発見のポイント

胃がんは早期にはほとんど症状がないため、定期的に検診を受けることが早期発見に繋がります。
日本では50歳以上の方を対象に2年に1度の胃がん検診が推奨されており、検査方法としてバリウムを使用して撮影する胃部レントゲン検査や、胃カメラなどがあります。
なお、胃部レントゲン検査と胃カメラの両方を毎年交互に受けると、体に負担がかかったり、検査で見つけにくいがんを見逃したりすることもあるため、あまり良い方法とはいえません。
検診によって早期の胃がんを発見し治療することで、胃がんによる死亡を減らす効果が期待できます。
特に胃カメラは小さながんの発見に有用で、組織の一部を採取して診断することも同時に行える利点があります。
なお、血液検査で測定する腫瘍マーカーは胃がんで高値になることがありますが、早期発見の手段としては有用ではありません。
一方で、胃の痛みや吐き気など何らかの症状がすでに出ている場合には、検診ではなくすぐに医療機関を受診して診断を受けるべきです。
ピロリ菌に感染しているかどうかを調べることも早期発見の一助になります。
ピロリ菌陽性と判明した場合には、医師と相談のうえで除菌療法を受けることが推奨されます。
除菌治療によって胃がんの発症リスクは低減できますが、除菌後も胃がんを全く起こさないわけではないため、定期的な経過観察は引き続き必要です。

予防

胃がんを予防するには、危険因子をできるだけ避ける生活習慣と、原因への対策が重要です。
最大の要因であるピロリ菌への対策としては、感染が判明した場合に除菌治療を行うことが挙げられます。
ピロリ菌の除菌により胃の炎症が改善し、将来的な胃がんの発生リスクを大幅に下げる効果が期待できます。
日本では慢性胃炎の診断でピロリ菌感染が確認された場合、健康保険で除菌治療を受けることができます。
食生活では、食塩の摂取を控えめにし、野菜や果物をバランスよく摂取するよう心がけましょう。
過度に塩辛い食品やくん製食品、加工肉などの頻繁な摂取は避け、胃に優しい食事を選ぶことが大切です。
喫煙習慣のある方は禁煙することで胃がんのリスクを下げることができます。
アルコールの摂取も適量にとどめ、特に多量の飲酒を習慣にしないよう注意しましょう。
適度な運動や規則正しい生活も含め、胃腸の健康を保つ生活習慣が胃がん予防につながります。
まれに遺伝的要因で若い頃から胃がんになりやすい体質の方もいますが、その場合でもピロリ菌の管理や定期的な内視鏡検査による経過観察が予防と早期発見に有用です。
総じて、ピロリ菌感染の有無を把握して必要に応じて除菌し、健全な食生活と禁煙を実践することが胃がん予防の基本となります。
近年、ピロリ菌の感染率は世代間で大きく異なり、若年層で感染者が減少していることから、将来的に胃がんの発生も減っていくことが期待されています。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。