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膵臓がん
疾患の概要
膵臓がんは、膵臓に発生する悪性腫瘍であり、がんの中でも特に予後が悪く、早期発見が難しいことで知られています。
膵臓は胃の裏側に位置し、長さ約15cmほどの細長い臓器で、消化酵素を分泌する外分泌機能と、血糖値を調節するホルモン(インスリンやグルカゴン)を分泌する内分泌機能を持っています。
膵臓がんは主に外分泌部に発生し、特に膵頭部にできることが多いとされています。
膵臓がんの特徴は、発見されたときにはすでに進行しているケースが多く、手術による切除が可能な段階で見つかることが少ないという点です。
腫瘍が小さいうちは症状がほとんどなく、周囲の臓器への浸潤や転移によって初めて症状が現れることが多いため、早期診断が非常に困難です。
がんが膵頭部にある場合には胆管を圧迫して黄疸が現れることがありますが、膵体部や尾部にできた場合は、症状が出にくく、発見が遅れがちです。
膵臓がんの罹患率は年々増加傾向にあり、日本ではがんによる死亡原因の上位に位置しています。
男女ともに中高年以降で発症が多く、60歳以上での発症が目立ちます。
家族歴のある人や、糖尿病、慢性膵炎、喫煙歴のある人では発症リスクが高まるとされています。
加えて、遺伝的要因も膵臓がんの発症に影響を与えており、家族に膵がん患者が2人以上いる場合には「家族性膵がん」として、スクリーニングや定期的な画像検査が勧められることもあります。
BRCA2遺伝子やPALB2遺伝子など、乳がん・卵巣がんと共通の遺伝子異常が膵臓がんとも関連していることが知られており、特に欧米では遺伝カウンセリングが進められています。
さらに、膵のう胞性疾患(IPMN:膵管内乳頭粘液性腫瘍やMCN:粘液性嚢胞腫瘍など)が、膵臓がんの前がん病変として注目されています。
こうしたのう胞が年齢とともに増えることもあり、偶然発見された膵のう胞に対しては、腫瘍化リスクを評価しながら経過観察または外科的切除が検討されます。
膵臓がんは治療成績が非常に厳しく、5年生存率は10%前後と報告されています。
そのため、早期発見の手段やスクリーニングの確立、診断技術の向上が強く求められています。
超音波内視鏡(EUS)やMRI(MRCP)、CT、腫瘍マーカー(CA19-9など)を組み合わせた早期診断の研究が進められていますが、現在のところ有効な集団スクリーニング法は確立されておらず、リスクの高い人に対する選択的なモニタリングが中心となっています。
進行が早く転移もしやすいため、疑わしい症状がある場合はすぐに医療機関での精査が重要です。
食欲不振、体重減少、背中やみぞおちの痛み、黄疸、血糖値の急変などは、膵臓がんの可能性を示す兆候であり、早期受診につながる意識づけが求められます。
症状
膵臓がんは初期には特有の症状がなく、かなり進行するまで自覚症状が現れにくいのが特徴です。
腫瘍が膵頭部にできると、胆管を圧迫して胆汁の流れが妨げられ、皮膚や眼球の黄染(黄疸)や尿の褐色化、便の色の変化(白色便)などが見られることがあります。
また、胆管が拡張することで右上腹部の不快感を訴えることもあります。
膵体部や尾部に発生した場合は、腫瘍が膵臓の外に浸潤するまで症状が出にくく、体重減少、食欲不振、腹痛、背部痛などが初発症状となることがあります。
腹痛はみぞおちから背中にかけて放散することが多く、持続的で夜間に増悪することもあります。
慢性的な疲労感や倦怠感、消化不良、脂肪便なども症状として現れることがあります。
さらに、膵臓がんに伴って新たに糖尿病を発症したり、既存の糖尿病のコントロールが悪化する場合もあります。
これは膵臓の内分泌機能が腫瘍によって障害されるためであり、膵臓がんの間接的なサインとされることもあります。
進行すると、がんはリンパ節、肝臓、腹膜、肺などに転移することがあり、症状も多岐にわたります。
腹水の貯留、黄疸の進行、全身の倦怠感、食事が摂れないなど、QOL(生活の質)が著しく低下することが多くなります。
特に、原因不明の体重減少や持続的な腹部不快感がある場合には、膵臓がんの可能性を念頭に置き、早めに医療機関を受診することが重要です。
原因
膵臓がんの原因は完全には解明されていませんが、いくつかの危険因子が知られています。
最もよく知られているのは喫煙で、喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが2〜3倍高くなるとされています。
タバコの中に含まれる発がん物質が膵臓の細胞に影響を与えると考えられています。
また、慢性膵炎は膵臓がんのリスクを高める代表的な基礎疾患であり、長期間の膵臓の炎症ががんの発生を誘導する可能性があります。
慢性膵炎の原因としては、長期の飲酒や自己免疫性疾患、遺伝性の膵炎などが挙げられます。
糖尿病もリスク因子のひとつで、特に新たに糖尿病を発症した中高年では、膵臓がんのスクリーニングが推奨されることもあります。
肥満や高脂肪食の摂取、運動不足といった生活習慣の乱れも、膵臓がんの発症に関与するとされています。
さらに、家族性膵臓がんの存在も無視できません。
膵臓がん患者の家族に同様のがんの既往がある場合、遺伝的背景によって発症リスクが高くなることがあります。
BRCA2遺伝子変異などの特定の遺伝子異常が関与していることも知られています。
その他、胆石や胆嚢摘出歴、ヘリコバクター・ピロリ感染なども関与が疑われており、複数の要因が絡み合って膵臓がんの発症に至ると考えられています。
治療
膵臓がんの治療は、がんの進行度や患者の全身状態に応じて決定されます。
根治的な治療としては、外科的切除が最も有効ですが、診断時に手術可能な状態であるのは全体の約20%程度にとどまります。
手術には、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、全膵切除術などがあり、腫瘍の位置によって術式が異なります。
手術が困難な進行がんや転移を伴う場合には、化学療法が主な治療法となります。
ジェムシタビン、S-1、FOLFIRINOXなどの抗がん剤が用いられ、腫瘍の増殖を抑えたり、症状の進行を遅らせたりする効果が期待されます。
近年では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の研究も進んでいますが、標準治療としての適応は限られています。
また、放射線治療は、痛みの緩和や局所制御を目的に使用されることがあります。
外科手術ができない症例や、化学療法との併用で用いられることがあり、腫瘍の縮小や症状の軽減を目指します。
腹腔内へのがんの浸潤や転移による痛みの緩和には、神経ブロックなどの緩和ケアも行われます。
治療の選択肢を決定するには、正確な病期診断と、患者の希望、全身状態を考慮した多職種による治療方針の検討が必要です。
根治が困難な場合でも、症状の緩和や生活の質の維持を目指す治療が重要となります。
早期発見のポイント
膵臓がんの早期発見は非常に難しいですが、少しでも早く見つけることが予後の改善に直結します。
まず、原因不明の体重減少や食欲不振、倦怠感が続く場合は、膵臓を含めた精密検査が推奨されます。
特に中高年で新たに糖尿病を発症した場合や、既存の糖尿病のコントロールが急に悪化した場合には注意が必要です。
画像診断としては、腹部超音波、CT、MRI、MRCP、内視鏡的超音波検査(EUS)などが有効です。
EUSは膵臓に非常に近い位置から観察できるため、小さな病変の検出にも優れています。
腫瘍マーカーとしてはCA19-9やCEAが参考になりますが、早期では上昇しないこともあるため、あくまで補助的な指標です。
また、家族に膵臓がんの既往がある人や、慢性膵炎の診断を受けている人では、定期的な画像検査によるモニタリングが推奨されます。
腹部の違和感や消化不良といった軽微な症状でも、膵臓がんを疑うきっかけになり得るため、異常を感じたら早めの受診が重要です。
予防
膵臓がんの発症を防ぐ確実な方法はありませんが、リスクを減らすために生活習慣を整えることが重要です。
まず、禁煙が最も大切です。
喫煙は膵臓がんの大きな危険因子であり、喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが高まります。
そのため、禁煙することで膵臓がんのリスクを減らせます。
次に、過度の飲酒も避けましょう。
長年の多量飲酒は膵臓に炎症を起こし、慢性膵炎につながります。
慢性膵炎は膵臓がんのリスクを高めることが知られています。
また、食生活や運動習慣にも注意しましょう。
肥満や運動不足も膵臓がんのリスク因子とされています。
野菜や果物を含むバランスの良い食事を心がけ、適度な運動で適正体重の維持を目指しましょう。
これにより、2型糖尿病の予防にもつながります。
糖尿病(特に2型)は膵臓がんのリスクを高めます。
そのため、既に糖尿病のある方は血糖コントロールをしっかり行い、定期的に検診を受けることが勧められます。
さらに、慢性膵炎や糖尿病など膵臓がんのリスクが高い持病がある場合には、定期的に医療機関で検査を受けることが重要です。
膵臓がんは早期発見が難しく、現時点で有効な集団検診法がありません。