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非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)

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疾患の概要

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:ナッシュ)は、アルコールの多量摂取とは無関係に肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や肝細胞の壊死を引き起こす病気です。
脂肪肝の一種ですが、単なる脂肪肝(単純性脂肪肝)とは異なり、進行すると肝線維化や肝硬変、さらには肝細胞がんへ移行するリスクを持っています。
NASHは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の中でも進行性の病態であり、将来的に肝疾患の中で重要な位置を占めると考えられています。

NAFLDは肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧といったメタボリックシンドロームに伴って発症することが多く、日本人の約30%が該当するとも言われており、近年その患者数は増加傾向にあります。
NASHはNAFLDのうち約10~20%にみられるとされ、早期に診断し適切な管理を行うことで重篤な肝疾患への進展を防ぐことができます。

アルコール摂取歴がない、あるいは1日男性で30g未満、女性で20g未満の飲酒量にもかかわらず、肝機能異常がみられる場合にはNASHが疑われます。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなり進行するまで自覚症状が出にくいため、健康診断などで偶然発見されることが多いです。
肝線維化が進行すれば肝硬変となり、肝がんの発症リスクも高まります。

NASHの診断には、血液検査、画像検査に加えて、最終的には肝生検が必要となることもあります。
治療の基本は生活習慣の改善であり、特効薬は存在しません。
したがって、早期からの予防と管理が極めて重要な疾患です。

NASHは従来、肝疾患の中では比較的軽視されがちでしたが、近年その重症化リスクが明らかになるにつれ、肝疾患の中でも注目される存在となっています。
特に日本においては、肝炎ウイルスによる肝がん発症数が減少する一方で、NASH由来の肝がんが増加していると報告されています。
これは、生活習慣病を背景とするNASHが増加しつつあることを意味しており、将来的な国民病と位置付けられる可能性もあります。

NAFLDとNASHの区別は非侵襲的な方法では難しく、肝線維化の進行度を正確に評価することが重要です。
近年では、FibroScan(エラストグラフィー)などの非侵襲的線維化診断ツールの導入が進み、肝硬変への進展リスクをスクリーニングすることが可能になってきています。
また、血清バイオマーカーや遺伝子診断などの研究も進められており、将来的にはより簡便で精度の高い診断法の確立が期待されています。

NASHの発症には、過栄養や運動不足といった生活習慣因子に加え、遺伝的素因、腸内環境、インスリン抵抗性、酸化ストレスなどさまざまな因子が複雑に絡み合っていると考えられています。
特に内臓脂肪の蓄積とインスリン抵抗性は中心的な病態であり、メタボリックシンドロームの進展と密接に関連しています。

NASH患者の多くは肥満や2型糖尿病、高血圧、脂質異常症といった複数の生活習慣病を合併しており、肝臓だけでなく心血管疾患や慢性腎臓病の発症リスクも高いことが知られています。
そのため、NASHの治療には肝疾患にとどまらない全身的な管理が求められます。

現時点では、NASHを特異的に治療する承認薬はなく、生活習慣の改善が最も基本的かつ有効な治療法とされています。
適正体重の維持、糖尿病や脂質異常症のコントロール、食事内容の見直し、定期的な運動習慣の導入が推奨されます。
最近では、肥満手術やGLP-1受容体作動薬などの糖尿病治療薬がNASHにも有効である可能性が示唆されており、今後の治療戦略として注目されています。

症状

NASHは初期には自覚症状がほとんどなく、多くの人は健診などで偶然に肝機能異常を指摘されることから始まります。
ALT(GPT)やAST(GOT)といった肝酵素が上昇していることが特徴で、無症候性であっても肝臓の中では脂肪沈着や炎症、線維化が進行していることがあります。

進行すると、倦怠感、食欲不振、右上腹部の違和感や痛みなどの軽度な症状が現れることがありますが、非常に非特異的な症状であるため、他の疾患と区別がつきにくいのが現状です。
中等度以上になると、肝臓の線維化が進行し、腹部膨満感や浮腫、黄疸などがみられることもあります。

肝硬変に至った場合は、全身の倦怠感、腹水、下肢のむくみ、意識障害(肝性脳症)などの症状が出現し、生命に関わる状態となります。
また、肝硬変を背景に肝細胞がんを発症する例も少なくなく、NASHが原因で肝がんに至るケースは増加しています。

NASHは、病状がかなり進行するまで日常生活に支障が出ないことも多く、気づいたときには重症化していることがあります。
したがって、無症状でもリスク因子を抱えている人は、定期的に肝機能や画像検査を受けることが重要です。

原因

NASHの主な原因は、内臓脂肪の蓄積によるインスリン抵抗性の亢進です。
肥満や糖尿病、高脂血症といったメタボリックシンドロームは、いずれもNASH発症の主要なリスク因子とされており、特に内臓脂肪型肥満は強く関連しています。
脂肪細胞から分泌されるサイトカインや炎症性物質が肝臓に炎症をもたらし、肝細胞の壊死や線維化を引き起こします。

また、糖質の過剰摂取や高脂肪食など、食生活の乱れもNASHの誘因となります。
過剰なエネルギー摂取が肝臓への脂肪沈着を助長し、これが酸化ストレスや細胞障害を引き起こすと考えられています。
アルコールをほとんど摂取しないにもかかわらず、脂肪肝が進行しNASHに至る背景にはこうした生活習慣が大きく関与しています。

さらに、遺伝的要因や腸内環境の乱れも関係しているとされ、家族歴のある人では発症リスクが高まることがあります。
PNPLA3などの遺伝子多型がNASHの進展に関与しているとする研究もあります。
特にアジア人ではやせ型でもNASHを発症するケースがあり、肥満の有無だけではリスクの評価ができない点に注意が必要です。

その他、甲状腺機能低下症や多嚢胞性卵巣症候群、睡眠時無呼吸症候群といった疾患もNASHのリスク因子とされており、関連疾患の管理も予防の一環となります。

治療

NASHの治療は、生活習慣の是正が基本です。
まず体重管理が極めて重要であり、特に内臓脂肪型肥満のある人では5〜10%の体重減少が肝機能の改善に有効であると報告されています。
減量により肝内の脂肪沈着が減少し、炎症や線維化の進行が抑制されると考えられています。

食事療法

バランスの取れた食事を基本とし、糖質や脂質の過剰摂取を控えることが求められます。
特に精製された炭水化物や甘い飲料は、肝臓の脂肪蓄積を助長するため、できるだけ避けるようにします。
一方で、野菜や魚、大豆製品などを中心とした和食スタイルの食事が推奨されています。

運動療法

週に3〜5回、30分以上の中強度の有酸素運動が望ましいとされています。
筋力トレーニングもインスリン感受性を改善する効果があり、併用することでより良い効果が期待できます。

薬物療法

現時点でNASHに対する承認薬はありませんが、ビタミンEやピオグリタゾンといった一部の薬剤が肝機能を改善する効果を示す例もあります。
ただし、副作用のリスクもあるため、医師の管理下で慎重に使用されます。

糖尿病や高脂血症、高血圧といった合併症の管理もNASHの治療の一環です。
これらの疾患のコントロールが良好であることが、肝機能の維持と進行抑制につながります。

早期発見のポイント

NASHは症状が乏しく、気づかれにくいため、リスクのある人では積極的なスクリーニングが求められます。
定期健康診断でASTやALTの軽度上昇がみられた場合は、単なる脂肪肝ではなくNASHの可能性も念頭に置く必要があります。

腹部超音波検査は肝臓に脂肪が蓄積しているかを確認するために有用ですが、NASHの診断には限界があります。
MRIやFibroScan(エラストグラフィー)といった新しい非侵襲的検査は、肝線維化の程度を評価するのに役立ちます。

確定診断には肝生検が必要とされますが、侵襲的であるため、症例ごとに慎重な適応判断が求められます。
最近では血液マーカーや画像検査を組み合わせた非侵襲的な診断精度の向上が進んでおり、早期発見の手段として注目されています。

予防

NASHの予防には、日々の生活習慣の改善が最も効果的です。
第一に体重管理が重要で、内臓脂肪型肥満を防ぐことでNASHの発症リスクを大幅に減らすことができます。
体重が増えてきたと感じた段階で、早めに食生活や運動習慣を見直すことが大切です。

食生活

食事では、過剰な糖質や脂肪の摂取を避け、野菜・果物・魚・豆類などを中心としたバランスの良い食事を心がけます。
加工食品や清涼飲料水の過剰摂取は、脂肪肝の進展を助長するため控えるべきです。
1日3食を規則正しく摂ることで、肝臓への負担を減らすことも期待されます。

運動習慣

運動は脂肪燃焼とインスリン抵抗性の改善に有効です。
有酸素運動(速歩や水泳など)を定期的に行い、無理のない範囲で筋力トレーニングも取り入れると、基礎代謝の維持にも役立ちます。
1日30分程度の運動を週に3~5回継続することが推奨されます。

また、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病の管理も重要です。
これらの疾患がある場合は、血糖・コレステロール・血圧のコントロールを良好に保つことが、NASHの進行を防ぐ鍵になります。
定期的に健康診断を受け、肝機能の変化を早期に察知することも予防の一環です。

喫煙や過度の飲酒も肝臓に負担をかけるため、禁煙と節酒を心がけましょう。
ストレスや睡眠不足も内臓脂肪の増加に関係するため、日常生活全体を見直し、継続的に健康管理に取り組むことがNASH予防の基本です。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。