病気や症状についてわかりやすく伝える
医学情報サイト
肝硬変
疾患の概要
肝硬変は、慢性的な肝臓の炎症や障害が長期間続くことによって、肝臓の組織が線維化し、硬く変化していく病気です。
正常な肝細胞が徐々に失われ、肝臓の機能が低下するとともに、肝臓内の血流にも障害が生じます。
線維化が進行すると肝臓が再生結節という小さな塊を形成し、本来の均一な構造が破壊されることで、肝臓の代謝や解毒機能、胆汁の産生機能が著しく低下します。
肝硬変は、さまざまな肝疾患の終末像として現れることが多く、主な原因にはC型肝炎やB型肝炎などのウイルス性肝炎、長期間にわたる過剰なアルコール摂取、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などが挙げられます。
特に日本ではかつてC型肝炎が主な原因でしたが、最近ではNASHやアルコール性肝障害の割合が増加しています。
肥満や糖尿病などの生活習慣病の増加に伴い、肝硬変の原因構造にも変化がみられています。
肝硬変は大きく分けて、代償性肝硬変と非代償性肝硬変の2つの病期に分類されます。
代償性肝硬変は、肝臓の機能がまだある程度保たれており、目立った症状がないか軽度である状態です。
一方、非代償性肝硬変では、肝臓の機能が著しく低下し、黄疸、腹水、食道静脈瘤からの出血、肝性脳症などの重篤な症状が現れます。
これらの症状は生命を脅かすものであり、適切な治療を行わなければ短期間で病状が進行する可能性があります。
肝硬変は、初期にはほとんど症状がありませんが、病状が進行すると黄疸、腹水、食道静脈瘤、意識障害(肝性脳症)などの症状が現れ、生命を脅かす合併症を引き起こすことがあります。
特に、門脈圧亢進症(門脈の圧力が高くなる状態)により、腹水や脾腫、消化管出血などが生じることがあり、生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。
また、肝硬変の状態が長く続くと、肝臓がん(肝細胞がん)の発生リスクが高まることも知られており、定期的な検査と経過観察が重要です。
肝がんは進行が早く、初期は無症状であるため、早期に発見し治療につなげるためにも、半年に1回程度の超音波検査や腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)などの測定が推奨されています。
近年では、抗ウイルス療法や生活習慣の改善、薬物治療によって肝硬変の進行を抑制することが可能となってきており、早期の段階での介入が予後の改善につながります。
C型肝炎に対しては、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)によってウイルス排除が可能となり、肝硬変への進展リスクを大幅に下げることができるようになりました。
B型肝炎に対しても、抗ウイルス薬によるウイルス抑制が進行抑制に有効とされています。
生活習慣に起因するNASH由来の肝硬変では、肥満の改善や糖尿病の管理が肝機能維持に欠かせません。
適切な栄養管理、適度な運動、アルコール摂取の制限などが基本となり、医師や栄養士、看護師とのチーム医療が重要な役割を果たします。
非代償期に移行した場合には、症状の緩和と合併症の予防を目的とした治療が中心となり、腹水に対する利尿薬や肝性脳症へのラクツロース投与などが行われます。
さらに、肝移植は進行した非代償性肝硬変や肝がん合併例に対する唯一の根治的治療法として位置付けられており、条件が整えば移植によって長期生存が期待されます。
ただし、ドナーの確保や適応基準、移植後の免疫抑制管理など課題も多く、専門施設での慎重な評価が必要です。
症状が出る前の段階で肝硬変に気づき、適切な管理を行うことが、重篤な合併症を防ぐ鍵となります。
肝硬変は慢性的に進行するため、日常的な健康管理や定期的な肝機能チェックが予防と早期対応の基本となります。
現在では多くの治療選択肢があることから、医療機関での早期相談が望まれます。
症状
肝硬変の初期には明らかな自覚症状がないことが多く、血液検査や画像検査で偶然発見されることも少なくありません。
進行するにつれて、倦怠感、食欲不振、体重減少、易疲労感などの非特異的な症状が徐々に現れてきます。
これらの症状は、肝臓の代謝機能の低下や栄養障害によるものと考えられています。
病状がさらに進行すると、肝臓の解毒機能が低下し、血中にアンモニアなどの有害物質が蓄積されることで意識障害を引き起こす肝性脳症が現れることがあります。
また、肝臓内の血流障害によって門脈圧が上昇し、腹水や下肢の浮腫、脾腫、食道・胃静脈瘤などの合併症が引き起こされます。
静脈瘤が破裂すると、吐血や下血を起こし、時に致命的となることもあります。
黄疸(皮膚や眼球が黄色くなる)や皮膚のかゆみ、手掌紅斑、蜘蛛状血管腫といった皮膚症状も肝硬変の進行に伴って見られるようになります。
男性では女性化乳房や睾丸萎縮といったホルモンバランスの異常が起こることもあります。
肝臓がんの合併により、急激な症状の悪化や腫瘤の触知などが見られることもあります。
原因
肝硬変の主な原因は、長期にわたる肝臓の炎症または障害です。
ウイルス性肝炎、特にC型肝炎ウイルス(HCV)およびB型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染が主要な原因であり、長期間にわたる慢性肝炎を経て肝硬変に進行することが多いです。
日本ではC型肝炎がかつての主因でしたが、治療薬の進歩によって新規感染は減少傾向にあります。
アルコール性肝障害もまた、頻度の高い原因の一つです。
長期間にわたる多量飲酒により肝臓に脂肪が沈着し、アルコール性肝炎を経て肝硬変へと進展します。
飲酒の量と期間が重要なリスク因子となっており、特に男性では日常的な過度の飲酒が背景にあることが多く見られます。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)も近年注目されている原因で、肥満、糖尿病、脂質異常症といったメタボリックシンドロームに起因する脂肪肝が進行して肝硬変に至るケースが増加しています。
NASHは自覚症状に乏しいため、発見が遅れやすい点にも注意が必要です。
その他、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、ウィルソン病、薬剤性肝障害、寄生虫感染なども肝硬変の原因となることがあります。
これらの疾患では、適切な治療が行われない場合、慢性的な肝障害が進行し、最終的に肝硬変へと至る可能性があります。
治療
肝硬変の治療は、原因の除去および進行の抑制、合併症の管理を柱とした総合的なアプローチが必要です。
ウイルス性肝炎が原因の場合は、抗ウイルス薬による治療が行われ、ウイルスの排除や抑制によって肝硬変の進行を防ぐことが可能です。
特にC型肝炎では、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)によって高い治療効果が得られています。
アルコール性肝硬変に対しては、断酒が最も重要な治療です。
飲酒を続けると症状の悪化や肝不全の進行が避けられないため、断酒とともに栄養管理やビタミン補充が行われます。
NASHや生活習慣病に起因する肝硬変では、減量や運動、食事療法が中心となります。
糖尿病や高脂血症、高血圧の管理も同時に行うことで、肝臓への負担を軽減します。
肝硬変による合併症への対応も欠かせません。
腹水に対しては、塩分制限、利尿薬の使用、重度の場合には腹水穿刺や腹腔シャントが検討されます。
食道静脈瘤には内視鏡的硬化療法や結紮術が行われ、出血の予防と治療がなされます。
肝性脳症にはラクツロースなどの薬剤が使用され、アンモニアの排泄を促進することで意識障害を改善します。
進行した肝硬変では、肝移植が唯一の根治的治療となることがあります。
移植にはドナーの確保や適応条件の確認が必要であり、専門施設での管理が必要です。
早期からの包括的な医療支援が、肝硬変患者の生命予後とQOLの向上につながります。
早期発見のポイント
肝硬変は進行性疾患であり、早期発見による予後の改善が期待されます。
自覚症状が乏しい初期段階では、定期的な健康診断や血液検査、腹部超音波検査などが早期発見の手段となります。
AST、ALTの持続的な上昇、血小板数の減少、アルブミンの低下などがあれば、精密検査を受けることが勧められます。
また、肝疾患のリスク因子を持つ人、特にウイルス性肝炎や飲酒歴、肥満、糖尿病などのある人は、定期的な肝機能チェックが重要です。
最近では、フィブロスキャンやエラストグラフィーなどの非侵襲的な肝線維化評価法が用いられ、肝硬変の診断に役立っています。
血液検査で異常を指摘されたら、肝疾患の専門医を受診し、詳細な画像検査や必要に応じて肝生検を行うことで、診断が確定します。
無症状のうちに肝硬変に気づくことができれば、進行の予防や肝がん発症リスクの管理がしやすくなります。
予防
肝硬変の予防には、原因となる肝疾患を早期に診断し、適切に治療することが基本です。
ウイルス性肝炎ではワクチン接種(B型)や抗ウイルス薬の使用(B型・C型)が推奨され、早期治療により肝炎から肝硬変への進行を防ぐことができます。
アルコール性肝障害の予防には、適量の飲酒または禁酒が重要です。
大量飲酒を習慣としている人では、早い段階での断酒が肝臓の再生を促し、進行を防ぐカギとなります。
また、NASH予防として、肥満、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を適切に管理することも欠かせません。
日常生活では、バランスの良い食事、定期的な運動、適切な体重の維持、十分な睡眠、ストレスの軽減などが、肝臓の健康を守るために効果的です。
定期的な健康診断によって肝機能をチェックすることも早期予防に直結します。