大阪府大阪市東住吉区駒川5丁目23−18
針中野医療ビル(針中野クリニックモール) 2F

病気や症状についてわかりやすく伝える
医学情報サイト

肺気腫

息切れ息苦しさ

疾患の概要

肺気腫は、肺の中で酸素と二酸化炭素の交換を行う小さな袋状の組織である肺胞が壊れてしまい、呼吸が十分にできなくなる病気です。
慢性的に肺の構造が破壊されて肺に空気が溜まりやすくなるため、息を吐き出しにくくなり、体内に酸素が不足しがちになります。
肺気腫は「慢性閉塞性肺疾患」と総称される病気群の一つであり、しばしば慢性気管支炎を合併します。
慢性閉塞性肺疾患は近年「肺の生活習慣病」とも呼ばれており、主にタバコ煙などの有害物質を長年吸い込むことが原因で起こる進行性の肺疾患です。
肺気腫はゆっくりと進行し、一度壊れてしまった肺胞は元に戻らないため、完全に治す治療法はありません。
多くの場合、中高年になってから症状が現れ始める慢性疾患であり、初期のうちは自覚症状が乏しく胸部レントゲン検査でも異常が出にくいため、病気に気付かず進行してしまうことが一般的です。
日本人40歳以上では約530万人が慢性閉塞性肺疾患に罹患すると推計され、その約90%が未診断だったとの報告があります。

症状

肺気腫の初期には目立った症状が現れないこともあります。
しかし病気が進行するにつれて、咳や痰が長期間続くようになり、呼吸する際にゼーゼーと喘鳴が聞こえたり、体を動かしたときに息苦しさを感じたりするようになります。
典型的には、歩行や階段昇降といった軽い運動でも息切れしやすくなり、休息が必要になることが増えてきます。
患者さん自身は当初「年のせい」や「体力の低下」が原因と思い込み、活動量を減らして対処しがちですが、症状が徐々に悪化する場合には肺気腫を疑う必要があります。
さらに肺気腫が高度になると、安静にしていても呼吸が苦しくなることがあります。
慢性的な息切れのため身体活動が制限され、食欲不振や体重減少がみられることもあります。
肺気腫は日本において自宅で酸素吸入を行う治療の導入理由として最も多い疾患であり、重症になると常時酸素吸入が必要となるケースも少なくありません。
病状の進行とともにウイルスや細菌による気管支炎・肺炎を合併しやすくなり、その際は咳や痰の増加、発熱、呼吸困難の悪化など急激に症状が悪化する急性増悪が起こることがあります。

原因

肺気腫の最大の原因は喫煙です。
長年にわたりタバコの煙を吸入することで肺に慢性の炎症が生じ、気管支や肺胞が次第に傷つけられていきます。
喫煙習慣のある人のうち約15~20%が肺気腫を含む慢性閉塞性肺疾患を発症するとされています。
また、発症には個人の遺伝的な要因も影響すると考えられています。
特に若い年代で肺気腫を発症した場合、α1-アンチトリプシン欠乏症という遺伝性疾患が原因となっている可能性があります。
この病気では肺胞を保護するタンパク質が先天的に不足するため、喫煙歴のない人でも中年までに肺気腫を発症することがあります。

タバコ以外の肺への刺激物もリスク要因となり得ます。
例えば、職場で粉塵や化学物質の煙を長期間吸い込む環境にいると肺に炎症が起こりやすく、慢性閉塞性肺疾患の発症率が高まります。
大気汚染が深刻な地域で長年過ごすことも肺への負担となり、将来的に肺気腫のリスクを上昇させる可能性があります。
さらに受動喫煙も健康に有害ですので、家庭や職場でタバコの煙を吸う状況はできるだけ避けましょう。

治療

肺気腫は残念ながら完全に治癒させることはできませんが、適切な治療によって症状を和らげ進行を遅らせることが可能です。
治療と管理の目標は、息苦しさなどの症状を軽減して日常生活の質を改善するとともに、肺機能の低下スピードをできるだけ抑え、将来的な合併症や急性増悪を防ぐことにあります。
患者さん一人ひとりの症状の程度や肺機能検査の結果に応じて、ガイドラインに沿った段階的な治療が行われます。

禁煙

最も重要な治療・対策は禁煙することです。
喫煙を続けると肺機能の悪化が加速するため、肺気腫と診断された方はできるだけ早くタバコを断つ必要があります。
禁煙補助のための薬も保険適用で使用できるため、意志だけでやめることが難しい場合は禁煙外来で専門の支援を受けましょう。

薬物療法

呼吸を楽にする吸入薬を中心とした薬物療法が行われます。
代表的な薬剤は気管支を拡げる長時間作用型の吸入薬で、細くなった気道を広げて息切れを軽減させます。
症状や病状に応じて、気管支拡張作用を持つテオフィリン製剤や咳止め薬、痰を出しやすくする薬などを併用することもあります。
病状が重く増悪を繰り返す場合には、炎症を抑えるステロイド吸入薬が追加されるケースもあります。

呼吸リハビリテーション

薬物療法に加え、呼吸リハビリも重要です。
医療スタッフの指導の下、息切れを軽減する口をすぼめてゆっくり息を吐く方法や腹式呼吸を練習します。
さらに、ウォーキングなどの運動療法や脚の筋力トレーニングによって持久力の維持・向上を図り、息切れの自覚を軽くします。

在宅酸素療法

病状が進行して肺から取り込める酸素の量が不足すると、在宅酸素療法の適応になります。
これは自宅や外出先で酸素ボンベなどを使って酸素吸入を継続する治療法です。酸素を長時間吸入することで臓器への酸素供給が維持され、心臓への負担軽減にもつながります。
その結果、息苦しさが和らぎ日常生活の安全性が高まります。

外科的治療

肺気腫による病変が肺内に不均一に分布している場合には、肺の一部を切除する肺容量減少術が検討されることがあります。
過度に膨らんで機能を失った肺の部分を取り除くことで、残った肺が膨らみやすくなり呼吸機能の改善が期待できます。
ただし、この手術によって肺気腫が根本的に治るわけではなく、残った正常な部分も徐々に気腫化が進行するため完治には至りません。

なお、肺気腫の患者さんは肺炎やインフルエンザにかかると症状が悪化しやすいため、予防接種の活用も推奨されます。
特にインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンは毎年または定期的に接種し、呼吸器感染症の予防に努めてください。
感染症による急性増悪を減らすことで、病状の安定維持につながります。

早期発見のポイント

肺気腫は初期には症状が乏しく、気付かないうちに進行していることが多い病気です。
特に喫煙者の方は、「長引くせきや痰」「軽い運動で息切れがする」といったサインを見逃さないことが大切です。
こうした症状がある場合には、加齢や体力のせいにせず早めに医療機関で相談してください。
肺機能検査と呼ばれる呼吸の検査を行えば、肺気腫を含む慢性閉塞性肺疾患の診断ができます。
肺機能検査では、息を深く吸ってから一気に吐き出す息の量や肺活量を測定し、気道の閉塞の程度を評価します。
なお、胸部レントゲン検査だけでは初期の肺気腫を捉えにくいとされています。

早期に肺気腫を発見して治療を始めることで、病状の進行を遅らせ症状の悪化を防ぐことが期待できます。
医療機関を受診した際には、問診で喫煙習慣や息切れの症状を医師にしっかり伝えてください。それによって慢性閉塞性肺疾患の可能性に医師が早く気付きやすくなります。
自身や身近な方に当てはまる症状があれば、放置せずに呼吸器内科を受診することが早期発見・早期治療につながります。

予防

肺気腫の予防で何よりも重要なのは、原因となるタバコの煙を遠ざけることです。
喫煙をしないことが最大の予防策であり、現在喫煙している方はできる限り早く禁煙することが何よりも大切です。
喫煙習慣を断つことで肺気腫のみならず肺がんや心臓病など他の病気のリスクも下げることができます。
家庭や職場で他人のタバコ煙を吸っている方は、喫煙者に分煙や禁煙を促したり、自身も換気やマスク着用を心掛けたりして、なるべく煙を吸わない工夫をしましょう。

また、粉塵や煙を吸い込まない工夫も予防に有効です。
粉塵が舞う職場では防塵マスクを使用し、屋内では十分に換気を行いましょう。
日頃から適度に体を動かし、栄養バランスの良い食事と休養で体力を維持することも肺の健康を守る助けになります。

このように肺気腫は喫煙との関わりが深い病気ですが、生活習慣を改善することで予防可能な側面を持っています。
タバコを吸わない人であっても、咳や息苦しさが長引く場合には油断せず医療機関で相談し、肺気腫の早期発見・予防に努めてください。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。