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脂質異常症
疾患の概要
脂質異常症とは、血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪の値が高すぎるか、逆に善玉コレステロールの値が低すぎる状態を指します。
この病気は生活習慣病の一つで、かつては高脂血症とも呼ばれていました。
脂質異常症には主に3つのタイプがあります。
① 悪玉コレステロールが高い「高LDLコレステロール血症」
② 善玉コレステロールが低い「低HDLコレステロール血症」
③ 中性脂肪が高い「高トリグリセリド血症」
これらはいずれの場合も動脈硬化を促進し、中でも悪玉コレステロールが高い状態が最も重大なリスクとされています。
脂質異常症は遺伝的な要因に加えて、食生活や運動習慣などの生活習慣や加齢によって起こります。
特に中高年以降の発症が多く、女性の場合は閉経による女性ホルモンの低下に伴って悪玉コレステロールや中性脂肪が急増し、60歳頃には女性のコレステロール値が男性を上回る傾向があることが知られています。
脂質異常症そのものは自覚症状に乏しいものの、放置すれば動脈硬化が進行して狭心症や心筋梗塞、脳卒中など命に関わる重篤な病気の原因となります。
早めに気付き適切に対処することが大切です。
症状
脂質異常症はそれ自体で明確な症状を起こすことはほとんどありません。
多くの患者さんは体調に問題を感じないまま過ごしており、健康診断の血液検査で初めてコレステロールや中性脂肪の異常を指摘されて発覚するケースが大半です。
自覚症状がないからといって安心はできず、この状態が長く続くと動脈硬化が静かに進行していきます。
動脈硬化が進んでしまうと、症状は血管が詰まる部位によって現れます。
例えば、心臓の血管が狭くなれば胸の痛みや圧迫感や心筋梗塞を起こし、脳の血管であれば脳梗塞や脳卒中による麻痺などの症状が現れる可能性があります。
また中性脂肪の値が極めて高い場合は、膵炎を起こして激しい腹痛の原因になることがあります。
ごくまれに、コレステロールが非常に高い人では皮膚や腱にコレステロールの塊が沈着し、黄色いしこりとして現れることも報告されています。
これらの症状は特殊な場合であり、一般的には脂質異常症そのものでは症状が出ないため、症状の有無にかかわらず定期的に検査を受けることが重要です。
原因
脂質異常症の原因にはさまざまなものがあります。
大きく分けて、体質による「一次性」のものと、他の病気や要因による「二次性」のものがあります。
食べ過ぎや脂肪分の多い偏った食事、運動不足、肥満、喫煙、多量の飲酒といった生活習慣の乱れが血中脂質の異常に大きく影響します。
特に飽和脂肪酸やコレステロールを多く含む食品の過剰摂取は悪玉コレステロールや中性脂肪を増やす原因になります。
家族性高コレステロール血症のように、生まれつき悪玉コレステロールが非常に高くなる遺伝的体質が原因で起こる場合があります。
このような場合、若いうちから動脈硬化が進みやすくなります。
甲状腺機能低下症や糖尿病、慢性腎臓病など、別の病気が原因でコレステロールや中性脂肪が増加することがあります。
これを二次性脂質異常症と呼びます。
また、利尿剤や一部の降圧薬・ホルモン製剤など長期服用している薬の影響で脂質の値が上がる場合もあります。
年齢とともにコレステロール値は少しずつ上昇します。
特に女性は閉経を境にコレステロール値が上がりやすく、先述のとおり閉経後には悪玉コレステロールが急増して60歳前後では男性より高くなる傾向があります。
一方、若い世代でも食生活の欧米化や運動不足により脂質異常症になる人が増えており、年齢に関係なく注意が必要です。
治療
脂質異常症と診断された場合でも、早期であれば生活習慣の改善によって十分にコントロールできることが多いです。
病院で薬による治療を始める前に、まずは食事療法や運動療法など日常生活の見直しを行います。
自己判断で極端な食事制限をしたり、急に過激な運動を始めたりすると体に負担をかけて逆効果になる恐れがあるため、無理のない範囲で取り組むことが大切です。
以下に主な治療法のポイントを示します。
食事療法
コレステロールや動物性脂肪の多い食品を控え、野菜や海藻、豆類などに含まれる食物繊維を十分に摂るバランスの良い食事を心がけます。
揚げ物や脂身の多い肉類のとりすぎに注意し、魚や大豆製品、植物油など適度に取り入れましょう。
運動療法
続けやすい有酸素運動を定期的に行います。
例えば無理のない範囲でのウォーキングやサイクリング、水泳などを週3回程度、1回30分以上行うことが目標です。
運動により善玉コレステロールが増加し、中性脂肪が減少しやすくなります。
生活習慣の改善
喫煙習慣のある方は禁煙を目指しましょう。
タバコは動脈硬化を進めるだけでなく善玉コレステロールを低下させます。飲酒は適量にとどめ、過度の飲酒は控えることが大切です。
十分な睡眠やストレスの軽減も含め、生活リズムを整えることが治療の一環となります。
薬物療法
食事・運動療法を行っても改善が不十分な場合や、リスクが高い場合には薬の力を借ります。
コレステロールを下げる薬剤としてはスタチンという肝臓でのコレステロール合成を抑える薬が第一選択でよく使われます。
スタチン系薬剤には各種あり、悪玉コレステロールを有効に低下させます。
必要に応じて、小腸でのコレステロール吸収を抑えるエゼチミブや、主に中性脂肪を下げるフィブラート系薬剤などが併用・選択されます。
さらに、重症例や家族性高コレステロール血症の患者さんには、PCSK9阻害薬といった新しい注射薬や血液浄化による悪玉コレステロール除去療法など特殊な治療が行われることもあります。
薬物治療が開始された後も、生活習慣の改善は引き続き重要であり、定期的な通院による効果の確認と薬の調整が必要です。
早期発見のポイント
脂質異常症は症状が乏しく自分では気付きにくいため、早期発見には定期的な健康診断が欠かせません。
健康診断では血液検査によって総コレステロールや善玉・悪玉コレステロール、中性脂肪の値を調べることができますが、特に40歳以上の方や危険因子をお持ちの方は毎年1回はチェックすることが望ましいでしょう。
血液検査の際は食後だと中性脂肪値が一時的に上昇するため、本来は空腹時で測定するのが理想です。
会社や自治体の検診の結果で「境界値」や「要経過観察」と言われた場合には放置せず、早めに生活改善を始めたり医療機関に相談したりすることが早期発見・早期治療に繋がります。
ご自身や家族の中に若い頃からコレステロールが高いと言われた人、あるいは若年で心筋梗塞や脳梗塞を起こした方がいる場合には、通常より早い時期から脂質の検査を受けることが勧められます。
脂質異常症は高血圧症や糖尿病と並んで動脈硬化の危険因子となるため、これら他の生活習慣病の有無も含めて総合的にチェックすることが重要です。
日頃から自身の健康状態や検査結果に関心を持ち、必要に応じて早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
予防
脂質異常症の予防には日々の生活習慣を整えることが何より大切です。特に若いうちから以下のポイントに注意することで、中高年になってからの発症リスクを減らすことができます。
バランスの良い食事
普段から野菜や果物、魚、大豆製品などを取り入れ、コレステロールや動物性脂肪の多い食品ばかりを食べないようにしましょう。
ファストフードやスナック菓子、加工食品のとりすぎにも注意が必要です。
適正エネルギー量の食事で標準体重を維持することが予防につながります。
適度な運動
継続できる運動習慣を持つことが大切です。
通勤や通学で歩く距離を増やす、エレベーターではなく階段を使うといった日常の工夫でも構いません。
定期的な運動は善玉コレステロールを増やし、動脈硬化の予防に役立ちます。
禁煙と節度ある飲酒
喫煙は動脈硬化の大きな危険因子です。
脂質異常症のみならず様々な病気の予防のためにも禁煙に努めましょう。
また飲酒習慣がある方は、ビールや日本酒なら1日中瓶1本程度、ワインならグラス2杯程度までとし、飲み過ぎないよう節度を守ります。
適量の飲酒は善玉コレステロールを増やす可能性がありますが、過度の飲酒は中性脂肪を増やすため逆効果です。
その他の生活管理
高血圧や糖尿病など他の生活習慣病をお持ちの場合は、適切に治療しコントロールすることが結果的に脂質異常症の予防にもなります。
定期健診を受け、自分のコレステロール値や中性脂肪値の傾向を把握しておくことも有用です。
そして予防のためとはいえ、極端なダイエットや過激な運動はかえって健康を害する恐れがあるため避けましょう。
無理なく続けられる範囲で、できることから生活習慣の改善を始めることが脂質異常症の予防に繋がります。