病気や症状についてわかりやすく伝える
医学情報サイト

クローン病

腹痛下痢体重減少発熱・高熱血便・黒色便食欲不振 大腸・十二指腸の病気

疾患の概要

クローン病は、消化管に慢性的な炎症を起こす炎症性腸疾患の一つです。
小腸の下部や大腸に特に炎症や潰瘍が生じやすいものの、口から肛門まで消化管のどの部位でも発症する可能性があります。
炎症は一箇所だけでなく正常な部分を挟んで飛び飛びに発生する傾向があり、腸の壁の浅い粘膜層から深い層まで達することが特徴です。
このため、消化管に深い潰瘍ができることで瘻孔や腸管の狭窄などの合併症を引き起こすことがあります。
クローン病は基本的に慢性疾患であり、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す寛解と再燃の経過をたどります。
一度の発症で完全に治ることはまれで、生涯にわたり適切な治療と付き合っていく必要がある病気です。

はっきりとした原因が分かっていないことからクローン病は国の指定難病に指定されています。
「指定難病」と聞くと不安を感じるかもしれませんが、現在では治療の選択肢も広がっており、治療をしっかり継続すれば安定した生活を維持することができます。

発症は主に10代後半から30代前半に多く、国内では男性の患者さんが女性よりやや多い傾向があります。
若年者に好発するとはいえ、まれに50~70歳代で発症する例も報告されています。

症状

クローン病の主な症状は、腹部の慢性的な不調です。
具体的には、けいれん性の腹痛や下痢、発熱、食欲不振、体重の減少などが主な症状で、下痢には血液が混じることも見られます。
腹痛はおなかの右下などに起こりやすく、しばしば数日から数週間にわたって症状が続きます。
これらの消化器症状に加えて全身のだるさや貧血による疲労感を訴える人もいます。
また、小腸での栄養吸収障害が強い場合には栄養不良となり、成長期の患者さんでは身長の伸び悩みなど成長障害が現れることもあります。

クローン病では肛門周囲の症状も重要なサインです。
約3割の患者さんでは、病気の最初期に肛門周囲の病変が現れるとされています。
とくに若い年代で原因不明の肛門周囲の痛みや腫れ、膿が出るといった症状がみられる場合、クローン病の可能性を念頭に置くことが大切です。
肛門部の裂傷がみられるケースもあります。
これら肛門の症状は、ともすれば痔など良性の疾患と誤解されがちですが、実は消化管内のクローン病の病変に伴って起こることが多く、早期発見の重要な手がかりになります。

さらにクローン病は、消化管以外の部位にも影響を及ぼすことがあります。
腸管外合併症と呼ばれるもので、代表的なものに関節炎、口内炎、皮膚の赤いしこりや難治性の潰瘍、目の炎症などがあります。
これらの症状は必ずしも全員に起こるわけではありませんが、下痢や腹痛といった腸の症状に加えてこうした症状がみられる場合もクローン病が疑われます。
また、長期に疾患が持続することで腸管の狭窄や瘻孔が慢性合併症として生じ、場合によっては消化管からの大量出血や腸閉塞、消化管穿孔といった重篤な症状を呈することもあります。

このようにクローン病の症状は消化管に限らず多彩であり、病変の場所や広がりによって個人差が大きい点も特徴です。

原因

クローン病の明確な原因は未だ解明されていません。
現在の医学的な見解では、複数の要因が重なって発症に至ると考えられています。

具体的には遺伝的な素因と、食生活や腸内細菌、感染症などの環境要因が相互に影響し、腸の中で免疫システムの異常な反応が起こることが発症の背景にあると推測されています。

遺伝的要因

家族内でクローン病が発症する例も知られていますが、遺伝病というほど強く遺伝するわけではなく、あくまで発症しやすさに個人差をもたらす一因と考えられます。
一卵性双生児でも両方が発症するとは限らないことから、遺伝だけでなく環境因子の関与が重要とされています。

環境因子

環境因子としては、食習慣との関連が指摘されています。
脂肪分や糖分の多い食事はクローン病のリスクを高める可能性があることが報告されています。
食事以外にも腸内細菌のバランスの乱れやウイルス・細菌感染がきっかけとなり、腸の免疫系が過剰に反応して炎症を引き起こす誘因となる場合があります。

また喫煙はクローン病発症および再燃の明確なリスク要因であり、喫煙者は非喫煙者に比べて本疾患になりやすく、症状も悪化しやすいことが分かっています。
そのほか、経口避妊薬もわずかに発症リスクを高める可能性が示唆されています。
一方でストレスや精神的要因が直接の原因となる証拠はありません。
ただしストレスが全く無関係というわけではなく、ストレスの増大が腸の動きや免疫に影響を与え、結果的に症状悪化の誘因となる場合もあります。

総じて、クローン病は原因不明の難治性疾患ではありますが、遺伝的背景に現代の食生活や喫煙習慣などが加わり免疫異常を引き起こすことで発症するものと考えられています。

治療

現在、クローン病そのものを根本的に治す完治療法は存在しません。
しかし、適切な治療を行うことで炎症を抑え症状を和らげ、長期にわたり寛解を維持することが可能です。
治療の目標はできるだけ早く炎症を鎮めて寛解に導き、その状態を長く保つことで腸管の瘻孔や狭窄など不可逆的な合併症を防ぎ、患者さんの生活の質を維持・向上させることにあります。
治療法には大きく分けて栄養療法と薬物療法、必要に応じて外科的治療があります。
患者さん一人ひとりの病変の部位・広がりや重症度に合わせて、それぞれの治療を組み合わせて進めていきます。

栄養療法

クローン病治療の基本の一つとなる方法です。
腸にかかる負担を軽減し、必要な栄養を補給することで炎症の鎮静化と体力維持を図ります。
具体的には、消化管を休めるために脂肪分など腸を刺激しやすい成分を極力含まない成分栄養剤を経口または経管投与する方法が広く用いられています。
成分栄養剤は消化吸収が良く腸への刺激が少ない特殊な栄養食で、食事の一部または全部を置き換えて使用します。
症状が強く腸管を完全に休ませる必要がある場合は点滴による栄養補給を一時的に行うこともあります。
栄養療法は炎症の寛解導入にも寛解維持にも有効であることが確認されており、薬物療法と並んで重要な治療手段です。

薬物療法

炎症を抑えて症状を改善・維持することを目的に、さまざまな薬が使われます。
まずは腸の炎症を抑えるための消炎剤が用いられるのが一般的です。
これらの薬や栄養療法だけでは効果が不十分な場合や、症状が中等度以上に強い場合には、強力な抗炎症作用をもつステロイドが検討されます。
ステロイドは急性期の症状をすばやく鎮めるのに効果的ですが、長期使用による副作用のリスクがあるため、一定期間で減量・中止することが基本となります。

ステロイドで症状が落ち着いた後には、再燃を防ぐ目的で免疫の働きを調整する薬が少量追加されることがあります。
これらの薬は、効果が出るまでに時間がかかるものの、長期的な病状の安定に役立ちます。
ただし、白血球の減少や肝機能の変化など副作用にも注意が必要です。
特に日本人では副作用に関連する体質があることから、あらかじめ遺伝子検査を行い、その結果に応じて薬の量を調整することもあります。

さらに近年では、炎症の原因となる物質に直接働きかける新しいタイプの治療薬である生物学的製剤が登場し、治療の幅が大きく広がっています。
これらの薬は、従来の治療では十分な効果が得られなかったケースにも有効とされ、症状の改善や再発の予防に役立っています。
また、異なる働きをもつ生物学的製剤も開発されており、患者さんの状態や反応に応じて使い分けられるようになってきました。
こうした新しい薬の導入により、以前は手術が避けられなかったような難治の症例でも、内科的な治療でコントロールできるケースが増えています。

外科的治療

内科的治療にもかかわらず合併症が重篤な場合や腸管の不可逆的な障害が生じた場合には外科手術が検討されます。
具体的には、腸の狭窄が高度で食事が通らなくなったケース、消化管に穿孔や巨大な膿瘍が生じたケース、消化管からの大量出血が続くケース、腸管から別の腸管や膀胱、皮膚などへ瘻孔が形成されたケース、長年の炎症で癌が合併したケースなどでは手術が必要になります。
クローン病患者さんのうち半数以上が発症後10年以内に何らかの外科手術を経験するとも言われています。
代表的な術式は病変部位の腸を切除する手術ですが、クローン病は手術をしても病気自体が治るわけではなく、残った腸の別の箇所に再び炎症が起こる可能性があります。
そのため切除範囲は必要最小限にとどめ、できるだけ腸を温存することが重要です。
近年は内視鏡的に狭窄部を広げるバルーン拡張術が行われることもあり、手術を回避できる場合もあります。
どうしても手術が必要な場合には、患者さんの負担を減らすため腹腔鏡下手術で小さな傷で行うことが一般的です。
術後は再発予防のため内科的治療を継続し、再燃の兆候がないか定期的にフォローアップします。

早期発見のポイント

クローン病は症状が多彩であり、初期には比較的軽症で一見深刻に見えないこともあります。
しかし放置すると炎症が長期間持続し、合併症のリスクが高まるため早期発見・早期治療が何より重要です。
以下のようなポイントに注意することで、クローン病の早期発見につなげることができます。

長引く腹痛や下痢

単なる胃腸炎やストレス性の腹痛と思っていた症状が、数週間以上も改善せずに続く場合は注意が必要です。
特に夜間にも下痢で目が覚める、発熱や体重減少を伴うといった場合、炎症性腸疾患の可能性があります。
一度治まっても繰り返す腹痛・下痢は放置せず、消化器内科を受診して原因を調べてもらいましょう。

若年者の肛門病変

若い世代で肛門周囲の痔ろうや膿瘍が生じた場合はクローン病を疑う大切な手がかりです。
肛門周囲の症状は肛門科で治療されることも多いですが、原因として腸の炎症が隠れていないか評価することが早期診断につながります。
肛門の治療をしても再発を繰り返す場合には、消化管を含めた精密検査を検討してください。

原因不明の発熱や体重減少

腹痛や下痢が目立たなくても、なんとなく微熱が続く、食欲が低下して体重が減ってくるといった全身症状のみで始まるケースもあります。
特に若年者でこれといった感染症もないのに発熱ややせが見られる場合、念のため消化器系の病気も視野に入れておくと安心です。

炎症反応の持続

健康診断や他の病気の検査で偶然に血液中の炎症反応の上昇や貧血が見つかり、その原因がはっきりしない場合も要注意です。
自覚症状が軽度でも、炎症性腸疾患が潜んでいる可能性があります。
腹部超音波検査や消化管の内視鏡検査などで詳細を確認することで、早期の病変発見につながります。

上記のようなポイントに当てはまる場合、早めに医療機関で大腸内視鏡検査など精密検査を受けることが勧められます。
クローン病は内視鏡検査や画像検査で腸の状態を直接観察することで診断されます。
特に大腸と小腸の境目は内視鏡で確認しやすく、多くの患者さんで炎症の所見が認められる部位です。
カプセル内視鏡やMRI検査など、新しい検査手段も組み合わせることで小腸の奥にある病変も早期に発見できるようになっています。
早期に診断し治療を開始すれば、炎症が拡がる前に対処でき、将来的な手術や重篤な合併症を減らせる可能性があります。

予防

残念ながら、現時点でクローン病の発症自体を確実に予防する方法は確立されていません。
原因が明確でない以上、「これをすれば発症を防げる」という特効策はないのが実情です。
ただし、生活習慣の見直しによって発症リスクを下げたり、すでに患っている場合には再燃を予防したりする効果が期待できるとされています。
次のようなポイントに留意することが大切です。

禁煙

喫煙はクローン病の発症リスクを高め、病状を悪化させることが明らかになっています。
実際に喫煙者は非喫煙者に比べて本疾患の再燃率が高いとの報告もあります。
クローン病の予防策として最も有効なのは禁煙と言ってよく、喫煙習慣のある方はできるだけ早くタバコを断つようにしましょう。
これは本人の喫煙だけでなく、まわりの人が吸うたばこの煙による受動喫煙にも注意が必要です。
周囲の理解と協力も、再発予防の一環となります。

食生活

過度に油っこい食事や高脂肪・高糖質の食習慣は避け、野菜やたんぱく質をバランス良く含んだ規則正しい食生活を心がけましょう。
ファストフードや糖分の多い飲食物ばかり摂る食生活はクローン病発症との関連が指摘されています。
一方で特定の食品だけで予防や治療ができるわけではありませんので、栄養バランスの取れた食事を心掛けることが大切です。
すでにクローン病と診断されている場合、症状が落ち着いている寛解期であれば必要以上に厳しい食事制限は不要ですが、脂肪分や食物繊維の少ない消化に優しい食事が推奨される傾向があります。
自分にとって下痢や腹痛を起こしやすい食品が分かっている場合は、それを避けるなど工夫しましょう。

適度な運動とストレスケア

規則的な生活と適度な運動を続けることは、腸の働きを安定させるうえで効果的です。
クローン病の発症を運動で防げるというはっきりした根拠はまだないものの、体力維持やストレス解消につながり、結果的に腸内環境の改善や免疫バランスの安定に役立つと考えられます。
反対に極度の睡眠不足や過労、強いストレスは全身の抵抗力を下げるため、間接的に腸の炎症悪化につながる可能性があります。
日頃から睡眠や休養をしっかりとり、趣味やリラックスできる時間を設けるなどしてストレスを溜め込まないようにしましょう。

定期的な受診と検査

クローン病の既往がある方や家族に患者さんがいる方は、定期的に検査を受けて腸の状態をチェックすることも再燃予防の一環です。
症状がないからと自己判断で治療を中断せず、医師の指示に従って寛解期も適切な維持療法を続けましょう。
万一症状がぶり返しても、早期に対処すれば重症化を防ぐことができます。
特にクローン病は長期に炎症が続くと腸管がんのリスクもわずかに上昇すると報告されています。
定期受診により炎症の程度を評価し、必要に応じて内視鏡検査で粘膜の状態を確認することで、将来的な合併症予防にもつながります。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。