大阪府大阪市東住吉区駒川5丁目23−18
針中野医療ビル(針中野クリニックモール) 2F

病気や症状についてわかりやすく伝える
医学情報サイト

肺炎

倦怠感・だるさ息切れ息苦しさ悪寒発熱・高熱胸の痛み食欲不振 内科の病気

疾患の概要

肺炎は、肺の奥にある肺胞やその周囲の組織に炎症が起こる感染症で、ウイルスや細菌などの病原体が肺に侵入し、呼吸機能に影響を与える病気です。呼吸器の構造上、空気はまず鼻や喉(上気道)を通り、次に気管・気管支(気道)を経て、最終的に肺胞に到達します。肺炎ではこの最も末端に位置する肺胞が炎症を起こすため、呼吸そのものに直接支障をきたしやすく、重症化するリスクが高まります。

通常の風邪や気管支炎は上気道から気道にかけての炎症であるのに対し、肺炎では炎症がより深部である肺胞に及ぶため、症状が強くなりやすく、全身の状態にも影響を及ぼします。特に高齢者や糖尿病、心疾患、腎疾患などの基礎疾患を持つ方では免疫力が低下していることが多く、肺炎が命に関わる深刻な病態に発展することもあるため、早期の診断と治療が極めて重要です。

肺炎にはいくつかの分類があり、それぞれ原因や対応が異なります。自宅や地域社会で感染する「市中肺炎」、病院に入院中に発症する「院内肺炎」、介護施設などで長期療養中の方に起こる「医療・介護関連肺炎」、そして食物や唾液などが誤って気道に入り込むことで起こる「誤嚥性肺炎」があります。これらのうち誤嚥性肺炎は高齢者に多く、嚥下機能の低下や口腔内衛生の悪化が引き金となるケースが一般的です。

軽症の肺炎では、初期の症状が風邪とよく似ているため見過ごされやすいという特徴があります。発熱や咳にとどまり、日常生活に大きな支障を感じないこともありますが、症状が数日たっても改善せず、むしろ息苦しさや強いだるさが現れてきた場合には肺炎を疑うべきです。特に高齢者では、熱が出ない、咳が目立たないといった非典型的な症状で進行することが少なくなく、「なんとなく元気がない」「食欲が落ちてきた」といった一見関係のないような変化が肺炎のサインである場合もあります。こうしたケースでは、周囲の気づきと早めの受診が重症化を防ぐ鍵になります。

症状

肺炎の代表的な症状は発熱、咳、痰、息苦しさです。特に細菌性肺炎では、38℃以上の高熱が数日間続き、強い寒気や震え、全身のだるさを伴います。咳とともに黄色や緑色の粘り気のある痰が出ることが多く、重症例では血痰が混じることもあります。呼吸が浅く速くなり、歩いたり動いたりするとすぐに息が上がるような呼吸困難を感じるのが特徴です。

また、深呼吸や咳で胸が痛む場合は、肺の外側を覆う胸膜に炎症が及んだ「胸膜炎」を合併している可能性があります。軽症の肺炎では風邪と区別がつきにくく、初期は市販薬で様子を見る人も少なくありませんが、発熱がなかなか下がらない、咳や痰が悪化する、息苦しさが増すといった症状があれば早めの受診が必要です。

高齢者では典型的な症状が出にくく、「最近元気がない」「食事量が減った」「夜に落ち着かない」など、一見肺炎と無関係に思える兆候がきっかけになることもあります。肺炎による酸素不足で脳の働きが低下し、「せん妄」と呼ばれる意識障害を起こすケースもあります。乳幼児では、ぐったりしてミルクの飲みが悪い、顔色が悪い、呼吸が荒く速いといった症状が目立ち、重症化しやすいため注意が必要です。

原因

肺炎の原因となる病原体はさまざまですが、大きく分けて細菌、ウイルス、真菌、その他の微生物によるものがあります。最も多いのは細菌性肺炎で、なかでも肺炎球菌は成人の市中肺炎の主な原因菌として知られています。そのほか、インフルエンザ菌、ブドウ球菌、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラ菌なども肺炎を引き起こすことがあります。

ウイルスが原因となる肺炎もあり、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなどが知られています。これらはウイルス性肺炎として、重症化すると呼吸不全を招くこともあります。とくに高齢者や持病のある方では、ウイルス感染をきっかけに二次的な細菌感染を併発し、肺炎がさらに悪化することがあるため注意が必要です。

また、食べ物や唾液、胃液などが誤って気道に入り、そこに含まれる常在菌が肺に感染することで起こる「誤嚥性肺炎」も高齢者に多くみられます。嚥下機能の低下、脳梗塞の後遺症、認知症などがある方では特にリスクが高く、日常的な飲み込みの観察や口腔ケアが重要になります。

さらに、化学物質やガスなどを吸い込むことで起こる「化学性肺炎」もあり、職業性のリスクとして知られています。

治療

肺炎と診断された場合、原因となる病原体や重症度に応じて治療が行われます。細菌性肺炎では、抗生物質が治療の中心になります。外来で治療できる軽症の肺炎では、ペニシリン系、マクロライド系、ニューキノロン系などの抗菌薬を内服し、自宅で安静に過ごしながら経過をみます。脱水防止のために十分な水分摂取と栄養補給を行うことも大切です。

重症の肺炎や高齢者・基礎疾患のある患者では入院治療が選択されます。この場合は、点滴による抗生物質投与、酸素投与、必要に応じて補液や人工呼吸器の使用など、症状に応じた集中的な治療が行われます。ウイルス性肺炎の場合は、原因ウイルスに応じて抗ウイルス薬(たとえばオセルタミビルなど)が使われることがありますが、多くのウイルス性肺炎は対症療法が中心です。

治療中は解熱鎮痛薬や咳止めなどの対症療法も併用され、夜間の咳で眠れないといった症状に対応します。また、体力や呼吸機能が落ちている患者に対しては、理学療法士やリハビリスタッフによる呼吸リハビリテーションが行われることもあります。特に高齢者では、肺炎が治ってもその後の筋力低下や活動性低下によって寝たきりになってしまうことがあり、早期の運動介入が重要です。

早期発見のポイント

肺炎の症状は風邪や気管支炎と似ているため、初期の段階では見逃されがちです。風邪と異なり、肺炎では発熱や咳に加えて、強い倦怠感、息切れ、胸の痛み、呼吸数の増加といった全身症状や呼吸症状が強く現れます。特に38℃以上の高熱が3日以上続く、呼吸が浅く早くなる、痰の色が濃くなってきた、胸の痛みがあるといった症状が見られる場合は肺炎を疑うべきです。

医療機関では、聴診や血液検査、胸部レントゲン検査によって診断を行います。肺に炎症がある場合は、レントゲンで白い影として写ることが多く、これが肺炎の有力な所見となります。また、血液検査で白血球数やCRP(炎症反応)が高値を示すことも診断の助けになります。

高齢者の場合は典型的な症状が出にくく、発熱や咳を伴わないこともあります。そのため、「最近元気がない」「食欲がない」「夜に落ち着かない」など、日常生活の中のちょっとした変化を見逃さないことが重要です。介護中の方は、呼吸数、脈拍、顔色なども定期的に確認し、異常を感じたら早めに受診することが勧められます。

予防

肺炎は誰でもかかる可能性のある病気ですが、日常的な予防習慣によって発症リスクを下げることが可能です。基本的な感染症対策である手洗い、マスクの着用、うがいなどは、肺炎の原因となるウイルスや細菌の侵入を防ぐうえで非常に重要です。特にインフルエンザや風邪が流行する季節には、外出後の手洗い・うがいを徹底し、人混みや密閉空間をできるだけ避けるようにしましょう。咳エチケットとして、咳やくしゃみをする際はティッシュや袖で口と鼻を覆い、周囲に飛沫を飛ばさないようにすることも大切です。

また、ワクチン接種も肺炎予防に有効な手段の一つです。肺炎球菌ワクチンは、65歳以上の高齢者や糖尿病、心疾患、腎疾患など慢性疾患を持つ方に対して接種が推奨されており、自治体によっては公費助成が受けられる制度もあります。ワクチンには肺炎球菌による感染の予防だけでなく、重症化を防ぐ効果も期待できます。さらに、インフルエンザウイルス感染後に肺炎を合併することがあるため、毎年のインフルエンザワクチンの接種も併せて受けておくと安心です。二つのワクチンを適切なタイミングで接種することで、肺炎全体の予防につながります。

近年では、口腔内の衛生状態が肺炎に深く関係することも注目されています。とくに高齢者では、唾液や食べ物が誤って気道に入ることで発症する誤嚥性肺炎が増加しています。これを防ぐには、日頃からの丁寧な歯磨きやうがい、入れ歯の清掃に加えて、定期的な歯科受診や歯科衛生士による専門的な口腔ケアが効果的です。食後の口腔清掃や、口腔体操などを取り入れることも予防につながります。

さらに、規則正しい生活を送り、栄養バランスのとれた食事、十分な睡眠、適度な運動を継続することで、免疫力を高めておくことも大切です。体調が優れないときは無理をせず、早めに休養をとることが重症化を防ぐ鍵となります。肺炎は早期の対応と、日頃からの予防意識によって十分にリスクを下げることができる病気です。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。