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動脈硬化
疾患の概要
動脈硬化とは、動脈の壁にコレステロールや中性脂肪などの脂質が蓄積し、血管が厚く硬くなって弾力を失った状態を指します。
一般にこのタイプをアテローム性動脈硬化と呼びます。
血管の内側が狭くなるため血液の流れが悪くなり、進行すると臓器へ十分な血液を送れなくなります。
その結果、心臓の血管が詰まれば心筋梗塞や狭心症、脳の血管が詰まれば脳梗塞や脳出血といった重大な病気を引き起こします。
実際、動脈硬化が原因の心臓病や脳卒中は日本人の死因の約3割を占めています。
動脈硬化による心血管疾患は世界全体でも死因の第1位です。
また、動脈硬化は加齢とともに誰にでも起こり得ますが、生活習慣や体質によって進行が早まることが知られています。
実際に、高齢の男性に多く見られ、食生活の欧米化に伴い患者数は増加傾向にあります。
症状
動脈硬化そのものには自覚症状がなく、かなり進行して血流が不足してから初めて症状が現れることが多いです。
症状は、動脈硬化によって血流が悪くなる臓器によって異なります。
主な例を挙げると次のとおりです。
心臓
心臓の血管が狭くなると、運動時などに胸の痛みや圧迫感が生じます。
動脈が完全に詰まってしまうと心筋梗塞を起こし、激しい胸痛を引き起こすことがあります。
脳
脳の血管が詰まると脳梗塞となり、顔や手足の麻痺・しびれ、めまい、言葉が出にくいなどの神経症状が突然現れます。
動脈硬化で血管が脆くなると脳出血を起こすこともあります。
下肢の血管
足の動脈硬化が進むと、歩行時にふくらはぎの痛みやしびれが起こり、しばらく休むとまた歩けるようになる症状が現れます。
足先が冷たく感じることもあります。重症化すると安静にしていても足の激しい痛みが続き、皮膚の潰瘍や組織の壊死に至る場合もあります。
腎臓
腎臓の細い動脈が硬化すると腎臓の働きが低下し、腎硬化症という状態になります。
腎硬化症では血圧がさらに上昇するなど、高血圧を一層悪化させることがあります。
大動脈
心臓から全身へ血液を送る大動脈に動脈硬化が生じると、血管の壁が弱く膨らんで大動脈瘤を形成したり、壁の内側が裂ける大動脈解離を引き起こしたりします。
これらは突然起こることが多く、胸や背中、腹部に激しい痛みが走る症状で発症します。
このように、動脈硬化の症状は影響を受ける臓器によって様々ですが、いずれの場合も動脈硬化がかなり進んだ段階で現れます。
初めての症状が心筋梗塞や脳卒中といった重篤な事態となるケースも珍しくありません。
原因
動脈硬化の発症・進行には、加齢に伴う血管の老化に加え、様々な生活習慣上の要因が関与します。
血管の内壁に生じた小さな傷にコレステロールなどが沈着してこぶ状の塊が形成され、それが大きくなることで動脈硬化が進むと考えられています。
血管を傷つける主な要因として、高血圧、喫煙、糖尿病、高コレステロール血症などが挙げられます。
これらは危険因子と呼ばれ、以下のようなものがあります。
- 高血圧
- 脂質異常症
- 高血糖・糖尿病
- 喫煙
- 肥満、特に内臓脂肪型肥満
- 運動不足
- 過度な飲酒
- 慢性的なストレス
- 加齢および男性であること
- 慢性腎臓病
特に高血圧、脂質異常症、喫煙の3つは動脈硬化の“三大危険因子”と呼ばれ、最も注意すべき要因です。
なお、複数の危険因子を併せ持つメタボリックシンドロームでは、動脈硬化に起因する心筋梗塞や脳卒中のリスクが飛躍的に高まります。
治療
動脈硬化の治療では、症状の有無や進行度、血管のどの部位に障害があるかによって方針が決まります。
基本となるのは生活習慣の改善や薬による危険因子の管理で、それでも症状が進む場合にカテーテル治療や手術が検討されます。
主な治療法として次のようなものがあります。
生活習慣の改善
食事療法や減量、禁煙などにより動脈硬化の進行を抑えます。
これは治療の基礎であり、他の治療を行う場合でも並行して取り組みます。
薬物療法
コレステロールを下げる薬や血圧を下げる薬、血糖をコントロールする薬などを用いて危険因子をを改善します。
血液を固まりにくくする抗血小板薬や抗凝固薬を服用し、血管が詰まってしまうのを防ぐ場合もあります。
運動療法
専門家の指導のもとで適度な運動を行うことで血流を改善します。
特に下肢の閉塞性動脈硬化症では、定期的な歩行訓練が症状の軽減に有効です。
カテーテルを用いた血管内治療
太ももの付け根などから細い管を血管内に挿入し、狭くなった血管を内側から広げる治療です。
先端の風船を膨らませて血管を拡張し、必要に応じてステントと呼ばれる金属製の網状の筒器具を留置して再び血管が狭くならないようにします。
このような血管内治療は身体への負担が比較的小さく、心臓や脚の血管など様々な部位で広く行われています。
外科的治療
外科手術によって血流を確保する方法です。
狭くなった血管を迂回するバイパス手術や、大動脈瘤に対する人工血管置換術などがあります。
なお、動脈硬化が原因で心筋梗塞や脳卒中などの重篤な発作が生じた場合には、緊急の専門的治療がただちに行われます。
早期発見のポイント
動脈硬化は自覚症状が乏しいため、症状が出る前に見つけるには定期的な検査が重要です。
特に中高年の方や危険因子を複数お持ちの方は、健康診断などで血圧やコレステロール値をチェックし、異常があれば早めに対策を講じることが推奨されます。
動脈硬化の早期発見に役立つ主な検査は次のとおりです。
血圧測定・血液検査
健康診断で行われる基本的な検査です。
血圧や血中コレステロール、血糖の値から動脈硬化の危険因子の有無を把握できます。
これらの値に異常が見られた場合、生活習慣の見直しや必要に応じた治療につなげます。
ABI検査(足関節上腕血圧比)
両腕と足首の血圧を測定し、その比率から下肢の動脈の狭窄や閉塞の有無を調べる検査です。
ABI値が低い場合は脚の血流が悪くなっている可能性があり、早期に血管治療を検討します。
頸動脈エコー検査
超音波を使って首の頸動脈を観察する検査です。
動脈硬化で血管壁が厚くなっていないか、プラークが付着していないかを非侵襲的に調べることができます。
痛みもなく安全なため、無症状でも動脈硬化の有無をチェックする方法の一つです。
画像診断
必要に応じて、心臓のCT検査やMRI検査、運動負荷心電図検査などを行い、心臓や脳の血管の状態を詳しく評価することがあります。
また、歩くと脚が痛む、階段を上ったときに胸が苦しくなる、といった動脈硬化を疑わせる初期症状に気づいた場合には、我慢せず早めに専門医を受診して検査を受けることが大切です。
予防
動脈硬化は生活習慣の改善によって予防・進行抑制が可能な病気です。
日常生活で次のような点に気をつけ、危険因子をコントロールすることが動脈硬化予防の基本になります。
禁煙
喫煙は動脈硬化を加速させる最大の要因です。
タバコを吸っている方は動脈硬化予防のために禁煙しましょう。
食生活の改善
野菜や魚を積極的に摂り、塩分や動物性脂肪の多い食事を控えます。
過剰なカロリー摂取を避けて適正体重の維持に努め、脂質異常症や高血圧を予防します。
適度な運動
ウォーキングやジョギング、水泳など無理のない有酸素運動を定期的に行います。
運動習慣は肥満の解消や血流の改善に役立ち、動脈硬化の進行を抑えます。
飲酒を控えめに
アルコールのとりすぎは高血圧や肝障害の原因となり得ます。
適量を守り、飲み過ぎに注意しましょう。
ストレスの管理
過度なストレスは血圧や血糖を上昇させることがあります。
十分な休養と睡眠をとり、趣味の時間を持つなどしてストレスを溜め込まない工夫も大切です。
基礎疾患の治療
高血圧症、糖尿病、脂質異常症といった動脈硬化の危険因子となる病気がある場合は、医師の指示のもとで適切に治療しましょう。
薬の内服や食事療法でこれらを良好に管理することが、合併症を防ぐことにつながります。
これらの取り組みを継続することで、動脈硬化の発症リスクを減らし、すでに動脈硬化がある場合でもその進行を遅らせる効果が期待できます。
生活習慣を見直す際には無理のない範囲から始め、できることから少しずつ継続することが重要です。
症状
動脈硬化には初期段階で自覚症状がないことが多いですが、胸の痛みや圧迫感、手足の麻痺やしびれ、歩くと足が痛む、息切れや疲れやすさ などの症状が現れることがあります。