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貧血
疾患の概要
貧血とは、血液中の赤血球の数やそこに含まれるヘモグロビン濃度が正常より低い状態を指します。
赤血球はヘモグロビンを介して肺で受け取った酸素を全身に運ぶ役割を担っています。
そのため赤血球やヘモグロビンが不足すると、体の組織に十分な酸素が行き渡らず酸欠状態となり、様々な症状が現れます。
例えばヘモグロビン値が一定以下になると貧血と診断されます。
ヘモグロビン値の目安は成人では男性で13.0g/dL未満、女性で12.0g/dL未満とされています。
貧血は症状名であり、その背後に潜む原因は多岐にわたります。
原因によっていくつかの種類に分類されますが、中でも鉄分の不足による鉄欠乏性貧血が最も一般的です。
特に月経のある女性に多く、日本人女性の約4割が貧血または「隠れ貧血」の状態にあると言われます。
隠れ貧血とはヘモグロビン値は正常でも体内の貯蔵鉄が不足した状態で、将来的に貧血に進展しやすい予備段階です。
このように貧血は身近な健康問題であり、放置すれば日常生活への支障や重大な疾患の見落としにつながるため注意が必要です。
症状
貧血の症状は、程度や進行の速さによって様々です。
ゆっくり進行した軽度の貧血では自覚症状がほとんどないこともありますが、急激に進行した場合や重度の場合には症状が顕著になります。
一般的に見られる主な症状は次のとおりです。
十分な酸素が供給されないため、体がだるく感じたり、少し動いただけで疲労を感じやすくなります。
顔色が青白くなったり、手のひらや爪の色が白っぽく見えるようになります。
まぶたの裏側も血色が薄くなります。
脳への酸素供給が不十分になることで、急に立ち上がったときにくらっとめまいが起こりやすくなります。
心臓は不足する酸素を補おうとして普段より脈拍が速くなります。
少し体を動かしただけで動悸がしたり息切れを感じることが多く、重度の貧血では安静時にも息苦しくなることがあります。
耳鳴りや集中力の低下などがあります。
長期にわたる鉄欠乏では爪が割れやすくなり、スプーンのように中央がくぼむ変形が生じることがあります。
また髪が抜けやすくなったり肌が乾燥する、口角や舌に炎症が起きるといった症状も鉄不足のサインです。
さらに氷や土など食べ物ではないものを口に入れたくなる異食症が現れることもあります。
なお、ビタミンB12や葉酸の欠乏による貧血では、これらの症状に加えて手足のしびれなど神経症状を伴うことがあります。
原因
貧血を起こす原因は様々ですが、その仕組みは大きく3つに分類できます。
出血による貧血
慢性的な出血で鉄分や赤血球が失われるタイプです。
月経過多や出産時の出血、胃潰瘍や痔核、胃がん・大腸がんなどによる消化管からの持続的な出血が主な原因として挙げられます。
若い女性ではダイエットによる栄養不足と月経過多が重なって貧血を招くケースがよく見られます。
赤血球の産生低下による貧血
赤血球を作る材料や造血ホルモンが不足したり、骨髄の働きが低下することで起こるタイプです。
代表的なのは栄養不足による貧血で、鉄欠乏性貧血のほかビタミンB12・葉酸不足による巨赤芽球性貧血があります。
これらは偏った食事や極端な菜食、胃腸の病気によって引き起こされます。
また慢性腎臓病では赤血球産生を促す腎臓のホルモンが不足し、腎性貧血を生じます。
さらに慢性の炎症や悪性腫瘍に伴う慢性疾患に伴う貧血や、骨髄の病気によって赤血球の産生が低下する場合もあります。
赤血球の破壊亢進による貧血
赤血球の寿命が縮まり通常より早く壊されてしまうタイプで、溶血性貧血とも呼ばれます。
原因には自己免疫によるもの、赤血球の先天的異常、人工心臓弁による血球破壊などが挙げられます。
中高年で貧血が判明した場合は、消化器の腫瘍など重大な病気の可能性があるため、詳しい検査が必要です。
治療
貧血の治療は原因に応じて行います。
基本的な方針は「不足している成分の補充」と「貧血の原因への対処」の両面から取り組むことです。
鉄剤による鉄分補給
鉄欠乏性貧血では鉄剤で不足した鉄分を補います。
通常は鉄剤の内服を継続してヘモグロビン値を正常化し、貯蔵鉄が十分回復するまで治療を続けます。
内服薬で胃腸障害の副作用が強い場合は、医師に相談して薬の種類を調整したり必要に応じて注射による補充を行います。
鉄剤服用中に便が黒くなることがありますが心配いりません。
なお、鉄欠乏の原因への対応も並行して行います。
ビタミンB12・葉酸の補充
ビタミンB12や葉酸の欠乏が原因の場合、不足分を補給します。
ビタミンB12欠乏ではビタミンB12製剤を、葉酸欠乏では葉酸製剤をそれぞれ内服で投与します。
吸収障害がある場合などは筋肉注射で補充することもあります。
原因疾患への対処
出血があれば止血や原因病変の治療を行います。
腎性貧血に対しては腎疾患の治療に加え、必要に応じて造血ホルモンの注射を行って赤血球の産生を促します。
骨髄の疾患が原因の場合は、免疫抑制薬の使用や造血幹細胞移植など専門的な治療が必要です。
輸血による酸素補給
貧血が重症で日常生活に支障がある場合や、急激な大量出血時には輸血によって速やかに酸素運搬能力を補います。
早期発見のポイント
貧血はゆっくり進行すると自覚しにくいこともありますが、以下のようなサインに気付いたら早めに医療機関で検査を受けましょう。
顔色や爪の色の変化
顔や唇の血色が悪い、手のひらや爪の赤みが薄いと感じたら注意が必要です。
鏡で下まぶたの裏を見て白っぽい場合も貧血の可能性があります。
頻繁なめまい・立ちくらみ
急に立ち上がったときにめまいがする、立ちくらみが繰り返し起こる場合は貧血を疑いましょう。
動悸や息切れ
少し体を動かしただけで心臓がドキドキしたり、息切れしやすいと感じる場合もサインの一つです。
倦怠感・集中力の低下
十分寝ても疲れが取れなかったり、集中できないほど強いだるさが続く場合も見逃せません。
これらの症状は他の病気でも起こりえますが、貧血かどうかは血液検査で簡単に確認できます。
定期的に血液検査を受けておくことも早期発見につながります。特に月経のある女性や妊娠中の方、消化器の持病がある方など貧血になりやすい人は、意識的に検査の機会を持つと良いでしょう。
また、原因のはっきりしない体調不良が続く場合は放置せず、隠れ貧血の段階でも早めに対策を取ることが大切です。
予防
貧血を予防するには、日頃からバランスの取れた食生活と適切な健康管理に努めることが基本です。
特に鉄分やビタミンを十分に摂取することが重要となります。
鉄分を多く含む食品を積極的に摂る
鉄はレバー、赤身の肉、魚介、緑黄色野菜、豆類、海藻などに豊富に含まれます。
中でも肉や魚に含まれるヘム鉄は吸収されやすい鉄分です。野菜などに含まれる非ヘム鉄は吸収率が低めですが、動物性食品と組み合わせたりビタミンCを含む果物・野菜を一緒に摂ることで吸収が促進されます。
なお、紅茶やコーヒーに含まれるタンニンは鉄の吸収を妨げるため、食事中の飲みすぎには注意しましょう。
無理なダイエットを避ける
極端な食事制限や偏食は鉄やビタミンの不足を招き、貧血の大きな原因になります。
特に成長期の若年層や女性は、減量が必要な場合でも栄養バランスに配慮した方法を選びましょう。
女性特有の要因への対策
月経量が多い人は普段から鉄分補給を意識しましょう。
症状が強い場合には婦人科で相談し、月経をコントロールする治療を検討することも大切です。
妊娠中は体内の鉄や葉酸の需要が高まるため、医師の指示に従い鉄剤や葉酸サプリメントを活用して不足を補いましょう。
定期的な健康チェック
自覚症状がなくても年に一度は健康診断などで血液検査を受け、自分のヘモグロビン値や貯蔵鉄の状態を把握しておきましょう。
異常に気付いたら早めに医師に相談し、食事改善や必要に応じたサプリメントの活用など適切な対処を行うことが大切です。
以上の点に気を付ければ、多くの貧血は予防可能です。特に鉄欠乏性貧血は生活習慣との関わりが大きいため、日頃から鉄分摂取に気を配りましょう。また万一貧血になっても、早期に発見して適切に治療すれば十分に改善が期待できます。貧血を軽視せず、日常的に対策していくことが重要です。