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慢性膵炎

腹痛下痢体重減少 内科の病気

疾患の概要

慢性膵炎は、膵臓に慢性的な炎症が繰り返されることで徐々に膵臓の正常な組織が壊れ、線維化していく疾患です。
膵臓は消化酵素を分泌する外分泌機能と、血糖を調節するホルモン(インスリンなど)を分泌する内分泌機能を持つ重要な臓器です。
慢性膵炎が進行すると、これらの機能が徐々に失われていきます。

炎症の再発とともに膵臓の構造が破壊され、膵管が狭くなったり、石(膵石)ができたりすることが特徴で、病状が進行すると消化不良や糖尿病などの合併症が現れます。
初期にははっきりとした症状がないこともありますが、進行すると強い上腹部痛や背中への放散痛、体重減少、下痢などが見られるようになります。

原因として最も多いのがアルコールの長期摂取です。
日本では男性の慢性膵炎の大半が飲酒に関連しており、発症年齢は40〜60代が中心です。
また、遺伝性、自己免疫性、高脂血症、胆石、膵管の先天異常など、さまざまな因子が関係することもあります。

一度発症すると膵臓の組織は元に戻らないため、早期発見と進行予防が重要です。
生活習慣の改善や適切な治療によって症状のコントロールや合併症の予防が可能です。
放置すると膵機能が著しく低下し、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。

慢性膵炎は、外分泌・内分泌の両機能が段階的に失われていく進行性の疾患です。
外分泌機能が障害されると、脂肪やたんぱく質の消化がうまくいかず、脂肪便や未消化便、栄養障害が生じます。
これにより体重減少や筋力低下、免疫力の低下などが起こることもあります。
一方、内分泌機能の障害は血糖コントロールに影響し、膵性糖尿病と呼ばれる特殊なタイプの糖尿病を発症します。
通常の2型糖尿病とは異なり、インスリンの分泌が著しく低下しているのが特徴です。

また、慢性膵炎の長期経過では膵がんの発生リスクが高まることも知られており、定期的な画像診断(CT、MRI、超音波検査など)による経過観察が必要です。
特に遺伝性膵炎や自己免疫性膵炎を背景とする患者では、膵がんのリスクが高いため、年1回以上の精密検査が推奨されます。

診断には血液検査、便中酵素検査、内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)、磁気共鳴胆膵管撮影(MRCP)などが用いられ、画像上の膵管の拡張や狭窄、石灰化所見が特徴的です。
近年では、より非侵襲的な診断法として超音波内視鏡(EUS)による詳細な観察も行われるようになっています。

慢性膵炎は疾患の性質上、完治が難しく、長期間の治療と自己管理が必要となります。
禁酒は最も重要な治療の柱であり、アルコール性膵炎では禁酒によって進行の抑制と症状の改善が期待できます。
また、食事療法や酵素補充療法によって栄養吸収を補い、適切な糖尿病管理を行うことで生活の質を保つことが可能になります。

症状

慢性膵炎の症状は、病期や膵機能の低下程度によって異なります。
初期には症状がはっきりしない場合もあり、単なる胃腸の不調として見過ごされることがあります。
もっとも典型的な症状は、上腹部から背中にかけての痛みです。
痛みは食後や飲酒後に強くなり、持続性または間欠的に起こることがあります。

慢性膵炎が進行すると、膵臓の外分泌機能が低下し、食べ物の消化が不十分になります。
その結果、脂肪便と呼ばれる油っぽい便が出たり、便が浮いたりすることがあります。
これは脂肪がうまく吸収されなくなるためで、下痢が慢性的に続く原因にもなります。
これにより体重が減少しやすく、栄養不良になることもあります。

また、膵臓の内分泌機能が障害されると、血糖値の調節がうまくいかなくなり、糖尿病を発症することがあります。
慢性膵炎に伴う糖尿病は、インスリンの分泌が低下することに加え、血糖の上昇を抑えるホルモンの分泌も低下するため、一般的な糖尿病と比べて血糖の変動が大きく、治療が難しい傾向があります。

進行した慢性膵炎では、膵石による膵管の閉塞や、慢性的な炎症が周囲の神経を刺激して激しい痛みが起こることもあります。
日常生活に大きな支障をきたし、食事もままならないほどの痛みに悩まされる患者も少なくありません。
慢性的な痛みは睡眠や食欲にも影響を及ぼし、うつ状態や社会的孤立につながることもあります。
こうした慢性疼痛に対しては、消化器内科だけでなく、ペインクリニックや心療内科との連携による多角的なアプローチが有効とされます。
症状が長引く場合には、早めに専門医の診断を受けることが勧められます。

原因

慢性膵炎の原因はさまざまですが、最も多いのはアルコールの過剰摂取です。
日本における男性の慢性膵炎の約7割が飲酒に関連しており、長年の飲酒習慣が膵臓に慢性的なダメージを与えることが明らかになっています。
特に焼酎やウイスキーなどの蒸留酒を多量に摂取する人に多く見られます。

次に多いのが特発性慢性膵炎です。
これは明らかな原因が特定できないものの、膵炎の所見が持続している状態を指します。
若年発症の特発性膵炎では、遺伝的な要因が関与していることがあり、PRSS1やSPINK1といった遺伝子の異常が報告されています。

胆石による膵炎も慢性膵炎の原因の一つです。
胆石が膵管と胆管の合流部を一時的に閉塞すると、膵液の流れが妨げられ、膵臓内に膵液が逆流し、自己消化を起こすことがあります。
これが繰り返されることで慢性化に至るケースもあります。

そのほか、高脂血症、自己免疫性膵炎、膵管の先天的な異常(膵管癒合不全など)、膵臓外傷、長期の薬物使用なども原因として挙げられます。
また、膵臓がんや膵のう胞性疾患などの腫瘍性病変が背景にある場合もあり、精密な検査で原因を特定することが求められます。

治療

慢性膵炎の治療は、膵機能の温存と症状の緩和、進行の抑制を目的に行われます。
まず最も重要なのは原因の除去です。
アルコール性慢性膵炎の場合、禁酒が絶対的に必要です。
禁酒によって炎症の進行を抑えることができ、症状の改善も期待できます。
同様に、脂肪分の多い食事を控えることも膵臓への負担軽減につながります。

次に、痛みのコントロールが治療の中心となります。
軽度の痛みには鎮痛薬を使用し、中等度以上の痛みにはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やブプレノルフィンなどが使われます。
慢性的な強い痛みが続く場合には、神経ブロック療法などの介入も検討されます。

膵外分泌機能不全に対しては、消化酵素製剤の補充が行われます。
食事中に膵酵素製剤を服用することで、消化吸収を助け、栄養状態の改善を図ります。
脂肪便や体重減少がある場合は特に有効です。
膵内分泌機能の低下によって糖尿病を発症した場合には、インスリン療法が必要になることもあります。

また、膵石が原因で膵管の閉塞がある場合には、内視鏡的に膵石を除去したり、膵管にステントを留置したりする治療が行われます。
これにより膵液の流れを改善し、痛みの軽減が図られます。
状態によっては外科的手術が選択されることもあります。

早期発見のポイント

慢性膵炎は初期にははっきりとした症状が出にくいため、気づいたときには進行していることがあります。
飲酒習慣がある人や、家族に膵疾患のある人、原因不明の腹痛を繰り返す人は要注意です。
脂肪便、体重減少、血糖コントロールの悪化などの変化があれば、膵機能低下のサインとして検査を受けるべきです。

診断には、腹部超音波検査、CT、MRI、ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)などが用いられます。
画像上で膵臓の萎縮、石灰化、膵管の拡張などが確認できれば診断の根拠となります。
膵酵素や血糖値の検査もあわせて行われます。

予防

慢性膵炎を予防・進行させないためには、日頃から膵臓への負担を軽減する生活を心がけることが重要です。
ポイントは、バランスのとれた食生活と禁酒を含む生活習慣の見直し・継続にあります。
以下に、予防および症状悪化を防ぐための具体的なポイントを挙げます。

アルコールの完全な摂取中止

最大のリスク因子であるアルコールの摂取は、厳密に制限する必要があります。
飲酒が原因で膵炎を繰り返している場合は、完全に禁酒することが勧められます。
禁酒は症状の軽減だけでなく、炎症の進行を抑制し、膵機能の低下を防ぐ効果もあります。

脂質を控えた消化の良い食事

脂肪分の多い食事を避け、消化に良いものを中心としたバランスの取れた食生活が推奨されます。
過食や暴飲暴食は膵臓に負担をかけるため避けましょう。
また、消化酵素の負担を軽減するために、1日3食を規則正しく摂ることや、1回の食事量を控えめにすることも効果的です。

体重管理

肥満は脂質異常症や糖尿病など他のリスク因子と密接に関係しており、膵臓への負担を増やします。
適正体重を維持するためには、ウォーキングやストレッチ、軽度の有酸素運動などを無理のない範囲で継続することが大切です。
これらの運動は膵臓への血流を改善する効果も期待できます。

定期的な通院と検査

膵炎の再発予防のためには、定期的な通院と検査を欠かさないことが基本です。
血液検査や画像検査を通じて膵機能の変化を定期的に確認し、異常があれば早めに対応することが進行抑制に繋がります。

ストレスの管理や睡眠習慣の改善なども、膵機能の維持に役立つとされています。
喫煙は膵臓への血流を悪化させ、再発リスクを高めるため、禁煙も強く推奨されます。
再発を繰り返さないためには、これらの生活全体の見直しが不可欠です。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。