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胆道疾患
疾患の概要
胆道疾患とは、肝臓でつくられた胆汁の通り道である「胆道」に生じるさまざまな病気の総称です。
胆道は、胆管、胆のう、総胆管などの構造から成り、胆汁は肝臓から分泌された後、胆のうに一時的に蓄えられ、食事の際に十二指腸へ排出されます。
胆汁は脂肪の消化やビリルビンの排泄を助ける重要な役割を持っており、胆道のどこかで障害が起きると、消化機能や肝機能に影響を及ぼす可能性があります。
胆道疾患には、胆石症、胆嚢炎、胆管炎、胆管結石、胆のうポリープ、胆道がん(胆のうがん、胆管がん)などが含まれます。
いずれも胆道系の流れが妨げられたり、炎症が起きたりすることで症状を引き起こします。
軽症で経過するものもあれば、重篤な合併症をきたすこともあるため、疾患の正確な診断と迅速な治療が必要となります。
特に注意すべきは、胆管炎や胆管がんなどの重篤な疾患です。
胆管炎は、胆道が閉塞した状態に感染が加わることで起こり、高熱や黄疸、意識障害などを伴うこともあり、敗血症に進展する恐れがあります。
胆道がんは初期症状に乏しいため、発見が遅れがちであり、診断時には進行していることが多く、予後はあまり良好ではありません。
胆道疾患は、中高年以降に多く見られ、女性、肥満体質、高脂血症、糖尿病などがリスク因子とされます。
近年では、健康診断や人間ドックの普及によって無症状のうちに発見されるケースも増えており、早期発見・早期治療の重要性が高まっています。
胆道は消化器系の一部として肝臓や膵臓とも深く関係しており、胆道の異常はこれら臓器にも影響を及ぼすことがあります。
たとえば、胆石が胆管に移動して詰まると膵液の流れも妨げられ、胆石性膵炎を引き起こすことがあります。
また、胆道の狭窄や閉塞は胆汁うっ滞による肝機能障害を生じる原因にもなり、慢性的な胆汁のうっ滞が胆汁性肝硬変を引き起こすこともあります。
近年、画像診断技術の進歩により、胆道疾患の早期発見が可能になってきました。
超音波検査(エコー)に加えて、CT、MRI、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)などの検査が活用され、疾患の種類や重症度を正確に評価できるようになっています。
これにより、以前よりも迅速かつ的確な治療方針の決定が可能となりました。
治療法は疾患によってさまざまで、内科的治療、内視鏡的処置、外科手術などが組み合わされます。
胆石や胆管結石では、内視鏡を用いた結石除去や胆道ドレナージが行われ、胆嚢炎では腹腔鏡下胆嚢摘出術が一般的です。
胆道がんに対しては外科的切除を第一選択とし、手術不能例では化学療法や放射線治療が選択されます。
胆道疾患の早期発見のためには、右上腹部の痛みや黄疸、便の色の変化、尿の濃染などのサインを見逃さないことが大切です。
定期的な検診や、症状があれば早めの受診が、重症化を防ぐ第一歩となります。
胆道の健康を守るためには、脂質の過剰摂取を避け、規則正しい食事と適度な運動、基礎疾患の管理を継続することが予防にもつながります。
症状
胆道疾患に共通してみられる主な症状は、右上腹部の痛み、黄疸、発熱、吐き気、嘔吐、食欲不振などです。
特に胆汁の流れが妨げられると、胆汁成分が血中に逆流し、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が生じます。
かゆみや褐色尿、白っぽい便なども、胆汁の流出障害に伴う特徴的な症状です。
胆石症では、食後に右上腹部に発作的な痛み(疝痛発作)が現れ、しばしば背中や肩に放散する痛みを伴います。
胆嚢炎が加わると、痛みに加えて発熱、悪寒、右季肋部の圧痛などがみられます。
胆管炎では、高熱、悪寒、黄疸の三徴(シャルコーの三徴)が典型で、進行すると敗血症性ショックに陥る危険があります。
胆道がんでは、初期には自覚症状に乏しいことが多く、進行するにつれて腹痛、体重減少、黄疸などが目立つようになります。
胆道系のがんは比較的まれですが、発見時にはすでに手術が困難な状態になっていることもあり、定期的な画像検査によるスクリーニングが重要とされています。
また、胆道疾患では消化機能の低下により、脂っこいものを食べた後に下痢や腹部膨満感が出やすくなることがあります。
慢性的な胆道の障害がある場合には、持続的な消化不良や栄養不良が生じることもあります。
原因
胆道疾患の原因は疾患によってさまざまですが、胆汁の流れを妨げる胆石や腫瘍、感染症などが主要な要因とされています。
胆石は胆汁中の成分が結晶化してできる固形物であり、コレステロール過多、胆汁うっ滞、胆のう運動機能の低下などが形成の要因です。
肥満や糖尿病、妊娠、急激なダイエットなども関係しています。
近年では、高脂肪食や運動不足、ストレスによる自律神経の乱れが胆汁分泌の調整に影響を与え、胆石形成の一因とされています。
胆嚢炎の多くは胆石による胆汁うっ滞と二次感染によって引き起こされます。
無石性胆嚢炎も存在し、これは絶食や外傷、重症感染症、人工栄養などによって胆嚢への血流が低下することで起こります。
高齢者や重症患者に多く、重篤化しやすいため注意が必要です。
胆管炎は、胆管の閉塞に細菌感染が加わることで発症します。
胆石による閉塞のほか、腫瘍や狭窄、ステントの閉塞なども原因となります。
大腸菌やクレブシエラなどの腸内細菌が上行性感染を起こし、炎症が胆道系に広がっていきます。
胆道がんは、慢性的な胆道系の炎症や胆汁うっ滞、胆石の存在、肝吸虫感染、PSC(原発性硬化性胆管炎)、胆管の先天性異常などがリスク因子とされています。
遺伝的な要因や環境因子も関与するとされており、詳細な病因は不明な点も多いですが、胆道に慢性的な刺激や障害が加わることが発症に関与していると考えられています。
治療
胆道疾患の治療は、原因疾患の特定と重症度の評価に基づいて決定されます。
軽度の胆石症や胆のうポリープでは、経過観察が基本となることもありますが、症状がある場合や悪性の可能性が否定できない場合には、外科的治療が選択されます。
胆のう摘出術(腹腔鏡下胆のう摘出術)は、胆嚢炎や胆石症に対する標準的な治療法です。
胆管炎の場合には、抗菌薬による治療が第一選択となります。
重症例では、胆管ドレナージ(ERCPやPTBD)によって胆汁の排出を促す処置が必要になります。
感染を早期にコントロールすることが重要であり、処置のタイミングと術後管理が予後を左右します。
胆道がんでは、根治的治療として手術が最も有効ですが、発見が遅れることが多いため、切除不能例では化学療法や放射線療法による緩和的治療が行われます。
近年では、分子標的治療や免疫療法の研究も進められていますが、標準治療として確立しているわけではなく、予後は依然として厳しい現状があります。
また、胆道閉塞を伴う疾患では、胆道ステントを留置することで胆汁の流れを回復させ、黄疸や感染の改善を図ります。
慢性的な胆道障害がある患者には、食事療法や消化酵素剤の投与が行われることもあります。
早期発見のポイント
胆道疾患の多くは初期に明確な症状がないことが多いため、定期的な検診や腹部超音波検査、血液検査によるスクリーニングが早期発見の鍵を握ります。
とくに、軽い右上腹部の不快感や食後の腹部膨満感がある人、脂肪の多い食事後に下痢や吐き気を感じる人は、胆道疾患の可能性を考慮すべきです。
血液検査では、肝機能検査やビリルビン、ALP、γ-GTPなどの項目が胆道の状態を反映します。
これらの数値に異常がある場合には、追加の画像検査が必要となります。
CTやMRI、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)などが、胆道の詳細な評価に有用です。
胆道がんのように進行してからでないと症状が出にくい疾患もあるため、家族歴や持病のある人では、症状がなくても定期的な精密検査を受けることが望ましいとされます。
超音波検査でポリープや胆石が見つかった場合には、定期的なフォローアップが勧められます。
早期発見によって外科的に治療可能な段階で介入できれば、良好な予後が得られるケースも少なくありません。
ちょっとした体調の変化を見逃さず、異常を感じたらすぐに医療機関を受診することが重要です。
予防
胆道疾患の予防には、胆石の形成を防ぎ、胆汁の流れを良好に保つ生活習慣が重要です。
まず、脂質の多い食事を避け、バランスの良い栄養摂取を心がけることが基本です。
特に、野菜、果物、穀物、食物繊維を豊富に含む食事は、胆汁の性状を安定させ、胆石形成を抑える効果があります。
また、規則正しい食生活が胆嚢の適切な収縮を促し、胆汁のうっ滞を防ぐため、1日3食を適切な間隔で摂ることが推奨されます。
過度のカロリー制限や長期の絶食は胆石のリスクを高めるため、極端な食事制限は避けましょう。
適度な運動も胆道系の健康維持には効果的です。
ウォーキングや軽度の有酸素運動は、肥満の予防や代謝改善に寄与し、胆石の形成を抑えることにつながります。
水分補給も重要で、脱水を避けることで胆汁の濃縮を防ぎます。
胆道がんや胆管炎の予防には、慢性的な炎症の原因となる胆石や胆管狭窄の管理が大切です。
症状がないからと放置せず、定期的な検査を通じて胆道の状態を把握し、早期に適切な対応を行うことが予防に直結します。