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B型肝炎
疾患の概要
B型肝炎は、B型肝炎ウイルスへの感染によって肝臓に炎症が起こる病気です。
肝炎により肝細胞が破壊されると、肝臓の働きが低下してしまいます。
感染後の経過には急性肝炎と慢性肝炎があり、急性肝炎は一過性の感染でウイルスが排除される場合に起こり、慢性肝炎はウイルスの持続感染が続いた場合に発症します。
急性B型肝炎は成人が初めてB型肝炎ウイルスに感染したときに発症し、多くは自然に治癒しますが、まれに劇症肝炎へ進行することがあるため注意が必要です。
一方、B型肝炎ウイルスの持続感染者では感染が持続することで慢性B型肝炎へ移行し、放置すると肝硬変や肝細胞癌へ進展する可能性があります。
実際、B型肝炎ウイルス感染が原因で肝硬変や肝がんに至るケースは少なくありません。
日本ではB型肝炎ウイルスの持続感染者が約110~140万人存在すると推定されており、国民の約1%が感染経験を有する計算になります。
世界的にもB型肝炎ウイルスの蔓延は深刻で、全世界で約2億~4億人が感染しているとされています。
日本ではかつて母子感染が主要な感染経路でしたが、1980年代後半以降の母子感染予防対策や乳幼児へのワクチン普及により新規感染者は大幅に減少しました。
それでも毎年数千から1万人程度の新たな感染が報告されており、引き続き注意が必要な疾患です。
症状
B型肝炎ウイルスに感染してから症状が現れるまでの潜伏期間はおよそ1〜6か月です。
急性B型肝炎では、食欲不振、全身の倦怠感、吐き気・嘔吐、腹痛などの症状が出現し、その後に皮膚や白目が黄色くなる黄疸がみられることがあります。
これらはウイルス性肝炎の典型的な症状であり、多くの場合は数週間から数か月で改善に向かいます。
体調の変化に気づかないうちに自然に治る場合もありますが、中にははっきりとした症状が出て、急性肝炎として現れることもあります。
まれに肝炎が急速に悪化し、肝不全に陥る劇症肝炎を発症する場合もあり、命に関わることがあるため注意が必要です。
一方でB型肝炎ウイルスの持続感染による慢性B型肝炎では、初期には自覚症状がほとんどありません。
肝臓はある程度ダメージを受けても働き続けられる力があるため、慢性肝炎や肝硬変に進行しても症状が出にくいことが多く、気づかないうちに病気が進むおそれがあります。
そのため、B型肝炎ウイルスに感染していると分かった時点で定期的に専門医療機関を受診し、症状がなくても血液検査や画像検査で肝臓の状態をチェックすることが重要です。
症状がない段階で病気を発見し適切に対処することで、将来的な肝硬変・肝がんの発症リスクを下げることができます。
原因
B型肝炎の原因はB型肝炎ウイルスへの感染です。
B型肝炎ウイルスは感染している人の血液や体液を介してうつります。
主な感染経路としては、次のようなものがあります。
性的感染
B型肝炎ウイルスに感染している人との性行為による感染。
血液を介した感染
注射針・注射器の共用や、医療現場での針刺し事故など血液を介して感染。
母子感染
B型肝炎ウイルスに感染した母親から生まれた新生児への母子感染。
過去には予防接種で使用した注射器の連続使用による集団感染や、家族内での傷を介した感染も問題となりました。
現在の日本では、1986年に開始された母子感染防止事業により母子感染はほとんど防げており、輸血用血液B型肝炎ウイルスの検査が徹底されているため輸血で感染する危険は極めて低くなっています。
なお、通常の生活接触、例えば握手や軽いキス、食器の共有、一緒に入浴するといった行為でB型肝炎ウイルスがうつることはありません。
治療
B型肝炎の治療法は、急性期と慢性期で対応が異なります。
急性B型肝炎に対しては特別な抗ウイルス治療はなく、安静や栄養管理といった支持療法が中心となります。
アルコール摂取を控えるなど肝臓への負担を減らしながら経過を観察し、必要に応じて入院して点滴などの対症療法を行います。
ほとんどのケースでは時間とともに肝機能が回復し完全に治癒しますが、ごく一部の患者さんでは感染が持続して慢性B型肝炎へ移行します。
また、急性肝炎が重症化して劇症肝炎となった場合には、抗ウイルス薬の投与や肝移植を含む集中的な治療が検討されます。
慢性B型肝炎と診断された場合は、ウイルスの増殖を抑えて肝臓の炎症を鎮め、病気の進行を食い止めるための治療を継続的に行います。
具体的には、B型肝炎ウイルスの増殖を直接抑える飲み薬の抗ウイルス薬や、免疫力を高めてウイルスの排除を促すインターフェロン療法を用いるのが一般的です。
現在の医療ではB型肝炎ウイルスを体内から完全に除去することは難しいため、これらの治療によりウイルス量をコントロールし炎症を抑えることで、肝機能を正常化させたり肝硬変・肝がんへの進行を防いだりすることが目標となります。
実際にインターフェロン製剤や核酸アナログ製剤の登場により、B型肝炎ウイルスの増殖を抑えながら肝疾患の進展を食い止めることが可能になっています。
適切な治療と定期的な経過観察を続けることで、慢性B型肝炎による肝硬変・肝がんへの移行を大幅に減らし、予後を改善できるようになりました。
ただし、慢性B型肝炎といっても病状には個人差があり、ウイルス量が少なく肝機能が安定している場合には無治療で経過観察となることもあります。
その際も定期的な診察と検査による監視が重要です。
B型肝炎と診断されても、適切な治療と生活管理を行うことで健康な状態を保つことは十分可能です。
必要以上に悲観せず、専門医の指導のもとで治療を継続することが大切です。
早期発見のポイント
B型肝炎は自覚症状が乏しいため、感染に気づかずに過ごしている人が多い病気です。
肝臓に炎症が起きても痛みなどの症状が出ないまま進行し、気づいたときには肝硬変や肝がんに至っている場合もあります。
そのため、感染の可能性がある人はもちろん、症状のない方でも一度は肝炎ウイルス検査を受けておくことが勧められます。
特に、1990年代前半以前に輸血を受けた方や長期透析中の方、過去に肝機能異常を指摘されて放置している方などは一般の方より感染している可能性が高いとされ、検査が強く推奨されます。
実際、日本には少なくとも約110万人以上のB型肝炎ウイルス持続感染者が存在しますが、その多くは自分が感染していることに気づいていないとされています。
B型肝炎ウイルスに感染しているかどうかは血液検査で調べることができ、現在は自治体が指定する医療機関で無料で検査を受けられる制度も整っています。
検査で陽性と判明した場合も、早期に専門医療機関で精密検査や必要な治療を受けることで、深刻な肝疾患への進行を防ぐことが可能です。
各自治体や厚生労働省も肝炎ウイルス検査の普及啓発に努めており、対象者へのクーポン配布や無料検診の促進など早期発見のための取り組みが行われています。
予防
B型肝炎を予防するためには、ワクチンの接種と、血液を通じた感染を防ぐための対策をしっかり行うことが大切です。
B型肝炎ウイルスワクチンは感染予防に非常に有効で、安全性も高いワクチンです。
日本では2016年より定期接種化されており、生後2か月、3か月、7~8か月の計3回の接種が推奨されています。
ワクチン接種により95%以上の乳児がB型肝炎ウイルスに対する免疫がつき、20年以上にわたって予防効果が持続するとされています。
まだ接種を受けていない成人の方も、職業柄血液に触れる機会の多い医療従事者や、家庭内や身近にB型肝炎ウイルスキャリアがいる場合など感染リスクが高い人には任意接種や定期的な検査が推奨されます。
日常生活での感染予防策としては、他人の血液に触れないよう十分注意することが大切です。
例えば、歯ブラシやカミソリなど血液が付着する可能性のある日用品は他人と共有しない、けが人の手当てをする際はビニール手袋を着用する、といった対策が有効です。
また、不特定の相手との性行為ではコンドームを正しく使用し、B型肝炎ウイルスを含む様々な感染症の感染リスクを下げてください。
違法な薬物の注射器具を回し使いすることは言語道断ですが、入れ墨やピアス施術の際にも衛生管理が行き届いた信頼できる施設を利用することが重要です。
もう一つ重要なのは母子感染の予防です。
B型肝炎ウイルスに感染している妊婦さんから生まれるお子さんに対しては、出産直後にHBIG投与とワクチン接種を行うことで、ほとんどの場合に感染を防ぐことができます。
さらに、万が一ウイルスに暴露するような事故が起きた場合でも、できるだけ早くHBIGの筋注とワクチン接種を行えば感染発症を予防できる可能性があります。
このような予防策を徹底し、感染の危険がある場面では適切な対策をとることで、B型肝炎の感染リスクを大幅に減らすことができます。