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大腸がん
疾患の概要
大腸がんは、大腸に発生する悪性腫瘍です。
大腸は小腸に続く約1.5メートルの臓器で、水分を吸収して便を作り肛門へ送る役割があります。
大腸の内壁にできるポリープが、時間をかけてがんに変化していくケースが多くみられます。
このポリープががんになるまでには5〜10年程度かかると考えられており、大腸がんは進行が比較的ゆっくりしています。
大腸がんの患者数は年々増加しており、罹患数は現在、日本人男性で最も多く、女性でも2番目に多いがんとなっています。
胃がんが減少する一方で、大腸がんは高齢化や食生活の欧米化に伴い増加傾向にあります。
頻度の高いがんですが、早期に発見して適切に治療すれば高い確率で治癒が期待できます。
日本の統計で大腸がん全体の5年生存率は約71%と報告されていますが、早期がんなら90%以上が治癒し、進行すると生存率が大きく低下するため、早期発見が極めて重要です。
定期的な検診などで早期に見つければ、体への負担が少ない方法で根治を目指すことも可能です。
症状
大腸がんの早期には、目立った症状が現れないことがほとんどです。
実際、早期の大腸がん患者さんの多くは自覚症状がなく、検診などで偶然発見されています。
がんが進行すると、症状は腫瘍のできた部位によって異なりますが、代表的な症状としては排便時に出血することがあります。
便に鮮血や粘液が付着するため、痔の出血と自己判断されがちですが、そのような出血が続く場合は注意が必要です。
また、下痢と便秘を繰り返す、便が細くなる、排便後も残便感があるなど便通の変化もみられます。
腫瘍が大きくなって腸管が狭くなると、腹痛や腸閉塞の症状を引き起こすこともあります。
さらに、慢性的な出血により貧血が進行すると、疲れやすさやめまい、動悸、息切れなど全身の症状が現れることもあります。
特に大腸の出口に近い左側のがんでは、血便や便通異常が比較的早期から起こりやすい傾向があります。
一方、大腸の入り口に近い右側のがんでは症状が出にくく、貧血や腹部の違和感がかなり進んでから見つかるケースが少なくありません。
さらに病状が進むと、食欲不振や原因不明の体重減少がみられる場合もあります。
原因
大腸がんの発生にはさまざまな要因が関与しています。
明確な単一の原因はありませんが、以下のようなリスク因子が知られています。
年齢
発症は40歳代から増加し、高齢になるほどリスクが高まります。
食生活・肥満
肉類や脂肪の多い欧米型の食事、食物繊維不足、過食による肥満などは大腸がんのリスクを高めるとされています。
なお、WHOも加工肉の摂取は大腸がんのリスク要因になると報告しています。
喫煙・飲酒
タバコの喫煙習慣や過度の飲酒は、大腸がんの発生リスクを高めます。
運動不足
日常的に運動をしない生活は大腸がんのリスクを上げる可能性があります。
家族歴・遺伝要因
両親や兄弟姉妹が大腸がんに罹患した場合は、自身も大腸がんを発症するリスクが高くなります。
また、家族性大腸ポリポーシスやリンチ症候群などの遺伝性疾患では若いうちから大腸がんが発生する可能性が非常に高くなります。
これらは稀な病気ですが、大腸がん患者の一部に認められます。
既往症
過去に大腸にポリープが見つかったことがある人や、大腸がんを経験した人は将来新たに大腸がんが発生しやすいことが知られています。
慢性的な炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎やクローン病の罹患者も、大腸がんのリスクが通常より高くなります。
治療
大腸がんの治療法は、がんの進行度や性質、患者さんの体の状態に応じて決定されます。
主な治療には、内視鏡を使った切除、外科手術、抗がん剤を用いる化学療法、放射線療法、さらに近年の方法として分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使う治療などがあります。
それぞれの方法に役割があり、組み合わせて行われることもあります。
内視鏡的治療
早期の大腸がんでは、内視鏡による切除が行われます。
大腸カメラを肛門から挿入し、先端についた器具で腫瘍を切り取る方法です。
お腹を大きく切開しないため体への負担が少なく、比較的安全に受けられる治療ですが、まれに出血や腸に穴が開くといった合併症が起こることもあります。
切除した部位は顕微鏡で詳しく調べ、がんが完全に取り切れているか、リンパ節への転移の可能性が低いかを確認します。
その結果、転移のリスクが高いと分かった場合には、追加で外科手術を行うこともあります。
内視鏡治療のみで済んだ場合は大腸の機能が温存され、比較的早く普段の生活に戻ることができます。
外科手術
手術は大腸がん治療の基本となる方法で、多くの症例でまず検討されます。
一般的には、がんがある腸の部分とその周囲のリンパ節を切除し、残った腸同士をつなぎ合わせます。
これにより体内からがんを取り除きます。
従来から行われている開腹手術に加えて、近年はお腹に小さな穴を開けて内視鏡カメラと器具を挿入して行う腹腔鏡手術が広く行われています。
腹腔鏡手術は傷口が小さいため術後の痛みが少なく、出血も少なく抑えられ、入院期間が短いといった利点があります。
一方で、進行した症例や腫瘍の大きい症例などでは手術視野を広く確保する必要があるため、開腹手術が選択されることもあります。
また、直腸にできたがんで腫瘍が肛門に近い場合には、排便の通り道を確保するために一時的または永久的な人工肛門を造設することがあります。
化学療法
抗がん剤を使った化学療法は、手術後の再発予防や、進行・再発した大腸がんに対する治療として行われます。
手術でがんを取り切った後、目に見えない残存がん細胞を減らし再発を防ぐ目的で抗がん剤を投与することがあります。
これを術後補助化学療法と呼び、主にステージIIIや再発リスクの高いステージIIの患者さんに実施されます。
一方、手術で完全に切除できない進行がんや再発例では、抗がん剤による薬物療法が治療の中心となります。
この場合、がんの進行を抑えて症状を和らげ、生存期間を延ばすことが目的になります。
抗がん剤治療は通常、点滴や内服によって行い、効果を高めるため複数の薬剤を組み合わせることもあります。
副作用が出ることもありますが、近年は副作用を和らげる薬剤の進歩により、たとえば吐き気止めの併用で以前より対処しやすくなっています。
放射線療法
放射線療法は、エネルギーの高い放射線を照射してがん細胞を死滅させる治療法です。
大腸がんのうち特に直腸がんでは、手術と組み合わせて放射線を用いることがあります。
例えば、直腸にできたがんが大きい場合には、がんを手術で取りやすくするために、手術の前に放射線治療を行うことがあります。
この際には、必要に応じて抗がん剤を一緒に使い、治療効果を高めることもあります。
また、再発や転移によってがんが骨や脳などに広がり痛み・症状が出ている場合、その部位に対して緩和目的で放射線を当てることもあります。
放射線療法は主に体の外から照射を行い、治療自体に痛みは伴いません。
治療回数は週に数回を複数週続けるケースが一般的です。
分子標的薬による治療
分子標的薬とは、がん細胞の増殖や生存に関わる特定の分子を狙い撃ちして、その働きを妨げる薬です。
大腸がんでは主に進行・再発例の薬物療法で抗がん剤と併用され、治療効果を高める目的で使用されます。
例えば、がん細胞が成長するのに必要な血管の新生を阻害する薬や、がん細胞の増殖シグナル伝達に関与する受容体を標的とする薬があります。
これらの分子標的薬を使用するかどうかは、がん細胞の遺伝子検査で効果が期待できるタイプかどうかを確認したうえで判断されます。
従来の抗がん剤と比べて作用が特定の分子に向かうため、副作用の現れ方が異なる点も特徴です。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫の働きにかけている「ブレーキ」を外し、体が本来持っている免疫による攻撃力を高めるタイプの新しい薬です。
いわば免疫の力でがんと闘う「免疫療法」の一種で、大腸がんに対しては近年、一部の進行・再発症例で導入されています。
特に、がんの遺伝子検査で「マイクロサテライト不安定性が高い」タイプであることなどが確認された場合には、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療が有効とされています。
このようなタイプの大腸がんでは、従来の抗がん剤では得られにくかった長期生存や腫瘍縮小が期待できるようになってきました。
ただし、免疫療法が効果を発揮するのは対象となる一部の患者さんのみであり、全ての大腸がん患者さんに有効というわけではありません。
現在も適応となる条件や効果を予測する指標について研究が進められています。
治療方針は標準的な治療ガイドラインに基づきつつ、患者さんの年齢や他の病気の有無、生活状況や希望なども考慮して決定されます。
最適な治療を選ぶためには、医療チームと十分に相談し、自分が納得できる治療法を選択することが大切です。
各治療法にはメリットとデメリットがあるため、不明な点は遠慮なく医療者に質問し、理解を深めていきましょう。
早期発見のポイント
大腸がんを早期に発見するためには、症状がなくても定期的に検診を受けることが重要です。
日本では自治体による大腸がん検診として、40歳以上の男女を対象に毎年1回の便潜血検査が推奨されています。
便潜血検査とは、肉眼では見えない微量の血液が便に混じっていないかを調べる検査です。
大腸がんやポリープからの出血は断続的に起こることがあるため、検査では2日分の便を提出して調べます。
なお、大腸がん検診は有効性が高く、全てのがん検診の中で唯一実施を強く推奨される検診とされています。
検診の便潜血検査で異常が疑われた場合は、精密検査として大腸内視鏡検査を受ける必要があります。
便潜血検査が陽性でも必ずしもがんが見つかるわけではありませんが、精密検査で確認することが重要です。
大腸内視鏡検査では、肛門から内視鏡を挿入して大腸の内部を直接観察し、必要に応じて組織検査を行います。
内視鏡検査によりポリープや早期がんが見つかった場合、その場で切除して治療まで行えることもあります。
便潜血検査は簡便な有用な検査ですが、1回の検査でがんが見つからないこともあるため、毎年定期的に受け続けることが大切です。
また、検診の間隔内であっても、便に血が混ざる、下痢や便秘が続く、原因不明の腹痛が続くなど気になる症状が出た場合には、次の検診を待たずに医療機関を受診してください。
症状がある場合は検診ではなく診断のための精密検査が必要です。
早期発見できれば内視鏡治療で済む可能性も高く、結果的に体への負担が軽くなり、生存率も大幅に向上します。
なお、家族に大腸がんの患者さんがいる場合などリスクが高い方では、より若い年齢からの内視鏡検査など積極的な検診を検討することもあります。
ご自身のリスクに応じた検診については医師と相談してください。
予防
大腸がんを完全に防ぐ確実な方法はありませんが、次のような生活習慣の改善によって発生リスクを下げられる可能性があります。
バランスの良い食事
野菜や果物に多く含まれる食物繊維を十分に摂り、脂肪分や赤身肉やハム・ソーセージなどの加工肉の過剰摂取を控えましょう。
適度な運動・適正体重の維持
日頃から適度に体を動かし、肥満を予防することが大切です。
運動習慣のある人は大腸がんになりにくい傾向が報告されています。
肥満そのものがリスクとなるため、適正体重を維持することも重要です。
禁煙
タバコを吸わないことは大腸がんを含む全てのがん予防に有効です。
飲酒を控える
アルコールの飲みすぎは大腸がんのリスク要因です。
適量にとどめ、できれば飲酒しない日を設けるようにしましょう。
これらの生活習慣の改善に加えて、検診を定期的に受けることも早期発見による大腸がんの予防につながります。
便潜血検査でポリープや早期がんが見つかり切除できれば、進行がんになるのを防ぐことができます。
また、近年の研究では、心血管疾患予防のための低用量アスピリンの服用が大腸がん予防にも効果を持つ可能性が示唆されています。
ただし、アスピリンの内服は消化管出血など副作用のリスクもあるため、大腸がん予防目的で服用を始める際は必ず医師と相談してください。