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梅毒

しこり・腫瘍リンパ節の腫れ倦怠感・だるさ発熱・高熱発疹 内科の病気

疾患の概要

梅毒は、トレポネーマ・パリダムという細菌(スピロヘータ)によって引き起こされる性感染症で、主に性行為を通じて感染します。
皮膚や粘膜の小さな傷から病原体が侵入し、感染初期には性器や口腔、肛門などにしこりや潰瘍が形成され、時間の経過とともに全身にさまざまな症状を引き起こします。
症状が一時的に自然消退することもあるため、放置されやすく、進行すると深刻な合併症を引き起こす可能性があります。

梅毒は古くから知られる感染症であり、歴史的には15世紀末にヨーロッパで大流行したとされ、日本でも江戸時代には“やまい”と呼ばれ恐れられていました。
一時は抗菌薬の普及により減少しましたが、現在では再び若年層を中心に流行が拡大しています。
特に近年は、インターネットを介した出会いやセーファーセックスに対する認識の低下が一因とされ、梅毒の再拡大に拍車をかけています。

感染者数の増加は都市部を中心に著しく、厚生労働省の発表によると、近年では年間1万人以上の新規報告数が確認されており、性別・年齢問わず感染が広がっている現状があります。
特に女性感染者の増加は、妊婦を通じた胎児への感染リスクの増大にもつながり、社会的にも深刻な課題となっています。

梅毒の進行は段階的で、一次梅毒から始まり、二次梅毒、潜伏梅毒、そして三期梅毒へと進行します。
初期には無痛性のしこりが出現し、やがて発疹、脱毛、リンパ節の腫れなどの全身症状が現れます。
さらに進行すると、皮膚や骨、内臓、神経系にまで病変が及ぶことがあります。
特に三期梅毒では重篤な障害が残ることもあり、放置すれば生命に関わる事態に至ることもあるため、早期診断と治療が非常に重要です。

梅毒は適切な抗菌薬治療によって治癒が可能な感染症ですが、再感染やパートナーへの感染を防ぐためにも、感染の早期発見、治療の完遂、パートナーの同時治療、継続的なフォローアップが不可欠です。
性感染症の中でも再流行が顕著な疾患であり、社会的な啓発と感染拡大の防止が求められています。

症状

梅毒の症状は、感染の進行段階に応じて異なります。
一次梅毒では、感染から約3週間後に無痛性の硬くて丸いしこり(硬性下疳)が性器、肛門、口唇などの感染部位に出現します。
通常は1個で、しこりはやがて潰瘍となりますが、痛みがないため気づかれずに経過することも多く、数週間で自然に消失することがあります。

硬性下疳とともに、近くのリンパ節が腫れることもありますが、これもまた痛みがなく、風邪や他の感染症と見分けがつきにくいことがあります。
皮膚や粘膜に起きる病変は非特異的で、外見だけでは梅毒と診断するのが難しいため、見逃されやすいという特徴があります。
しこりや潰瘍は、感染部位の湿潤環境などによって見た目が異なることもあり、医療機関での詳細な視診・問診が必要です。

症状が消えた後でも体内の細菌は残っており、数週間から数か月後に二次梅毒へと進行します。
二次梅毒では、発熱、倦怠感、全身のリンパ節腫脹、皮膚に梅毒性バラ疹と呼ばれる赤い発疹が出現します。
発疹は手のひらや足の裏にも見られることがあり、かゆみがないため気づかれにくいこともあります。
また、脱毛(梅毒性脱毛)、口内炎、扁桃炎なども見られる場合があります。
まれに全身に多数の丘疹が生じることもあり、乾癬や湿疹と誤診される例もあります。

これらの症状も数週間から数か月で自然に消退することが多く、その後は無症状の潜伏期に入ります。
潜伏梅毒では、自覚症状がないにもかかわらず、体内には菌が存在し続け、感染源となり得ます。
この段階で検査を受ける機会がなければ、感染に気づかないまま長期間を経過することになります。
潜伏期間が長くなると、抗体検査でのみ感染が判明する場合もあり、感染経路の特定が難しくなることもあります。

さらに数年から十数年が経過すると、三期梅毒へと進行することがあります。
三期梅毒では、皮膚や骨にゴム腫と呼ばれる結節状の腫瘤ができたり、心血管系や中枢神経系への障害(心血管梅毒、神経梅毒)が出現します。
神経梅毒では記憶障害、歩行困難、幻覚、認知症様症状などを引き起こし、日常生活に深刻な支障を来すことがあります。
神経症状は進行性で不可逆となる可能性があり、失語や麻痺を伴う重篤な神経障害が出る場合もあるため、早期の介入が求められます。

原因

梅毒の原因は、らせん状の細菌であるトレポネーマ・パリダムです。
この細菌は非常に感染力が高く、性行為の際に相手の粘膜や皮膚の微細な傷口から侵入して感染します。
一次梅毒や二次梅毒の患者の潰瘍や皮疹、粘膜病変には大量のトレポネーマが存在しており、直接接触することで感染が成立します。

感染経路の多くは性行為によるものであり、性器性交、肛門性交、オーラルセックスなど、粘膜同士が接触する行為すべてが感染リスクとなります。
近年では性的接触の多様化により、口腔梅毒や肛門梅毒など、非典型的な部位の感染も増加しています。
感染源が見えにくいこと、症状が非特異的なことが感染拡大を助長する一因となっています。

加えて、先天梅毒という母子感染も存在します。
これは、妊娠中の母親が梅毒に感染している場合に、胎盤を通じて胎児に病原体が移行することで発症するもので、早産、死産、新生児の重篤な発育障害を引き起こすことがあります。
先天梅毒は予防可能な疾患であり、妊婦健診における早期発見・治療が極めて重要です。

他にも、不衛生な針や器具を用いた医療行為、刺青、ピアスなどによって感染が広がるケースもあり、性感染症としてだけでなく、衛生状態の悪い環境下でも感染が起こり得ることを認識する必要があります。

治療

梅毒の治療には、ペニシリン系抗菌薬が第一選択とされています。
初期段階(一次・二次梅毒)では、数週間の抗菌薬投与で完全な治癒が見込まれます。
日本ではアモキシシリンが一般的に用いられ、効果が確認されています。
ペニシリンアレルギーのある人には、ドキシサイクリンやテトラサイクリンなどの代替薬が使われることがあります。

治療中には、トレポネーマの死滅に伴い一時的な発熱や全身倦怠感を伴う「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応」が見られることがありますが、これは通常一過性であり、過度な心配は不要です。
症状が落ち着けば自然に改善していきます。

神経梅毒や心血管梅毒といった三期梅毒では、より長期間かつ高用量の抗菌薬による治療が必要となり、入院が必要となることもあります。
治療後には、定期的に血清反応(梅毒抗体価)をチェックし、治療効果の判定と再感染の確認を行います。

また、パートナーも同時に治療を受けることが原則です。
本人だけが治療を受けても、感染源が残っていれば再感染の可能性が高いため、パートナーへの告知と検査・治療の実施が治療成功には不可欠です。

早期発見のポイント

梅毒は早期治療によって完治が可能な感染症ですが、初期症状が軽度で自然に消えることがあるため、早期発見が難しいという特徴があります。
性行為の後に性器や口唇などにしこり、潰瘍、ただれなどの異常があった場合は、速やかに性感染症に対応している医療機関を受診することが重要です。

また、皮膚に原因不明の発疹が出現したり、脱毛、リンパ節腫脹、発熱などの症状が現れた際も、梅毒の可能性を考慮して検査を受けることが勧められます。
特に、発疹が手のひらや足の裏に出現する、左右対称に現れるといった特徴がある場合は、梅毒性バラ疹の可能性を念頭に置く必要があります。
これらの症状は一時的に消えることが多いため、自己判断で放置せず、早めに受診することが望まれます。

性感染症のリスクがある行為を行った後、症状の有無にかかわらず検査を受けることは、自身の健康と周囲への感染予防の両面で重要です。
パートナーに症状が見られた場合や、感染の可能性を指摘された場合も同様に検査が必要です。
匿名での検査が可能な自治体や保健所も多く、プライバシーを確保しながら検査を受けることができます。

血液検査によるスクリーニングは比較的簡便に行えるため、定期的に検査を受けることが早期発見・早期治療につながります。
梅毒の血清反応検査(TPHA、RPRなど)は感染歴や治療効果の判定にも使用され、感染の有無を確実に調べる方法です。
性感染症の検査とあわせてHIVやクラミジアなどの同時感染の有無を確認することも重要です。

さらに、感染者が増加傾向にある昨今では、医療機関だけでなく一般の人々にも正確な知識が求められています。
早期発見のためには、教育や啓発活動の強化と、感染の兆候を見逃さない意識が社会全体に必要です。

予防

梅毒の予防には、感染経路を遮断することが基本です。
性行為の際にはコンドームを正しく使用することが最も効果的な方法とされています。
粘膜同士の接触を避けることが感染防止につながりますが、コンドームを使用していても完全に防げない場合もあるため、感染者との接触を避けることが第一です。

また、性行為においてパートナーの健康状態に注意を払い、不特定多数との性行為を避ける、性感染症に対する正しい知識を持つことも感染リスクの低減につながります。
性感染症専門外来や保健所などでは匿名で検査を受けられる場合もあり、症状がない人でも定期的な検査を受けることが勧められます。

妊婦健診では必ず梅毒検査が実施されており、妊娠初期に感染が確認された場合には、早期の治療により胎児への感染を防ぐことが可能です。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。