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食道がん

体重減少喉のつかえ胸の痛み胸やけ血便・黒色便 胃・食道の病気

疾患の概要

食道がんは、食道の内側を覆う細胞が異常増殖して生じるがんです。
日本では、食道がんの約90%が「扁平上皮がん」と呼ばれるタイプで、食道の粘膜を構成する扁平上皮という細胞から発生します。
一方、食道の下部で見られる「腺がん」という粘膜の腺細胞が由来のタイプは日本ではまだ少ないものの、食生活の欧米化や生活習慣の変化により将来的に増加すると予想されています。
食道がんは60歳以上の男性に多く、男性の患者数は女性の約5倍と報告されています。
食道は周囲を肺や心臓、大動脈など重要な臓器に囲まれており、食道の壁も薄いため、がんが発生すると周囲組織への浸潤やリンパ節・他臓器への転移を起こしやすい特徴があります。
その結果、初期のうちは自覚症状が乏しく見逃されやすい一方で、症状に気づいた時には進行しているケースが少なくありません。
食道がんは早期に発見されない限りほぼすべてのケースで命に関わる深刻な病気であり、日本でも年間約1万人がこの病で亡くなっています。
ただし、治療技術の進歩により、早期に発見して適切な治療を行えれば5年後の生存率が50~60%程度に達するとの報告もあります。
そのため、いかに早い段階で食道がんを発見するかが重要なポイントとなります。

症状

食道がんの初期には目立った症状がほとんどありません。
病状が進行するにつれて徐々に症状が現れてきますが、典型的な症状としては食べ物や飲み物が飲み込みにくくなることがあります。
これは、はじめは固い物や大きな食べ物がつかえる感じとして自覚され、病気が進むとお粥や水のような流動食でも喉や胸に引っかかるようになります。
また、胸のあたりに灼けるようなしみる痛みやチクチクとした違和感、喉の違和感などを訴える場合もあります。
がんが大きくなると血管が豊富な腫瘍から出血しやすくなり、吐いたものに血が混ざったり黒っぽい便が出たりすることがあります。
さらに、腫瘍が進行して食道周囲の臓器に及ぶと、背中や胸の痛みが生じたり、気管や気管支が圧迫・浸潤されることで長引くせきや血の混じった痰が出たりすることもあります。
がんがリンパ節へ転移し、声帯を動かす神経に障害を与えた場合には声がかすれる症状が現れることがあります。
また、食道が狭くなることで十分に食事が取れなくなるため、原因不明の体重減少や全身の倦怠感も進行した段階ではよくみられます。
このように、症状が出現した時点でかなり病状が進んでいることが多いため、少しでも「飲み込みにくい」「胸や喉に違和感がある」と感じたら早めに医療機関を受診することが望まれます。

原因

食道がんの明確な発症原因は解明されていませんが、いくつかの危険因子が知られています。

その中でも特に重要なのが喫煙と多量の飲酒です。
喫煙と飲酒の習慣がある人は食道がんの発生リスクが非常に高く、2つを併用することで相乗的に危険性が高まることが報告されています。
とくに日本人に多い扁平上皮がんは、喫煙と飲酒との関連が強いことが分かっています。
アルコールが体内で分解される際に生じるアセトアルデヒドという物質には発がん性があり、お酒を飲むと顔が赤くなる体質の方は食道がんを発症しやすいことも知られています。
一方、欧米で多い腺がんの危険因子としては、長年にわたる胃酸の逆流やそれによって生じる食道の粘膜の変化、そして肥満などが挙げられます。
肥満傾向にあると腹部に脂肪がついて胃酸が食道に逆流しやすくなるため、結果的に食道下部の腺細胞に負担がかかり腺がんのリスクが上昇します。
同様に、高齢であることや男性であることも食道がんの発生リスクを高める因子です。
実際、日本の食道がん患者は中高年の男性に集中しています。
そのほか、口腔や咽頭のがんにかかったことがある人は、食道の粘膜にもがんが発生しやすい傾向があります。
これは喫煙や飲酒など共通の要因によって、食道を含む広い範囲の粘膜に発がんが促されるためと考えられます。
まれな原因ですが、熱い飲み物の過度な摂取による長年の粘膜刺激や、食道アカラシア、家庭用洗剤や漂白剤など腐食性物質の誤飲による食道損傷なども食道がんリスクを高める可能性が指摘されています。

治療

食道がんの治療は病気の進行度や患者さんの全身状態に応じて最適な方法が選択されます。
大きく分けると手術、放射線治療、化学療法、そして内視鏡治療の4つのアプローチがあり、近年ではこれらを組み合わせて治療する集学的治療が主流です。

手術では、がんができた食道の病変部位とその周囲の食道を外科的に切除し、同時に転移の可能性がある近傍のリンパ節も取り除きます。
そして失われた食道の一部を再建して食物の通り道を作ります。
一般的には胃を細長く切り筒状にして残った食道と縫い合わせる再建法が行われます。
食道は首から腹部に至る長い臓器のため、手術の際には頸部・胸部・腹部の3か所にわたる大きな手術が必要になることもあり、患者さんにとって大きな負担となることがあります。
しかし、外科手術によって原発腫瘍を取り切ることができれば根治を目指すことができます。

放射線治療は、エックス線などの放射線をがん病巣に集中して照射し、がん細胞を死滅させる方法です。
照射は体の外から行われ、治療の効果は照射部位の局所に限定されます。
手術と比較して体への侵襲が少なく、患者さんの体力が低下している場合や手術が難しいケースでも適用できる利点があります。
放射線治療は単独で行うこともありますが、後述の化学療法と併用して効果を高めることもあります。

化学療法は、がん細胞を攻撃する薬剤を点滴や内服で投与する治療法です。
薬は血液の流れに乗って全身を巡るため、食道だけでなく体内に散らばっている可能性のある見えないがん細胞にも作用します。
食道がんでは、手術前後に補助療法として抗がん剤を用いたり、手術の代わりに放射線治療と抗がん剤を同時に行う化学放射線療法が行われることもあります。
化学放射線療法により、手術をしなくても根治を目指せる場合もあります。
また、近年では免疫チェックポイント阻害薬などの新しい薬物療法も進行・再発した食道がんに対して使用され始めており、治療の選択肢が広がっています。

内視鏡治療は、胃カメラのような内視鏡を用いて体の外から切開することなく腫瘍を切除する方法です。
特に、粘膜内にとどまるごく早期の食道がんでリンパ節転移のリスクが低いと判断される場合には、内視鏡的粘膜切除術や内視鏡的粘膜下層剥離術といった内視鏡治療が選択されます。
内視鏡治療は体への負担が少なく、合併症もまれであるため、早期がんに対しては患者さんの生活の質を保てる優しい治療法です。

このように食道がんの治療では、病変の広がり具合に応じて最適な治療法を組み合わせていきます。
例えば、早期発見された小さながんなら内視鏡治療のみで完治が期待できますし、ある程度進行した場合は手術と抗がん剤・放射線を併用することで治癒を目指します。
遠隔転移があるような進行例では、根治は難しいものの抗がん剤や放射線、免疫療法などでがんの進行を抑え症状を和らげる緩和治療を行います。
担当医は患者さん一人ひとりの病状に合わせて最善の治療計画を立てていきます。

早期発見のポイント

食道がんで何より重要なのは早期に発見することです。
前述のとおり、早期の食道がんは自覚症状に乏しく、症状が出てからでは既に病気が進行している場合が多くなります。
そのため、症状がなくても定期的に検診や検査を受けることが勧められます。
特に、お酒をよく飲む方やタバコを吸う方、胃食道逆流症で慢性的に胃酸の逆流がある方、あるいは過去に他の消化器のがんに罹患した方などはハイリスク群ですので、意識的に消化器の検査を受けるようにしましょう。
早期発見のためには、胃カメラが有効です。
内視鏡検査では食道の粘膜を直接観察でき、ごく小さな病変でも発見できます。
必要に応じてヨード染色や狭帯域光観察といった特殊な観察法を併用することで、早期のがんをより確実に見つけることも可能です。
実際、定期的に内視鏡検査を受けて早期の段階でがんが見つかれば、内視鏡治療のみで治癒が期待できるケースも少なくありません。
逆に、「食べ物が飲み込みにくい」といった症状が出てから受診した場合には、既に進行がんで治療が長期・大掛かりになることが多いため、そうなる前に検査で見つけ出すことが大切です。

予防

食道がんを予防するためには生活習慣の見直しが不可欠です。
リスク要因となる喫煙習慣がある方は禁煙を心がけましょう。
また、飲酒も食道がん発生の大きな要因であるため、飲酒量を減らす・控えることが有効です。
特に大量の飲酒習慣がある人は、お酒を控えるだけで食道がんの発生リスクを大幅に減らせるとされています。
日頃から野菜や果物を積極的に摂るバランスの良い食生活も、食道がんになりにくい体づくりに役立つと報告されています。
肥満傾向にある方は適正体重の維持に努め、慢性的な胃酸の逆流が見られる場合には早めに医療機関で治療しましょう。
肥満の解消や胃食道逆流症の治療は、腺がんタイプの食道がんの予防につながります。
熱すぎる飲食物の常習的な摂取は避け、食道に余計な刺激を与えないことも一助となるでしょう。
結局のところ、「タバコを吸わない」「お酒は適量にとどめる」「規則正しい食生活と適度な運動で健康管理をする」ことが、食道がん予防の基本と言えます。
これらの対策を心がけることで、食道がんになるリスクを下げることが期待できます。
万一、のどの違和感や嚥下障害など気になる症状が出た場合には、早めに検査を受けるようにしてください。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。