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急性胃腸炎
疾患の概要
急性胃腸炎とは、胃と腸の粘膜に急激に炎症が起こる病気です。
一般には「胃腸風邪」と呼ばれることもあり、原因の多くはウイルスや細菌などの微生物による感染症です。
食べ物や水を介して病原体が体内に入り、突然の下痢や嘔吐などの症状が現れます。
多くの場合、症状は数日から1週間程度でおさまりますが、脱水症状に注意が必要な病気です。
また、健康な成人では重症化しにくい一方で、小さなお子さんや高齢者では症状が重く出ることがあります。
急性胃腸炎は日常的に非常にありふれた病気であり、腹痛を伴う急な体調不良の原因として最も多いものの一つです。
発症時期は冬と夏に多い傾向があり、冬季にはノロウイルスなどによる流行、初夏から夏には細菌による食中毒が増える傾向があります。
例えばノロウイルスは少量のウイルスで感染する強い感染力を持ち、集団発生しやすいことで知られています。
一方、夏場は十分に加熱されていない鶏肉や牡蠣などを介して細菌感染が起こりやすく注意が必要です。
症状
急性胃腸炎の主な症状は、下痢・腹痛・吐き気・嘔吐です。
下痢は水のように液体状になることが多く、1日に何度もトイレに行かなければならないほど頻回になる場合があります。
腹痛は差し込むように一時的に強くなったり和らいだりする波のある痛みが特徴的で、下痢に伴ってお腹がシクシクと痛むことがよくあります。
吐き気や嘔吐もよく見られ、食べ物を受け付けなくなったり、嘔吐によって胃の内容物や胃液を吐いてしまったりすることがあります。
これらに加えて発熱がみられることもあり、ウイルス性では37℃台の微熱程度ですが、ノロウイルスや細菌性の場合は38℃以上の高熱になることもあります。
症状が強い場合は脱水症状にも注意が必要です。
嘔吐や下痢が続くと体内の水分が失われ、口の渇きや尿量の減少といった脱水のサインが現れることがあります。
特に乳幼児や高齢者では短時間で脱水が進行しやすく、ぐったりとして反応が鈍い、唇が乾く、尿が出ないといった様子が見られたら注意が必要です。
幸い、多くの急性胃腸炎は適切に対処すれば数日で快方に向かい、ウイルス性胃腸炎の場合は通常5~7日程度で症状が治まるとされています。
原因
急性胃腸炎を引き起こす原因は大きく感染性のものと非感染性のものに分けられます。
最も多い原因はウイルスや細菌などによる感染性胃腸炎です。
代表的なものに、冬場に流行するノロウイルスや乳幼児に多いロタウイルス、アデノウイルスなどのウイルス感染があります。
ウイルスは小腸の粘膜細胞に感染して増殖し、水様性の下痢や嘔吐、発熱を引き起こします。
また、食中毒の原因となる細菌感染もあります。
カンピロバクターやサルモネラ、病原性大腸菌といった細菌が代表で、加熱不十分な食品や汚染された水を口にすることで感染します。
細菌性の場合、激しい腹痛や高熱、血の混じった下痢を起こすこともあります。
まれに寄生虫による胃腸炎もあり、こちらは山や川の水、生水の飲用や動物との接触をきっかけに感染することがあります。
一方、感染症以外の要因で胃腸炎と似た症状が出る場合もあります。
例えば、暴飲暴食や香辛料・アルコールの過剰摂取、極端に冷たいものや熱いものの飲食は胃腸の粘膜を荒らし一時的な炎症を起こすことがあります。
痛み止めなどの薬剤や一部の抗生物質の服用によって胃腸が刺激され、二次的に嘔吐や下痢をきたすこともあります。
また、強いストレスや不規則な生活習慣、喫煙なども胃腸の防御機能を低下させ、急性胃炎の引き金となることがあります。
さらに、食物アレルギーによって特定の食品を摂取した際に胃腸が過敏に反応し、下痢や腹痛を起こすケースもあります。
治療
急性胃腸炎の治療の基本は、胃腸を休めて水分を十分に補給することです。
多くのケースでは特別な治療をしなくても、自宅で安静にし水分と塩分・糖分の補給を行えば自然に回復します。
嘔吐や下痢がある間は、無理に固形物を食べようとせず胃腸を休ませることが大切です。
症状が強い最初の半日から1日程度は絶食するのも有効で、その間は経口補水液を少量ずつ頻繁に摂り、脱水を防ぎます。
吐き気が治まってきたら、重湯やおかゆ、スープ、バナナなど消化に良い食事から少しずつ再開しましょう。
下痢や嘔吐が続き自力で水分を摂れない場合は、医療機関で点滴による補液治療が必要になることがあります。
発熱や腹痛が強いときには、解熱剤や鎮痛剤を使用して症状を和らげます。
例えば、胃に優しい解熱鎮痛薬であるアセトアミノフェンは急性胃腸炎の発熱時によく用いられます。
また、整腸剤を処方されることもありますが、下痢止め薬の安易な使用には注意が必要です。
感染性胃腸炎では下痢は体内の病原体を排出する防御反応でもあるため、自己判断で下痢止めを使わないほうが良い場合もあります。
原因に応じた治療も行われます。
ウイルス性の胃腸炎には特効薬がないため対症療法が主体ですが、細菌性胃腸炎の中でも腸チフスやコレラ、重い細菌感染症、あるいは寄生虫が原因の場合には抗生物質による治療が行われます。
早期発見のポイント
急性胃腸炎は突然症状が現れるため、事前に発症を察知するのは難しいですが、重症化のサインを見逃さず早めに対処することが重要です。
まず、強い腹痛や嘔吐・下痢の症状が出たときには「胃腸炎かもしれない」と考え、安静にするとともに水分補給を開始しましょう。
思い当たる原因、怪しい食べ物を食べた、周囲で同じ症状の人がいるなどがある場合は、早めに対処することで軽快しやすくなります。
一方で、腹痛があっても下痢がない、痛みが途切れず徐々に強くなってくる、といった場合は胃腸炎ではなく急性虫垂炎など他の病気の可能性があります。
腹痛に波がなく持続する場合や、38℃以上の高熱が出ている場合は、急性胃腸炎以外の原因を疑い早めに医療機関を受診するようにしましょう。
また、嘔吐が丸2日以上続く場合、水分がまったく摂れないとき、下痢が数日経っても止まらない場合、血便がある場合、ぐったりしている場合などは早期に受診することが大切です。
予防
急性胃腸炎を予防するには、原因となる病原体を体に入れないことが何より重要です。
基本的なことですが、手洗いの徹底と食品の衛生管理が予防の柱になります。
感染者の便や嘔吐物を介して広がることが多いため、トイレの後やおむつ交換後、嘔吐物の処理後などは石けんと流水でしっかり手を洗うようにしましょう。
食品からの感染を防ぐためには、生肉や魚介類、卵などは中心部まで十分に加熱調理し、調理器具の衛生管理を徹底します。
調理後の食品は室温に放置せず早めに冷蔵保存し、できるだけ早く食べきりましょう。
また、水は安全な飲料水を使用し、生水は煮沸などで殺菌するようにします。
また、寄生虫感染を防ぐためには、キャンプや登山などで川の水を飲むことは避け、必ず煮沸や浄水処理を行いましょう。
動物との接触後にも手洗いを忘れず、特に小さなお子様がいる家庭では注意が必要です。
生活習慣に関わる胃腸炎の予防では、食べすぎや飲みすぎを控え、刺激物やアルコールの過剰摂取を避けるよう心がけましょう。
極端に冷たい・熱い飲食物を避けることも胃腸の負担軽減につながります。
薬の服用に際しては、胃に負担をかけるものは医師や薬剤師と相談し、可能であれば胃粘膜を保護する薬を併用するなどの工夫も大切です。
さらに、ストレスをためこまない生活、十分な睡眠、バランスのとれた食生活を通じて胃腸の防御機能を保つことも予防には欠かせません。
食物アレルギーがある場合には、原因となる食品を正しく理解し、誤って摂取しないよう注意が必要です。
家族内で感染者が出た場合は、嘔吐物や下痢便の処理と消毒を徹底します。
使い捨ての手袋とマスクを着用し、塩素系漂白剤で汚れた箇所を消毒します。
衣類や寝具は他と分けて洗濯し、タオルや食器の共用は避けましょう。
なお、乳幼児に対してはロタウイルスワクチンの接種が定期予防接種として推奨されています。
ワクチンによる予防も重要であり、体調を整え胃腸の抵抗力を高めておくことも大切です。
急性胃腸炎は誰にでも起こり得る病気ですが、正しい知識と予防策によって発症を防ぐことが可能です。