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インフルエンザ
疾患の概要
インフルエンザは、インフルエンザウイルスの感染によって引き起こされる急性の呼吸器感染症です。例年、冬から春先にかけて流行し、短期間で多くの人に感染が広がる特徴があります。感染力が非常に強く、学校や職場、家庭内などで一気に広がることがあり、流行の規模によっては社会的な影響を及ぼすこともあります。
インフルエンザウイルスは、低温かつ乾燥した環境で活性化しやすいため、気温が低く乾燥する冬季に感染拡大が起こりやすいとされています。湿度の低下により鼻や喉の粘膜の防御機能が弱まり、ウイルスが体内に侵入しやすくなることが要因とされています。また、人が屋内に集まりやすくなる時期とも重なるため、飛沫や接触による感染が広がりやすい環境が整っていることも一因です。
特に乳幼児や高齢者、持病を抱える方など免疫力が低下している人は重症化しやすく、肺炎や脳症、心不全、脱水症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの合併症を引き起こす可能性があるため注意が必要です。小児ではインフルエンザ脳症、高齢者では二次性の細菌性肺炎が重篤な経過をたどることもあります。これらの合併症によって入院を要するケースや、まれに命に関わる重篤な転帰をたどることもあり、インフルエンザは決して軽視できない疾患です。
また、インフルエンザウイルスは年ごとに遺伝子変異を繰り返す性質があり、これにより同じ人が複数回感染することもあります。毎年の流行に備えてワクチンが改良されるのはこのためです。さらに、過去にはA型ウイルスの大きな変異により新型インフルエンザが出現し、世界的な流行(パンデミック)を引き起こした事例もあります。たとえば1918年のスペインかぜ、1957年のアジアかぜ、1968年の香港かぜ、そして2009年の新型インフルエンザ(H1N1)などが代表的です。
こうした新型ウイルスは、人が免疫を持たない状態で急速に広がる可能性があるため、国際的な公衆衛生上の脅威として常に監視されています。このような背景からも、インフルエンザは「単なる風邪」とは異なる、感染力・重症度ともに高い疾患として認識し、正しい知識と対策を持って対応することが求められます。
症状
インフルエンザでは突然の38℃以上の高熱とともに、悪寒、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の強い症状が比較的急速に現れます。喉の痛みや鼻汁、咳といった呼吸器症状も伴い、高熱は通常3~7日間続きます。全身の倦怠感や食欲低下も顕著で、健康な成人でも回復までに1週間程度を要することが一般的です。
症状の出方は非常に急激で、朝は元気だったのに午後には寝込むといった経過をとることも少なくありません。倦怠感は強く、何も手につかないほどのだるさを訴える人も多くみられます。子どもでは高熱に加えて嘔吐や下痢、腹痛などの消化器症状を伴うことがあり、乳幼児では熱性けいれんを起こすこともあります。高齢者では発熱が目立たず、食欲不振や意識の混濁など、非典型的な症状が初発となることもあります。
また、肺炎や気管支炎、中耳炎、急性脳症などの合併症を引き起こすリスクもあり、特に小児・高齢者・基礎疾患を持つ方では重症化の可能性が高くなります。心疾患や糖尿病、呼吸器疾患のある方では、インフルエンザによって慢性疾患が悪化することもあります。解熱後も咳や倦怠感が長引くことが多く、回復後も体調が万全に戻るまでにさらに数日~1週間程度を要する場合があります。
原因
インフルエンザはインフルエンザウイルスの感染によって起こります。インフルエンザウイルスには構造の違いによりA型・B型・C型の3種類があり、主に人に流行を起こすのはA型とB型です。A型ウイルスはさらに多くの亜型に分かれ、鳥や豚など動物にも感染します。とくにA型は動物から人への感染(人獣共通感染)を介して新型インフルエンザの原因となることがあり、ウイルス監視の対象となっています。
人で毎年流行を起こす株も少しずつ変異を繰り返しており、これが毎年の流行に対応するワクチンの変更につながっています。過去には数十年おきに大きく変異した新型ウイルスが出現して世界的流行を引き起こしたことがあります。たとえば2009年には豚由来のA型インフルエンザ(H1N1)がヒト間で広がり、新型インフルエンザとしてパンデミックを起こしました。
インフルエンザウイルスの潜伏期間は1~3日程度と短く、患者さんの咳やくしゃみによる飛沫を吸い込むか、ウイルスが付着した手で鼻や口に触れることで感染します。症状が出る前日から他者にうつす可能性があり、知らないうちに職場や学校などで広まることもあります。家庭内でも一人の発症をきっかけに家族全体へ広がることがあるため、特に注意が必要です。流行期には短期間で爆発的に感染者が増えることがあり、毎年のインフルエンザシーズンには警戒が求められます。
治療
インフルエンザはウイルス感染症であるため、治療の基本は安静と水分補給です。十分に休養をとり、睡眠と栄養をしっかり確保することが最も重要になります。体力の消耗を防ぎ、免疫が充分に働くようにすることで自然治癒を早めます。高熱が出た場合は脱水を防ぐためこまめな水分摂取を心がけましょう。食欲がなく固形物が難しい場合は、経口補水液やスープなどで少しずつ水分・糖分・塩分を補給すると良いでしょう。
対症療法
対症療法としては、解熱鎮痛剤や咳止め、去痰薬、抗ヒスタミン薬などの風邪薬が用いられます。熱や痛みに対してはアセトアミノフェンやイブプロフェンなどが有効で、鼻水やくしゃみには抗ヒスタミン薬、鼻づまりには点鼻薬を使うことがあります。15歳未満の小児ではインフルエンザ時にアスピリンなどを使用すると急性脳症のリスクがあるため、解熱にはアセトアミノフェンが第一選択となります。
症状が重い場合や重症化リスクのある場合
症状が重い場合や重症化リスクのある方には抗インフルエンザ薬(内服・吸入・点滴)が用いられます。これらの薬はウイルスの増殖を抑え、発熱期間を1~2日程度短縮する効果があるとされています。特に発症から48時間以内の使用が効果的です。主な薬剤には、内服薬のオセルタミビル(商品名タミフル)、吸入薬のザナミビル(リレンザ)やラニナミビル(イナビル)、点滴薬のペラミビル(ラピアクタ)などがあり、年齢や症状、服用の可否などに応じて選択されます。ただし、これらはインフルエンザを根本から治す特効薬ではなく、あくまで症状の軽減と回復促進を目的としたものです。健康な成人では薬を使わずとも自然に治ることが多く、使用の必要性は医師が総合的に判断します。
抗生物質の使用
抗生物質は細菌感染に対して効果がありますが、インフルエンザはウイルスが原因であるため、基本的に効果がありません。むやみに使用すると耐性菌のリスクや副作用の可能性があるため、自己判断で服用すべきではありません。ただし、インフルエンザの経過中に肺炎や中耳炎、副鼻腔炎などの細菌による二次感染を併発した場合には、これらの合併症に対して適切な抗菌薬を用いることがあります。必要に応じて血液検査や胸部レントゲン検査などが行われ、医師の診断に基づいて治療方針が決定されます。
早期発見のポイント
発症初期の迅速な対応によって重症化を防ぐことができるため、インフルエンザでは早期発見が重要です。流行期に38℃以上の高熱が急に出た場合や、強い倦怠感、関節痛、筋肉痛などがみられる場合はインフルエンザが疑われます。とくにこれらの症状が急激に出現した場合には注意が必要で、可能であれば発熱当日中に医療機関を受診すると安心です。症状が典型的であっても、他のウイルス感染症や細菌感染症との区別が難しいこともあるため、確実な診断には医療機関での検査が有効です。
病院ではインフルエンザ迅速診断キットを使って検査を行い、15分程度でA型・B型のいずれかを判定できます。ただし、発症後すぐはウイルス量が少なく、検査結果が陰性になることもあるため、検査のタイミングには注意が必要です。発症後12時間未満では偽陰性となる可能性もあるため、症状や流行状況をふまえて、翌日に再検査を行うこともあります。検査結果が陰性であっても、医師が総合的にインフルエンザと判断することもあります。
ハイリスクの方は早めに受診
乳幼児、高齢者、妊娠中の方、そして心肺疾患・糖尿病などの基礎疾患がある方は、インフルエンザにかかった際に重症化しやすい人々です。
こうしたハイリスクの方は、症状が軽くても早めに医療機関を受診することが勧められます。
特にインフルエンザ流行期にこれらの方々が発熱や咳症状を呈した場合、「念のため」の受診を早期に検討してください。
予防
インフルエンザを防ぐためには、日頃からの予防策の積み重ねが重要です。手洗いは基本的かつ最も効果的な予防法であり、石けんと流水でしっかりと洗うことが勧められます。インフルエンザウイルスはアルコール消毒にも弱いため、外出時には手指用アルコール製剤の活用も有効です。うがいをすることも喉の粘膜を潤し、感染予防に役立ちます。室内の湿度を適度に保つことも、粘膜の防御機能を維持し、ウイルスの活性を抑える効果があります。加湿器の使用や、濡れタオルを室内に干すといった簡易的な対策も有効です。乾燥を避けることで、のどや鼻の粘膜を健康な状態に保つことができ、感染防止につながります。
咳エチケットとマスクの活用
咳エチケットやマスクの着用も重要です。くしゃみや咳による飛沫が周囲に飛ばないよう、ティッシュや袖で口と鼻を覆い、マスクを正しく着用することが求められます。特に流行期には公共の場や交通機関でのマスク着用が推奨されます。学校や職場、介護施設など集団生活の場では、感染の拡大を防ぐためにも個人レベルの予防行動が大切です。インフルエンザの兆候がある場合には、無理をせず自宅で安静に過ごし、早めに医療機関を受診することも、他者への感染拡大を防ぐために重要です。
ワクチンによる予防
インフルエンザ予防において最も有効とされるのがワクチン接種です。インフルエンザウイルスは毎年変異するため、ワクチンの株も毎年更新されます。接種は流行前の秋から初冬にかけて行うのが適しており、効果が出るまでには約2週間を要します。
ワクチンには発症を完全に防ぐ力はないものの、感染しても症状が軽く済むことが多く、肺炎や脳症といった重篤な合併症を防ぐ効果が期待できます。特に高齢者、乳幼児、持病のある方、妊娠中の方には積極的な接種が勧められます。加えて、医療従事者や介護職、保育士、教職員など周囲に感染を広げやすい立場にある方にも接種が推奨されます。対象者によっては公費助成が利用できる場合もあるため、事前に自治体の情報を確認し、早めにスケジュールを立てて接種することが望まれます。"
その他の予防ポイント
規則正しい生活を送り、十分な睡眠とバランスのとれた栄養で体調を整えておくことも大切です。
疲労や睡眠不足が続くと感染しやすくなるため、流行期には特に体調管理に気を配りましょう。
適度な運動で抵抗力を高めることも有効ですが、人混みでの激しい運動は避けてください。
もし周囲でインフルエンザが流行してきたら、人混みへの不要不急の外出は控え、やむを得ず外出する際はマスク着用やアルコール消毒の徹底で自己防衛しましょう。
学校や職場で流行が疑われる場合、早めに情報共有し罹患者は無理せず休むことが肝要です。
インフルエンザにかかった人は、解熱後少なくとも2日、小児は3日が経過し、医師から許可が出るまでは登校・出勤を控えてください。
これは感染拡大防止のため学校保健安全法等で定められています。
日頃からこれら予防策を実践することで、風邪やインフルエンザの罹患リスクを下げることができます。
毎年の流行に備え、正しい知識と対策で自分と周囲の健康を守りましょう。