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ウイルス性胃腸炎(ロタウイルス、ノロウイルスなど)
疾患の概要
ウイルス性胃腸炎とは、ウイルスの感染によって胃や腸に炎症が起こる病気です。
主な原因ウイルスとしては、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、サポウイルスなどが知られており、季節性の流行も特徴です。
冬場に特に多く発生し、年齢や免疫状態に関係なく誰でもかかる可能性があります。
感染すると、嘔吐や下痢、腹痛、発熱などの症状が現れます。
ウイルス性胃腸炎は非常に感染力が強く、家庭や保育園、学校、介護施設などで集団感染が起こることもあります。
ウイルス性胃腸炎のウイルスは、主に感染者の吐物や便に含まれており、それらが手や環境表面を介して口に入ることで感染します。
感染から発症までの潜伏期間はウイルスの種類によって異なりますが、ノロウイルスでは1〜2日、ロタウイルスでは2〜3日程度です。
症状の持続期間は通常2〜3日で軽快しますが、乳幼児や高齢者では重症化することもあります。
ノロウイルスはごく少量のウイルスでも感染が成立し、吐物からの空気中への飛沫による感染(エアロゾル感染)も報告されています。
ロタウイルスは主に乳幼児に多く、家庭内で兄弟間や保育施設での広がりが問題となります。
アデノウイルスやサポウイルスは全年齢での発症例がありますが、ノロウイルスやロタウイルスに比べると頻度は低めです。
治療法は主に対症療法であり、水分補給や食事療法を行いながら自然回復を待ちます。
多くの場合、入院は不要ですが、脱水が進行した場合には点滴などの処置が必要になります。
特に小児や高齢者では、嘔吐や下痢による水分・電解質の喪失が著しくなると、ぐったりする、尿量が減る、意識がもうろうとするなどの症状が出現し、医療機関での処置が急がれます。
ワクチンが存在するのはロタウイルスのみであり、日本では生後6週から接種可能な定期予防接種に含まれています。
これにより、ロタウイルスによる重症胃腸炎の発生は近年大きく減少しています。
一方、ノロウイルスやサポウイルス、アデノウイルスには現時点で有効なワクチンがなく、感染予防策の徹底が最も重要な対策となります。
感染拡大を防ぐためには、適切な手洗いや環境消毒が不可欠です。
特に吐物や便に直接触れた後の手洗いや、汚染物の処理時の衛生管理が重要です。
手洗いは流水と石けんで30秒以上行うことが推奨されており、アルコール消毒だけでは効果が不十分な場合もあります。
また、嘔吐物の処理には使い捨て手袋やマスクを使用し、次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒薬で確実にウイルスを不活化する必要があります。
ウイルス性胃腸炎は発症者本人の苦痛だけでなく、家族や周囲にも影響を与える病気です。
職場や学校を一定期間休む必要が出る場合もあり、社会的にも影響が大きくなります。
こうした理由からも、感染予防に対する正しい知識と意識の共有が、家庭内はもちろん、地域社会全体で求められています。
症状
ウイルス性胃腸炎の代表的な症状は、嘔吐、下痢、腹痛、発熱です。
発症は急激で、突然の嘔吐で始まることが多く、続いて水様性の下痢が数回から十数回に及ぶこともあります。
腹痛は間欠的に起こり、食後や排便時に強くなる傾向があります。
発熱は軽度から中等度の熱が一般的ですが、ロタウイルスでは高熱になることもあります。
ノロウイルスでは嘔吐が主体で、比較的短期間で回復する傾向がありますが、ロタウイルスでは下痢が長引きやすく、特に乳幼児では重度の脱水に至ることがあります。
嘔吐や下痢が激しい場合には、食事や水分を十分に摂取できず、脱水症状が進行するリスクが高くなります。
脱水の兆候には、口の渇き、尿量の減少、皮膚の弾力低下、ぐったりする、泣いても涙が出ないなどがあります。
これらの症状が見られた場合は、医療機関を受診し、点滴や補液が必要になります。
特に乳幼児や高齢者では重症化しやすいため、早期の対応が求められます。
また、嘔吐物や下痢便によって周囲の人への感染が広がる可能性があるため、症状がある間は外出や通園・通学を控えることが推奨されます。
下痢や嘔吐が治まったあとも、数日間は便中にウイルスが排出され続けることがあるため、衛生管理は継続が必要です。
原因
ウイルス性胃腸炎の原因となるウイルスは主にノロウイルスとロタウイルスです。
ノロウイルスは成人のウイルス性胃腸炎の主な原因で、冬場に流行します。
少量のウイルスでも感染しやすく、吐物や便に含まれるウイルスが手や食品、環境表面を介して口に入ることで感染が成立します。
ロタウイルスは主に乳幼児に多く見られるウイルスで、5歳までにほとんどの子どもが一度は感染するといわれています。
ロタウイルスによる胃腸炎は、嘔吐、発熱に加えて白っぽい下痢便(白色便)が特徴で、重度の脱水を引き起こしやすい傾向があります。
ロタウイルスには有効なワクチンがあり、定期接種が推奨されています。
ほかにも、アデノウイルスやアストロウイルス、サポウイルスなどが原因となることがありますが、症状や感染経路は基本的にノロウイルスと類似しています。
いずれのウイルスも便中に大量に排出され、感染力が非常に強いため、手指や器具、衣類、空気中の飛沫などを介して広がります。
集団生活を送る施設や家庭内での感染は避けにくく、一人が感染すると数日以内に周囲の人にも広がることが多くあります。
食品を通じた感染、特に調理従事者が感染していた場合には、幅広い人々に感染が拡大することがあるため、食品取扱者の健康管理も重要な課題です。
治療
ウイルス性胃腸炎に対しては、ウイルスそのものを排除する特効薬は存在せず、治療は基本的に対症療法となります。
最も重要なのは水分と電解質の補給であり、経口補水液(ORS)をこまめに摂取することで脱水を予防します。
嘔吐がある場合には、少量ずつ頻回に摂る方法が有効です。
食事は無理にとる必要はありませんが、症状が落ち着いてきたら消化の良いものから再開します。
おかゆ、うどん、バナナ、リンゴのすりおろしなどが適しています。
脂っこい食事や乳製品、食物繊維の多い食品は、症状があるうちは避けたほうがよいとされています。
下痢止め薬は一般的に推奨されておらず、ウイルスの排出を妨げる可能性があるため、医師の指示がない限り使用は控えるべきです。
発熱がある場合には解熱剤を用いることがありますが、解熱剤の使用にも注意が必要であり、特に子どもにはアスピリンを避けるべきとされています。
高齢者や乳幼児、持病のある人では症状が悪化しやすく、脱水や電解質異常によって重篤な状態に陥ることもあります。
食事や水分が摂れない、嘔吐や下痢が止まらない、ぐったりしているといった場合は、早めに医療機関での点滴や入院加療が必要になります。
自己判断で市販薬を多用したり、受診を遅らせたりすることが重症化の原因となることがあるため、症状が強いときは医療機関への相談を躊躇しないことが大切です。
早期発見のポイント
ウイルス性胃腸炎は突然発症することが多く、数時間で症状が急激に進行します。
朝は元気だったのに午後から急に嘔吐し始めるといったケースもあり、症状の経過が早いのが特徴です。
最初に出現する症状は嘔吐であることが多く、続いて水様性の下痢が見られます。
発症初期に「食べすぎたかな」「疲れかも」と考えてしまうこともありますが、短時間で吐き気が強まり、下痢も始まる場合は感染性胃腸炎を疑うべきです。
また、発熱や全身のだるさが加わる場合には、体内で感染が広がっているサインと考えられます。
症状が出た時点で、周囲の人に同様の症状がないかを確認することも重要です。
家族や職場・学校で同じような症状の人がいる場合、ウイルス性胃腸炎である可能性が高くなります。
集団感染の初期段階では、本人が最初の発症者であることもあります。
脱水の兆候が見られるかどうか、食事や水分が取れているか、尿量は維持できているかを観察することが大切です。
症状が急速に進行していると感じたら、自己判断せず、早めに受診することが望まれます。
予防
ウイルス性胃腸炎の予防に最も効果的なのは手洗いです。
外出先から帰宅した後、トイレの後、食事前、調理前後には石けんを使って丁寧に手を洗うことが基本となります。
流水で20秒以上、指の間や爪の間までしっかり洗うことが推奨されます。
調理に関わる人が感染している場合には、食品を介してウイルスが広がる可能性があるため、体調が悪いときには食品を扱わないようにすることが重要です。
また、加熱が不十分な二枚貝(カキなど)も感染源となりうるため、中心部までしっかり加熱することが必要です。
吐物や下痢便が環境中に飛散した場合には、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤を希釈)を用いて速やかに消毒することが求められます。
乾燥してウイルスが空気中に舞い上がらないよう、使い捨て手袋やマスクを着用して処理するのが基本です。
ロタウイルスに対してはワクチンが開発されており、日本では定期接種の対象となっています。
特に重症化しやすい乳児期の予防には有効とされており、適切な時期に接種を済ませることが推奨されます。
家庭や施設内での感染拡大を防ぐには、感染者と接触した人への対応も重要です。
感染者の使用したトイレ、ドアノブ、水道の蛇口などは重点的に消毒を行い、共用タオルの使用も避けましょう。