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風疹
疾患の概要
風疹は、風疹ウイルスによって引き起こされる急性のウイルス性感染症で、「三日はしか」とも呼ばれる病気です。
名前の通り、発熱と発疹が出現し、通常は3日程度で治まることが多いため比較的軽症と思われがちですが、実際には合併症を伴うこともあり、特に妊婦への感染は胎児に深刻な影響を与えることから社会的にも重要な疾患とされています。
風疹は主に飛沫感染によって広がり、感染力も高く、学校や職場、家庭内などで集団感染を引き起こすこともあります。
風疹ウイルスに感染すると、2〜3週間の潜伏期間を経て発症します。
発熱や全身に及ぶ発疹、リンパ節の腫れなどが主な症状であり、多くは自然軽快しますが、中耳炎や関節痛、血小板減少性紫斑病などの合併症がみられることもあります。
感染者の約20〜30%は不顕性感染、すなわち症状がほとんど出ないまま経過することもあり、知らないうちに周囲に感染を広げてしまうリスクもあります。
日本では、過去にワクチン接種の対象が限定的だったことにより、特定の年齢層(特に1962〜1979年生まれの男性)に風疹に対する免疫を持たない人が多く、近年の流行ではその世代が中心となって感染拡大を引き起こす要因となっています。
このような背景から、国は対象世代への無料抗体検査およびワクチン接種を進めており、社会全体で免疫のギャップを埋める取り組みがなされています。
風疹で特に問題とされるのが妊婦への感染です。
妊娠初期に風疹に感染すると、胎児に先天性風疹症候群(CRS)を引き起こす可能性があり、心疾患、難聴、白内障などの障害が生じます。
このため、妊娠を希望する女性やその配偶者、パートナーには、妊娠前に風疹抗体の有無を確認し、必要に応じてワクチン接種を受けることが強く推奨されています。
風疹は世界的にも根絶を目指している感染症のひとつであり、世界保健機関(WHO)は2020年までに風疹排除を達成することを掲げてきました。
実際に米国では2004年、欧州の一部でも2020年頃までに排除を達成した国が出ていますが、日本では成人男性の抗体保有率の低さが課題となっており、排除には至っていません。
国としての課題は、抗体検査やワクチン接種の機会が十分に周知されていない点と、成人男性の受診・接種率の低さにあります。
また、風疹は一度感染または予防接種を受けることで基本的には終生免疫が獲得されるとされますが、まれに免疫が十分に形成されなかったり、経年劣化により抗体価が低下している例もあるため、抗体価の確認が推奨される場面が増えています。
特に、医療従事者、保育・教育関係者など、感染を広げるリスクが高い立場にある人には、抗体価の定期的な確認や追加接種が推奨されています。
風疹は適切な時期にワクチンを接種することでほぼ完全に予防が可能であり、他人に感染を広げないという公衆衛生上の観点からも、ワクチン接種の重要性はきわめて高いといえます。
今後は妊婦・乳幼児・高齢者などのハイリスク群を守るためにも、若年から中年層を中心に予防意識の向上と定期的な対策の徹底が求められます。
症状
風疹の典型的な症状は、発熱、発疹、リンパ節腫脹の三徴候です。
潜伏期間は14〜21日で、症状が出る直前から発疹出現後数日間はウイルスの排出が続き、感染力が高い状態が続きます。
発熱は37〜38度台の微熱が多く、インフルエンザのような高熱にはならないことが一般的です。
発疹は顔から始まり、体幹、四肢へと急速に広がります。
赤い小さな斑点状の発疹が多発し、軽いかゆみを伴うこともありますが、3日程度で色素沈着を残さず消失します。
発疹が出現する頃には倦怠感や食欲不振が強くなることもあり、発疹が軽く見えても体調は大きく崩れるケースがあります。
リンパ節の腫れは耳の後ろや後頭部、頸部に目立ち、触れると軽い圧痛を伴います。
発熱や発疹よりも早く現れることもあります。
また、成人が風疹に感染した場合、症状が重くなる傾向があります。
特に成人女性では関節痛や関節炎を伴うことが多く、手指、手首、膝などに痛みや腫れを生じることがあります。
これらの症状は1〜2週間続く場合があり、日常生活に支障を来すこともあります。
仕事や家事、育児などをこなす上での大きな負担となることもあるため、発症時には無理をせず、十分な休養が勧められます。
稀ではありますが、脳炎、血小板減少性紫斑病などの重篤な合併症が報告されることがあります。
特に小児に比べて成人では合併症の頻度が高いため、軽視すべきではありません。
また、風疹感染後には免疫が一生持続するとされていますが、まれに免疫不全状態などで再感染が報告されることもあります。
慢性的な疾患や免疫抑制薬を服用している患者では、再感染時に通常よりも症状が強く出る可能性もあります。
原因
風疹の原因は、風疹ウイルスへの感染によるものです。
風疹ウイルスはトガウイルス科ルビウイルス属に属するウイルスで、人から人への感染は主に飛沫感染によって起こります。
患者のくしゃみや咳、会話の際に放出された飛沫を吸い込むことで、周囲の人に感染が広がります。
感染力は比較的高く、麻疹ほどではありませんが、学校や職場、家庭内などの密閉空間で感染拡大が起こることが多くなっています。
ウイルスは上気道の粘膜から侵入し、リンパ組織で増殖した後に血流に乗って全身へと広がり、発疹などの症状を引き起こします。
感染力が最も高いのは、発疹が出る1週間前から発疹が消失する1週間後までとされており、症状が出る前から他者に感染させる可能性があるため、感染拡大の防止が難しいとされています。
日本では風疹の定期予防接種制度が1977年から開始されましたが、当初は女子中学生を対象に1回接種とされていたため、その後の男性や一部の女性では風疹に対する免疫が十分に獲得されていない世代が存在しています。
これが近年の成人男性を中心とした風疹の流行につながっており、抗体保有率のギャップが感染拡大の要因となっています。
また、妊婦への感染では胎児に深刻な影響を及ぼす先天性風疹症候群(CRS)のリスクがあるため、妊娠可能年齢の女性やその家族、同居人に対しても風疹抗体価の確認とワクチン接種の必要性が強調されています。
集団免疫を構築するためには、全世代での予防接種率の向上が重要とされています。
治療
風疹には特効薬がなく、治療は基本的に対症療法となります。
症状に応じて解熱薬や鎮痛薬を用いたり、水分をしっかり摂取すること、安静に過ごすことが推奨されます。
発疹や発熱、関節痛などは数日から1週間程度で自然に軽快することが多いため、無理をせず十分な休養を取ることが大切です。
小児では症状が軽く、入院を必要とするケースは稀ですが、成人や妊婦、免疫不全状態にある人では重症化することがあるため注意が必要です。
特に妊婦においては、胎児への影響を最小限に抑えるため、感染の可能性がある場合にはすぐに医師の指導を仰ぐ必要があります。
また、風疹と診断された場合は、周囲への感染拡大を防ぐために学校や職場などへの登校・出勤を控えることが求められます。
学校保健安全法により、発疹が消失するまで出席停止となるのが原則であり、感染力が完全になくなるまで他人との接触を避けることが重要です。
早期発見のポイント
風疹は初期症状が軽いため、風邪と見分けがつきにくいことが多く、発疹が出て初めて風疹を疑うケースが少なくありません。
特に、風邪のような微熱や咳、喉の痛み、軽い関節痛などの症状に続いて、顔や首から体幹にかけて赤い発疹が出現した場合は、風疹の可能性を考慮して早めに医療機関を受診することが推奨されます。
耳の後ろや後頭部、頸部などのリンパ節の腫れも風疹の重要な兆候です。
発疹より先に出現することもあるため、発熱とリンパ節腫脹がある場合には、風疹を疑って医師にその旨を伝えることが早期診断に役立ちます。
妊娠を希望する女性や妊娠中の女性は、風疹抗体の有無を事前に調べておくことが非常に重要です。
抗体価が低い場合には、妊娠前にワクチン接種を行い、妊娠中の感染リスクを回避するよう対策を講じることが求められます。
予防
風疹の最も効果的な予防法は、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の接種です。
日本では、1歳時と小学校入学前の2回の定期接種が推奨されていますが、対象外だった世代や接種機会を逃した人も多く存在しています。
これらの人々を中心に、成人男性を対象とした無料抗体検査やワクチン接種事業が国を挙げて進められています。
妊娠可能年齢の女性は妊娠前に必ず抗体価を確認し、不十分な場合は早めに接種を済ませることが大切です。
妊娠中は生ワクチンであるMRワクチンを接種することができないため、妊娠前のタイミングでの対応が必要です。
妊婦の家族やパートナーも、間接的な感染源となる可能性があるため、同様に抗体価の確認と接種が求められます。
また、日常生活においても、流行地域への渡航や大規模イベントへの参加など、高リスクな行動の前には、自身のワクチン接種歴を確認しておくことが望まれます。
自治体によっては抗体検査やワクチン接種が無料で提供されている場合もあるため、積極的に情報収集し、予防行動に努めることが感染拡大の防止につながります。