病気や症状についてわかりやすく伝える
医学情報サイト
腸閉塞(イレウス)
疾患の概要
腸閉塞(イレウス)は、腸の中を通る食べ物やガス、消化液などの流れが、何らかの原因によって途中で滞ってしまう状態を指します。
腸が物理的に塞がれてしまう場合と、腸自体の動きが弱まって機能的に内容物が進まなくなる場合の二つに大別されます。
腸閉塞が起こると、腹部の痛みや吐き気、便やおならが出ないなどの症状が現れます。
放置すると腸が壊死したり、腸に穴が開いたりする危険性があるため、早期の診断と適切な治療が必要です。
腸閉塞は、高齢者に多く見られる疾患ですが、若年層でも腹部の手術歴がある方や特定の疾患を持っている方では発症することがあります。
特に、開腹手術後の癒着や腸の腫瘍、ヘルニアなどがリスク因子として知られています。
腸のどこかで通過障害が生じると、内容物がその先に進めなくなり、腸の中にどんどん物がたまっていくことで腹部の膨満や強い痛みを引き起こします。
腸閉塞は、その原因や病態によってさらに細かく分類されます。
腸の内腔が物理的に塞がれる「機械的イレウス」と、腸の運動そのものが障害される「機能的イレウス(麻痺性イレウス)」があります。
機械的イレウスは、癒着や腫瘍、腸重積、腸ねん転などが原因となり、腸のある部分で閉塞が起こります。
一方、麻痺性イレウスは、術後の腸管の動きの低下、感染、薬剤、神経性の問題などによって腸全体の運動が鈍くなることで発症します。
特に近年では、高齢化に伴い慢性便秘や筋力低下、服薬(抗コリン薬やオピオイドなど)による機能性の腸閉塞が増加しています。
高齢者では痛みの訴えがあいまいなこともあり、発見が遅れやすくなるため、家族や介護者の早期の気づきが重要です。
また、認知症の方では症状をうまく伝えられず、診断が遅れることもあるため注意が必要です。
腸閉塞は急を要することが多く、発見や対応が遅れると重篤な状態へと進行してしまう可能性があります。
腸管の血流が途絶えると壊死や穿孔を起こし、腹膜炎や敗血症といった命に関わる合併症へと発展する恐れもあります。
そのため、腸閉塞に関する基本的な知識を持ち、早期の受診や予防を心がけることが重要です。
腹部膨満や吐き気が続く場合、安易に様子を見るのではなく、医療機関を受診し原因を明らかにする姿勢が求められます。
症状
腸閉塞の代表的な症状は腹痛です。
痛みはお腹の一部に集中することもあれば、全体的に感じることもあり、張るような感覚を伴うことが多いです。
断続的に強くなったり弱まったりを繰り返すことがあり、腸が動こうとするたびに痛みが増すことがあります。
もう一つの大きな特徴が吐き気や嘔吐です。
特に、腸の上部で閉塞が起こった場合は、食事がうまく通過できず、早い段階で嘔吐が見られることがあります。
症状が進むと、嘔吐物に腸の内容物が含まれ、便のようなにおいを感じることもあります。
腸の内容物が進まないため、便やガスが出なくなるという症状もよく見られます。
これにより腹部が膨らんで張り、触ると硬く感じるようになります。
さらに、腸が完全に詰まってしまうと、腸の中で細菌が繁殖して炎症を起こし、発熱を伴うこともあります。
これらの症状は突然現れることが多く、特に痛みや吐き気、排便停止が同時に起こっている場合は腸閉塞の可能性が高いため、すぐに医療機関を受診する必要があります。
原因
腸閉塞の原因は、大きく分けて「機械的閉塞」と「機能的閉塞」の2つに分類されます。
それぞれ発症のメカニズムが異なり、原因となる背景にも違いがあります。
まず「機械的閉塞」は、腸の通り道に物理的な障害ができてしまい、腸の中の内容物が通過できなくなる状態です。
日本ではこのタイプが腸閉塞の多くを占めています。
代表的な原因は、過去の腹部手術による「癒着」です。
開腹手術を行うと、術後の炎症や治癒過程で腸と腸、あるいは腸と腹壁が癒着することがあり、その癒着部分が腸を締め付ける、または折れ曲げるような形で通過障害を引き起こします。
特に、虫垂炎(盲腸)の手術や子宮・卵巣の手術、大腸がんの手術を受けたことがある方では、術後数年から数十年経過してから腸閉塞を発症することがあります。
次に挙げられるのが「腫瘍」です。
腸の中にがんやポリープなどの腫瘍ができると、それが腸の内側から狭窄を起こす原因となります。
特に大腸がんでは、進行に伴って腸管内の通路が徐々に狭くなり、やがて閉塞状態に陥ることがあります。
腸の外にある腫瘍(例えば子宮がんや膵がんなど)によって腸が圧迫されて閉塞することもあります。
「ヘルニア」も機械的閉塞の重要な原因です。
これは腸の一部が腹壁のすき間などから体の外へ飛び出してしまう状態で、脱出した腸が筋肉などに締めつけられることで血流が悪くなり、通過が妨げられます。
特に鼠径(そけい)ヘルニアと呼ばれる足の付け根に起こるものが多く、男性に多く見られます。
ヘルニアによる腸閉塞は放置すると腸が壊死する危険性があるため、迅速な手術が必要になります。
小児や高齢者に多く見られる原因として「腸重積(ちょうじゅうせき)」があります。
これは腸の一部がとなりの腸に入り込むことで、腸の内腔が二重に重なって通過障害を引き起こす状態です。
小児ではウイルス感染後に起こることが多く、成人では腫瘍などが引き金になることがあります。
また、「腸捻転(ちょうねんてん)」といって、腸がねじれてしまうことで通過が妨げられる場合もあります。
腸がねじれると血流も遮断されるため、早急な手術が必要になります。
これは高齢者に多く見られる原因の一つです。
一方、「機能的閉塞」は、腸そのものに通過障害があるわけではなく、腸の動き(蠕動運動)が何らかの原因で著しく低下または停止することによって起こります。
このタイプは「麻痺性イレウス」と呼ばれます。
代表的な原因は手術後の腸の一時的な麻痺です。
特に開腹手術後には腸が刺激を受けて動かなくなることがあり、一時的に便やガスが出なくなる状態が続くことがあります。
ほとんどの場合は時間とともに自然に回復しますが、回復が遅れると治療が必要になることもあります。
その他にも、腹膜炎、重度の感染症、心筋梗塞、腎不全、糖尿病などの全身性疾患でも腸の運動が抑えられ、機能的腸閉塞を引き起こすことがあります。
また、精神疾患や脳梗塞後の後遺症、ある種の薬(特に抗コリン薬、麻薬性鎮痛薬、抗うつ薬など)も腸の動きを鈍くすることで発症の引き金となることがあります。
このように腸閉塞の原因は多岐にわたり、年齢や病歴、生活背景によって発症メカニズムも異なります。
そのため、診断には詳細な問診と適切な画像検査(レントゲンやCTなど)が必要です。
再発するケースも多いため、原因をきちんと把握したうえで、今後の生活での注意点や予防法についても理解しておくことが重要です。
治療
腸閉塞の治療は、原因や重症度によって異なります。
まずは、入院のうえで絶食や点滴によって腸を休ませる保存的治療が行われることが多いです。
腸の圧力を下げるために、鼻から管を入れて胃や腸の中の空気や液体を抜き取る処置(胃管挿入)を行うこともあります。
また、腸の動きを助ける薬剤や、痛みや吐き気を抑える薬が投与されます。
保存的治療で改善が見られない場合や、腸に壊死が疑われる場合には手術が検討されます。
手術では、閉塞の原因となっている癒着をはがしたり、腫瘍を取り除いたり、壊死した腸を切除して正常な部分をつなぎ直す処置が行われます。
腸閉塞は、状態によっては迅速な手術が命を救うことになるため、病状を的確に見極めて適切な治療方針を選択することが重要です。
早期発見のポイント
腸閉塞は突然発症することが多いですが、早期に異変に気づき適切に対処すれば、重症化を防ぐことができます。
お腹の強い痛みが繰り返し起こる、食べたものをすぐに吐いてしまう、おならや便が全く出なくなる、といった症状が数時間以上続く場合は要注意です。
また、過去に腹部の手術を受けた経験がある方、腸の病気で治療中の方、高齢で体力が落ちている方などは腸閉塞を起こしやすいため、日頃から便通や食後の体調に気を配っておくことが大切です。
異常を感じたら我慢せず、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
予防
腸閉塞は完全に予防することが難しい病気ではありますが、再発を防ぐことやリスクを減らすことは可能です。
まず、便秘にならないように生活習慣を整えることが基本です。
十分な水分をとり、食物繊維の多い食事を心がけるとともに、適度な運動を行って腸の動きを活発に保つことが大切です。
過去に腸閉塞を起こしたことがある方や、腹部手術後の癒着があると指摘された方は、消化の良い食べ物を選び、よく噛んで食べる習慣をつけることで、腸への負担を軽くすることができます。
特にこんにゃく、餅、干し椎茸などは腸で詰まりやすい食品として知られているため、注意が必要です。
また、腹部の手術を受けた後は、なるべく早く歩き始めることで癒着のリスクを減らすことができるとされています。
術後のリハビリをしっかり行うことも予防の一環といえます。