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熱中症
疾患の概要
熱中症とは、気温が高く湿度も高い環境に長時間さらされたり、激しい運動によって体内に熱が過剰に生じたりすることで、体温調節が追いつかなくなって起こる障害です。
症状は軽いものから重いものまで様々で、代表的な病型として熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つに分類されます。
中でも熱射病は最も重篤な状態で、体温が極端に上昇して脳や肝臓・腎臓など多臓器不全を引き起こし、死亡する危険もあります。
特に乳幼児や高齢者、脳の体温調節中枢に作用する薬剤を服用している人は熱中症になりやすいため注意が必要です。
近年の猛暑に伴い熱中症患者は増加傾向にあり、厚生労働省の統計では1994年以降、日本における熱中症による死亡者数は年平均で約663人に達しています。
地球規模の気温上昇により、熱中症による死亡者数は今後さらに増加する可能性が指摘されています。
症状
熱中症の症状は重症度によって大きく異なります。
救急医療の現場では、症状の重さに応じて熱中症をI度(軽症)・II度(中等症)・III度(重症)の3段階に分類します。
それぞれの主な症状は次のとおりです。
- I度(軽症)
めまいや立ちくらみ、一時的な失神、ふくらはぎ等のこむらがえり、大量の発汗などがみられます。 意識ははっきり保たれており、自力で水分補給ができる状態です。 - II度(中等症)
頭痛、吐き気・嘔吐、全身の倦怠感などが現れ、集中力や判断力の低下がみられることもあります。 自力で十分に水分を摂れない、立っていられないほどの脱力感がある場合はこの段階で、点滴などによる治療が必要です。 - III度(重症)
呼びかけに反応しない、受け答えがおかしいなどの意識障害、けいれん発作、手足の運動障害などの神経症状が見られます。 体温が40℃を超える高熱となり、皮膚が熱いのに汗が出なくなる場合もあります。 重症になると脳や心臓、腎臓など複数の臓器に深刻な障害が及び、命にかかわる危険な状態です。
原因
私たちの身体は通常、汗をかいたり皮膚から熱を放散したりすることで体温を一定に保っています。
しかし、暑い環境や激しい運動で体内に生じる熱が発散しきれず蓄積すると、体温が急上昇して熱中症に陥ります。
気温や湿度が高いほど汗による蒸発冷却が妨げられ、熱がこもりやすくなります。
さらに、厚着をしていたり防護服を着用していたりすると放熱がうまくいかなくなります。
また、肥満体型の人も熱をため込みやすい傾向があります。
脱水状態や体内の塩分不足があると汗の量が減ったり血流が不足したりして、体温調節能力が低下します。
炎天下で長時間活動する場合はもちろん、風通しの悪い高温多湿の屋内にいただけの場合でも熱中症は起こり得ます。
特に梅雨明け直後など、まだ暑さに慣れていない時期は体が十分に順応しておらず注意が必要です。
また、個人の体質や健康状態によっても熱中症の起こりやすさは異なります。
高齢者や乳幼児は特にリスクが高く注意が必要です。
高齢者は暑さや喉の渇きを感じにくく水分補給が遅れがちなうえ、心臓や腎臓の機能低下や持病の影響で熱への耐性が低下しています。
乳幼児も体温調節機能が未発達で、大人に比べて体内に熱がこもりやすく、自分で衣服の調整や水分補給ができないため周囲の配慮が必要です。
そのほか、汗をかきにくい体質や皮膚疾患のある人、利尿剤や抗コリン薬など一部の薬剤を服用している人も熱中症を発症しやすくなります。
これらの要因を持つ方は、普段以上に暑さ対策に気を付けて過ごすことが大切です。
治療
熱中症が疑われる場合、速やかな応急処置が何より重要です。
以下のような対応をただちに行ってください。
涼しい場所への移動
エアコンの効いた室内や日陰など、風通しの良い涼しい場所へ患者を移動させます。
可能であれば衣服を緩めて体を楽にしてください。
身体の冷却
衣服をゆるめ、露出した肌に水をかけて扇風機やうちわであおぐと効果的です。
特に首の周り、脇の下、太ももの付け根など大きな血管が通る部分を集中的に冷やします。
冷たいペットボトルや保冷剤があればタオルにくるみ、同様の箇所に当てて冷やしましょう。
水分・塩分の補給
意識がはっきりして自分で飲めるようであれば、水分と塩分を補給します。
冷たい水やお茶でも構いませんが、経口補水液やスポーツドリンクなどが望ましいです。
一度に大量ではなく、少しずつこまめに飲ませてください。
救急要請
自力で水分を飲めない、意識がもうろうとして受け答えがおかしい、吐いてしまって水分補給ができない、といった場合はためらわず119番通報をしてください。
特にIII度の重症が疑われるときは一刻も早い医療介入が必要です。
I度の軽症の熱中症であれば、上記の応急処置により短時間で症状が改善することもあります。
しかし症状がおさまらない場合や中等症以上が疑われる場合は、医療機関での治療が必要です。
病院ではまず点滴により水分や塩分などの補給が行われ、脱水状態の改善に努めます。
II度(熱疲労)の段階で血液検査の異常や高度の脱水が認められる場合には、入院して経過を観察しながら治療を続けます。
III度(熱射病)と判断されれば、全身管理と並行して体温の迅速な低下が最優先されます。
可能な限り早く体温を40℃以下に下げるため、病院では全身に水をかけて大型扇風機で送風する蒸発冷却法などにより体を冷やします。
場合によっては氷嚢や冷却ブランケットの使用、胃や直腸からの冷水注入といった方法が取られることもあります。
重症の熱射病では、多臓器不全に陥るおそれが高いため集中治療室での管理が必要です。
人工呼吸器による補助呼吸や血液透析による腎機能の補助など、臓器ごとの機能低下に対する集中的な治療が行われます。
早期発見のポイント
熱中症は早期発見・早期対応が極めて重要です。
症状が重くなる前に異変を察知して対処することで、重症化を防ぎ命を守ることにつながります。
暑い環境で少しでも「おかしいな」と思う症状が出たら、決して無理を続けずに休息を取り、水分補給や身体冷却などの対策をすぐに始めてください。
例えば、めまいやふらつき、筋肉のけいれん、吐き気、強い疲労感などは熱中症の初期症状のサインです。
こうした症状が現れた段階で適切に対処すれば、重い熱中症になるのを防ぐことができます。
逆に「まだ大丈夫」と判断を誤って水分補給や休憩を先延ばしにすると、症状が進行して意識障害など危険な状態に陥りかねません。
明らかな軽症と言い切れない場合は自分で判断せず、早めに医療機関を受診しましょう。
周囲の人にも協力が求められます。
本人が自覚しにくいケースでは、周囲が異変に気づいて声をかけることが早期発見につながります。
特に高齢者は喉の渇きや暑さを自覚しにくい傾向があるため、家族や周りの方がこまめに様子を確認してください。
顔色が悪い、汗のかき方がおかしい、受け答えが普段と違う、といった兆候に気付いたら熱中症を疑いましょう。
炎天下でスポーツをしている人などは自分では異常を軽視しがちです。
監督や同僚など周囲の人は「休憩しよう」「水分を摂ろう」と積極的に促し、早め早めの対応を心掛けてください。
一緒にいる人が呼びかけに反応しなかったり明らかに意識がおかしかったりする場合には、ためらわず救急車を呼ぶことが大切です。
予防
熱中症は予防が何より大切です。
日頃から次のようなポイントに注意して、暑い季節を安全に過ごしましょう。
暑熱環境を避ける
気温・湿度が高い環境での無理な運動や作業は避けてください。
特に気温35℃以上の真夏日や気温37~40℃前後の猛暑日には屋外での激しい活動は控えることが望ましいです。
どうしても屋外で作業や運動をする必要がある場合は、適度に休憩を取りつつ行いましょう。
運動部の練習や肉体労働では、暑さに慣れていない初期段階は軽い負荷から始め、徐々に体を暑さに順応させることも重要です。
涼しい環境の確保
室内ではエアコンや扇風機を適切に利用し、室温と湿度を下げましょう。
特に高齢者や乳幼児がいる家庭では、暑さを我慢せず冷房をつけるようにしてください。
外出先でも適宜涼しい場所で休憩をとり、体に熱をためこまない工夫をしましょう。
また室内でもこまめな換気を心掛け、風の通り道を作ることも効果的です。
服装と日差し対策
衣服はできるだけ風通しが良く薄い素材のものを選び、外出時は日傘や帽子を利用して直射日光を避けましょう。
密閉性の高い防護服や厚手の服装は体に熱がこもりやすく危険です。
屋外でスポーツを行う際には、通気性の良いメッシュ素材のユニフォームを着用したり、適宜帽子を脱いで風を当てたりするなど、衣服内に熱がこもらないように工夫してください。
こまめな水分・塩分補給
喉が渇いたと感じる前から意識的に水分を補給しましょう。
特に屋外で過ごすときや大量に汗をかいたときには、水だけでなく塩分も適度に補給することが大切です。
スポーツドリンクや経口補水液は、水分と塩分を同時に補えるので便利です。
大量の汗をかいた後に水だけを飲んでいると体内の塩分濃度が下がり、筋肉のけいれんなどを起こしやすくなります。
ふだんから汗をかきやすい人や長時間屋外で活動する人は、あらかじめ塩飴や塩タブレットなどを携帯し、適宜塩分補給できるよう準備しておくと安心です。
子どもや高齢者への配慮
乳幼児や高齢者は自分で暑さを避けたり、水分を十分に摂取したりすることが難しい場合があります。
周囲の大人や介護者がこまめに声掛けをし、室温や体調の管理に気を配りましょう。
特に高齢者はエアコンを嫌がる方もいますが、扇風機と併用するなどして上手に冷房を利用するよう促してください。
また、決して乳幼児や要介護の高齢者を真夏の車内や締め切った部屋に放置しないでください。
車中の気温は短時間で危険なレベルまで上昇します。
買い物の「ちょっとの間」でも子どもを車内に残すことは厳禁です。
暑さ情報の活用
天気予報や各種機関が発表する暑さに関する情報にも注意しましょう。
環境省や気象庁は、湿度と気温から算出される暑さ指数に基づいて「熱中症警戒アラート」等の情報提供を行っています。
地域に熱中症警戒アラートが発表された日は、普段以上に意識して水分・休憩を取り、できるだけ屋外での作業や運動を控えるようにしてください。
暑さ指数が危険とされる基準を超えるときには学校の部活動や屋外イベントが中止になる場合もあります。
各自がそうした情報を活用し、「今日は特に注意が必要な暑さだ」と認識して行動することが予防に繋がります。
以上のような対策を日常的に心掛けることで、熱中症はかなり防ぐことができます。
特に夏場は天候や自分の体調に敏感になり、「おかしい」と感じる前に予防策を講じることが大切です。
適切な知識と備えで猛暑を乗り切り、熱中症による健康被害を防ぎましょう。