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胃食道逆流症(GERD)

喉の痛み胸やけ 胃・食道の病気

疾患の概要

胃食道逆流症(GERD)は、胃の中の胃酸や内容物が食道に逆流することで、食道の粘膜にただれが生じたり、胸焼けなどの不快な症状が起こったりする病気です。
内視鏡検査で食道のただれが確認できる場合は、逆流性食道炎とも呼ばれます。
命にかかわる病気ではありませんが、強い胸焼けや呑酸によって食事が十分に楽しめない、夜によく眠れないなど日常生活に支障をきたすため、適切な治療が必要です。
健康な人でも暴飲暴食後などに一時的な胸やけが起こることがありますが、週に1〜2回以上も胸やけを繰り返す場合には胃食道逆流症が強く疑われます。
非常によくみられる疾患で、欧米では成人の10〜20%が胃食道逆流症に該当するとの疫学調査もあります。
日本では欧米に比べ患者数が少ないと考えられていましたが、食生活の欧米化やピロリ菌感染率の低下による胃酸分泌の増加などが影響し、近年は患者が増加していると考えられています。
現在では日本人成人の約1割が胃食道逆流症を抱えているとの調査報告もあります。
多くの患者さんは胃酸の分泌を抑える薬による治療で症状が改善しますが、治療を継続しても症状がなかなか良くならない場合には消化器科の専門医に相談することが勧められます。

症状

胃食道逆流症でもっとも典型的な症状は胸やけです。
みぞおちから胸の中央にかけて焼けるような熱い痛みで、しばしば食後や就寝時に起こります。
また、胃の内容物が口まで逆流して酸っぱい液が上がってくることもあり、不快感やのどの痛みを伴う場合があります。
胸やけは前かがみの姿勢をとったときや横になったときにも悪化しやすい傾向があります。

これら以外にも様々な症状が現れる場合もあります。
たとえば胃酸がのどにまで逆流すると、のどの違和感や声がかすれるほか、長引く咳の原因になることがあります。
また、げっぷが増えたり、口の中が苦く感じられるといった症状を訴える方もいます。
胃酸が口腔内まで達すると歯のエナメル質が溶け、虫歯や知覚過敏の原因になることもあります。
さらに胃の内容物が誤って気管に入ると、喘息のようにゼーゼーと喘鳴が生じる場合があります。
逆流を長期間放置すると、飲み込むときに痛みやつかえを感じる嚥下障害につながる恐れもあります。
なお、長引く咳や喘息と診断された症状が、実は胃酸の逆流によるもので、胃酸を抑える治療により改善する例も知られています。
特に夜間に症状が強い場合は睡眠が妨げられ、日中の疲労の原因にもなります。
症状は日によって変動し、脂っこい食事をとった翌日に強く現れる一方、体調が良い日はほとんど感じないこともあります。
このように、典型的な胸やけだけでなく、さまざまな症状が現れる点が胃食道逆流症の特徴です。

原因

胃と食道の境目には輪のような筋肉でできた弁があり、通常はこれが食道の下端を締めて胃酸や内容物が逆流しないように働いています。
この下部食道括約筋の働きが弱くなったりゆるんだりすると、胃の中身が食道に逆流してしまい、胃食道逆流症の原因となります。
逆流を引き起こす要因としては様々なものが知られています。

食後すぐは胃に食べ物がたくさん入って胃酸も多いため、横になると逆流が起こりやすくなります。
肥満や妊娠で腹部の内圧が高まること、前かがみの姿勢や締め付けの強い衣服も胃酸の逆流を招きます。
また、脂っこい食事の摂り過ぎやアルコール、多量のカフェイン、炭酸飲料、チョコレート、喫煙などは下部食道括約筋をゆるめたり胃酸を増やしたりするため、胸やけを起こしやすくなります。
さらに、胃と横隔膜の隙間から胃の一部が飛び出す食道裂孔ヘルニアがあると、胃酸がより逆流しやすくなり食道に停滞しやすいことが分かっています。
加齢とともに食道裂孔ヘルニアの頻度は高まり、食道を締める筋肉や靭帯がゆるむことも逆流を助長する要因です。
また、胃の動きが低下して胃内容物の排出が遅れる糖尿病などの病態や、下部食道括約筋の機能を低下させる一部の薬剤の使用も逆流を悪化させる要因となります。
このように、胃食道逆流症の発症には食道括約筋の機能低下と、食生活・体質・生活習慣など複数の要因が関与しています。

治療

胃食道逆流症の治療では、胃酸の影響を減らすことが中心です。
まず生活面では、前述のように胃酸の逆流を防ぐための生活習慣の改善が重要です。
例えば、食後すぐに横にならない、就寝前の飲食を控える、食べ過ぎない、刺激となる食品を避ける、といった工夫をします。

こうした対策と並行して、薬物療法によって胃酸をしっかり抑えることで、多くの場合症状はかなり改善します。
症状が軽い場合には、市販の制酸薬や粘膜保護薬で一時的に症状を和らげることもできます。
ただし、根本的な治療には胃酸の分泌自体を抑える薬剤が用いられます。
用いられる薬には、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーがあり、特にプロトンポンプ阻害薬は強力に胃酸を抑制するため現在は治療の主役となっています。

一般的には内服薬で十分に症状をコントロールできますが、薬の服用を中断すると再び症状が現れることも多く、長期的な管理が必要になるケースもあります。

十分な薬物療法でも症状が改善せず重症の場合には、手術が検討されます。
腹腔鏡下で胃と食道の接合部を縛る手術などにより逆流を物理的に防ぐ方法で、薬を長期間飲み続けたくない患者さんに選択されることもあります。
ただし手術や内視鏡治療には入院や合併症のリスクも伴うため、専門医と十分相談して判断する必要があります。

近年では、新しい胃酸分泌抑制薬としてカリウム競合型アシッドブロッカーも登場しており、より速やかで強力な胃酸抑制作用によって重症例に用いられることがあります。

早期発見のポイント

胸やけや呑酸などの症状が繰り返し起こる場合は、「いつものこと」と放置せず早めに医療機関を受診することが大切です。
胃酸の逆流を長期間放置すると、食道に炎症や潰瘍が生じて出血や食道の狭窄をきたす恐れがあり、細胞の異常が進行してがんに発展するリスクもわずかながらあります。
なお、胸焼けに似た症状は冠動脈疾患や好酸球性食道炎など別の病気でも起こり得るため、自己判断は禁物です。

特に症状が何年も続いている方や、中高年以降の方は、積極的に胃カメラを受けて食道の状態を確認することが推奨されます。
胃カメラによって食道に炎症やただれがないか調べれば、胃食道逆流症の診断や重症度の評価ができます。
炎症が強い場合は定期的に検査を行い、早期に治療を行うことが望ましいとされています。
逆流によって食道の粘膜に変化が生じ、胃酸に強い腸の細胞へと置き換わるバレット食道が見つかった場合には、将来的に食道がんを発症する可能性があるため、定期的な胃カメラによる経過観察が欠かせません。

なお、胃カメラで明らかな異常所見がない場合でも、症状から胃食道逆流症が疑われる際には、高用量の胃酸分泌抑制薬を短期間試して症状の改善を見る「PPIテスト」で診断をつけることも可能です。

また、胸やけ以外に飲み込みづらさや原因不明の体重減少、吐血や黒い便が見られた場合は、別の疾患が隠れていたり合併症が起きていたりする可能性もあるため、速やかに専門医を受診してください。
また、胸やけに対して市販の胃薬や制酸剤を手放せなくなっている場合も、一度医療機関で相談することをお勧めします。

予防

胃食道逆流症の予防には、日頃の食生活や生活習慣に気を配ることが重要です。
具体的には、暴飲暴食を避けて規則正しく食事をとり、一度の食事量を控えめにして回数を分ける工夫も有効です。
脂肪分の多い料理やチョコレート、柑橘類など酸味の強い果物、カフェインを含むコーヒーや炭酸飲料、アルコール類は胸やけを起こしやすいため摂り過ぎに注意しましょう。

食後はすぐに横にならず、少なくとも2〜3時間は間隔を空けてから寝るようにすることが勧められます。
寝るときは枕やベッドの工夫で上半身をやや高く保つか、身体の左側を下にして横になると、胃の内容物が食道に流れにくくなります。
また、腹部を締め付けるきつい衣服の着用は避け、ウエスト周りはできるだけゆったりさせると逆流の予防に役立ちます。

喫煙習慣がある場合は、この疾患のみならず健康全般のためにも禁煙を心がけてください。

肥満の方では腹部の圧力が高まり逆流を起こしやすくなるため、適正体重への減量も重要です。
実際に、体重を減らすことで胃食道逆流症の症状が改善し、生活の質が向上することが確認されています。

また、過度のストレスや睡眠不足、生活リズムの乱れは自律神経を乱して胃酸分泌を過剰にし、胃食道逆流症を発症させる一因となります。
規則正しい生活と十分な睡眠を確保し、ストレスを溜めないことも予防には有効です。

これらの対策によって胃酸の逆流を防ぐことで、胃食道逆流症の発症を予防したり、症状の悪化を防ぐことが期待できます。

なお、これらの生活習慣の見直しは症状の予防だけでなく治療効果の維持にも役立ちます。
根気よく続けることが大切です。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。