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胃炎(急性・慢性)

お腹の張り吐き気・嘔吐胃の不快感胃もたれ胃痛血便・黒色便食欲不振 胃・食道の病気

疾患の概要

胃炎とは、胃の内側を覆う粘膜に炎症が起きて傷ついた状態を指します。
大きく分けて、急に発症する急性胃炎と、長期間にわたり持続する慢性胃炎があります。
急性胃炎はある日突然激しい胃の痛みに襲われるのが典型であるのに対し、慢性胃炎では「なんとなく胃の調子が悪い」「食後に胃がもたれる」といった不快感が繰り返し現れるか、持続的に続くのが特徴です。
慢性胃炎の多くは胃粘膜の萎縮を伴い、長年にわたり炎症が続くと胃・十二指腸潰瘍や胃がんのリスクが高まることが知られています。
特に、日本人の慢性胃炎患者の多くで見られるヘリコバクター・ピロリ菌感染は、慢性胃炎から萎縮性胃炎を経て胃がん発生につながる主因です。
一方、急性胃炎は短期間で適切に対処すれば後遺症を残さず治ることが多い良性の経過をたどります。
いずれの場合も、胃炎そのものは命に関わる病気ではありませんが、原因や背景によっては重症化したり他の疾患を併発したりする可能性があるため注意が必要です。

症状

慢性胃炎は自覚症状がはっきりしないまま進行し、健康診断の胃カメラ検査などで初めて「胃炎があります」と指摘されるケースも少なくありません。
症状が現れる場合は、急性か慢性か、原因の違いによって程度が異なります。
一般的な症状としては以下のようなものがあります。

みぞおちの痛みや胃痛

胃のあたりがシクシクと痛んだり、キリキリする痛みを感じます。
急性胃炎では突然の激しい痛みとなることがあります。

胃もたれや腹部不快感

食後に胃が重苦しく感じたり、胃が張るような膨満感があります。
慢性胃炎の方はこうした不快感が長く続くことがあります。

吐き気・嘔吐

むかつきや嘔吐を伴うことがあります。
急性胃炎では食べ物や胃酸を吐いてしまう場合もあります。

食欲不振

食欲がわかず、食事量が減ることがあります。
胃の不調が続くと体重減少につながる場合もあります。

胸焼け

胃酸による焼けるような不快感を感じることがあります。
胃炎自体の症状というより、胃酸過多や逆流を伴う場合にみられます。

以上の症状は「消化不良」とまとめて呼ばれることもあります。
症状の程度は軽いものから重いものまで様々ですが、急性胃炎では症状が強く出やすく、慢性胃炎では軽い不調がだらだら続く傾向があります。
また、重症の胃炎になると粘膜から出血することがあり、黒くタール状の便や吐血がみられる場合もあります。
このような症状が出た場合は貧血やショックを起こすおそれがあるため、早急に受診することが必要です。

原因

胃炎の原因は非常に多岐にわたり、感染症、薬剤、飲食物、ストレスなど様々な要因が関与します。

急性胃炎の原因

暴飲暴食や香辛料・カフェインなど刺激物の過剰摂取、過度の飲酒が典型的な誘因です。
例えば一度に大量の食事やアルコールを摂ったり、辛い物を食べ過ぎたりすると、短時間で胃粘膜に強い刺激が加わり急性胃炎を起こすことがあります。
また日常的な喫煙も胃酸の分泌を活発にし、胃の粘膜に傷をつけることがあります。
さらに精神的ストレスや緊張も無視できない要因です。
ストレスで自律神経のバランスが乱れると胃酸が過剰に出たり胃の運動が低下したりするため、急性胃炎を発症しやすくなります。
このほか、アスピリンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬を内服した際にも、胃粘膜が直接ダメージを受けて急性胃炎が起こることがあります。
重篤な病気や大けがの後にも、一時的に胃粘膜の血流低下や酸の増加を来たし急性胃炎が起こる場合があります。
まれではありますが、細菌やウイルス感染による急性胃炎や、腐食性の強い薬品・毒物を誤飲したことによる急性胃炎も報告されています。

慢性胃炎の原因

日本人の慢性胃炎の約80%はピロリ菌感染によるものとされています。
ピロリ菌は幼少期に経口感染し胃に住み着く細菌で、その出す毒素やアンモニアによって胃粘膜が繰り返し傷害され、慢性的な炎症が続くことになります。
長年炎症が続くと胃粘膜が萎縮し、萎縮が高度になるほど胃がんが発生しやすくなることが分かっています。
実際、胃がん患者のほとんどはピロリ菌感染による胃炎を背景に持つと言われます。
ピロリ菌以外の原因では、長期間にわたる不適切な食生活、喫煙や長期間にわたる多量の飲酒、持続的な心理的ストレスなどが慢性胃炎の発症・悪化因子として知られています。
非ステロイド性抗炎症薬を常に使っていることや、一部の自己免疫疾患も慢性胃炎を引き起こすことがあります。
なお、胃カメラ検査で明らかな炎症所見がないのに胃もたれなどの症状が続く場合は機能性ディスペプシアと診断されることがあります。
これはかつて「神経性胃炎」と呼ばれた状態で、胃炎がないにもかかわらずストレスなどで胃の機能不調が起こる病気です。
症状は胃炎と似ていますが治療法が異なるため、症状が長引く場合は本当の胃炎かどうか医療機関で判断してもらうことが重要です。

治療

胃炎の治療は原因の除去と胃粘膜の保護・修復が基本となります。
急性胃炎の場合、原因に心当たりがあればまずそれを取り除くことが大切です。
多くの場合、胃を休めるために食事内容の調整も行います。
症状が強い急性胃炎では1〜2食程度の絶食や水分のみの摂取で胃を休ませ、症状が和らいできたらお粥など消化に良い食事を少量ずつ摂るようにします。
症状が落ち着いた後もしばらくは脂肪分や香辛料の多い食事、アルコールなどは避けて胃粘膜の回復を促します。
軽症であればこうした生活指導のみで改善することもあります。

症状が続く場合や慢性胃炎では、薬物療法が用いられます。
代表的なのは胃酸を中和・抑制する薬剤で、胃酸過多による粘膜への刺激を和らげる目的です。
市販の胃酸を中和する薬や、病院で処方されるH₂ブロッカー・プロトンポンプ阻害薬といった胃酸分泌を抑える薬が症状緩和と粘膜の治癒に有効です。
これらの薬は胃痛や胸焼けなど軽い症状であれば数日~数週間の服用で改善することが多いですが、慢性胃炎や胃潰瘍を伴う場合は8〜12週間程度の継続投与が必要になることがあります。
胃粘膜を保護する薬や胃の運動機能を改善する薬が併用されることもあります。
一方、ピロリ菌に感染していることが確認された場合はピロリ菌の除菌療法を行います。
除菌療法では通常、2種類の抗生物質と1種類の胃酸分泌抑制薬を1週間併用することで胃内のピロリ菌を死滅させます。
約7〜8割の患者さんは1回の除菌で成功し、失敗した場合でも薬を替えて再挑戦すれば9割以上で除菌が達成できます。
ピロリ菌が除去されると慢性胃炎自体も徐々に改善し、潰瘍の再発予防や胃がんの発症抑制につながることが確認されています。
慢性胃炎の患者さんで胃粘膜に高度の萎縮が認められる場合や潰瘍を合併している場合には、医師の判断で積極的に除菌治療が行われます。

合併症への対処も重要です。
たとえば胃炎による出血が疑われる場合は、内視鏡で出血部位を凝固止血するといった処置や、輸血を含む全身管理が行われます。
強い痛みや嘔吐がある急性胃炎では点滴や吐き気止めの投与が必要になることもあります。
いずれにしても再発防止のためには原因除去と生活習慣の見直しが不可欠です。
症状が和らいでも自己判断で薬を中断せず、医師の指示に沿って十分に胃粘膜を治癒させることが大切です。
また、市販薬で一時的に症状が和らいだように見えても、実は胃潰瘍や胃がんが隠れている可能性もあります。
特に慢性的な胃の不調がある場合は放置せず医療機関で適切な診断・治療を受けるようにしてください。

早期発見のポイント

胃炎は自分では気づきにくいこともある病気です。
慢性胃炎では症状が乏しいまま静かに進行し、気付いた時には胃潰瘍を併発していたり、萎縮が進んで胃がんの芽が潜んでいたりするということも起こりえます。
したがって、日頃から胃の調子に注意を払い、少しでも異変を感じたら早めに対処することが重要です。
具体的には、「胃もたれや胃痛がいつもと違う」「食欲が落ちて体重が減ってきた」「胃薬を飲んでも改善しない」といった場合には、自己判断せず早期に消化器科を受診しましょう。
特に黒色便や吐血など明らかな異常がみられた場合は一刻を争いますので、迷わず医療機関にかかってください。

定期的な検査も早期発見に有効です。
胃炎そのものは胃カメラを行えば直接胃粘膜の状態を観察して診断できます。
胃カメラでは胃炎の有無や程度だけでなく、潰瘍やポリープの有無、さらには早期の胃がんまで発見することができます。
日本人はピロリ菌感染者が多く胃がんリスクが高いため、症状がなくても40〜50歳以上になったら定期的に胃の検診を受けることが推奨されています。
実際にピロリ菌感染が確認された場合には、内視鏡検査で胃がんの有無を確認した上で保険適用の除菌治療を受けることができます。
除菌後も定期的な胃カメラ検査は続けるべきで、萎縮性胃炎が残っている場合には特に注意深い経過観察が必要です。
こうした検診や治療の積み重ねによって、胃がんの死亡率は大きく低下することがわかっています。

早期発見のポイントとしてもう一つ重要なのは、生活習慣の改善を先延ばしにしないことです。
暴飲暴食や喫煙・ストレスなど思い当たる原因がある場合、それらを放置すると胃粘膜のダメージが蓄積し、やがて症状が悪化してから受診することになりがちです。
そうなる前に生活習慣を見直し、症状が軽いうちに対策を講じれば、重症化を未然に防ぐことができます。
胃の違和感など日々の小さなサインを見逃さず、「おかしいな」と感じた段階で専門医に相談することが早期発見・早期治療の近道です。

予防

胃炎を予防するには、原因となる生活習慣やピロリ菌感染をコントロールすることが有効です。
日常生活で次のような点に気をつけましょう。

規則正しい食生活を心がける

1日3食をできるだけ決まった時間に摂り、よく噛んでゆっくり食事をしましょう。
暴飲暴食は避け、脂っこい料理や香辛料の効いた刺激の強い食品は控えめにします。
就寝前の深夜の飲食は胃酸の分泌を高めるため、夕食は寝る2〜3時間前までに済ませることが望ましいです。

適度な飲酒と禁煙

アルコールの飲みすぎは急性胃炎や肝臓疾患を引き起こす原因となり、長期間にわたる過剰な飲酒は胃の粘膜を傷つけ、慢性胃炎を進行させることがあります。
節度ある適量にとどめ、可能であれば禁酒を検討しましょう。
喫煙も胃粘膜の血流を減少させ防御機能を低下させるため、禁煙が望ましいです。

ストレスの軽減と十分な休養

過度な精神的ストレスは胃の不調を招く大きな要因です。
適度に休息をとり、睡眠時間をしっかり確保して自律神経のバランスを整えましょう。
運動や趣味などで上手にストレスを発散し、溜め込まない工夫も大切です。

薬剤の使用に注意する

慢性的な痛みや持病がある方で非ステロイド性抗炎症薬など胃に負担のかかる薬を服用している場合は、漫然と飲み続けないようにしましょう。
医師と相談し、必要最小限の服用に留めるか、胃粘膜保護薬の併用など適切な対策を取ってもらってください。
自己判断で市販の痛み止めを多用することは避けるべきです。

ピロリ菌感染の対策

ピロリ菌に感染しているかどうか一度調べておくことも予防策の一つです。
胃カメラ検査時の迅速ウレアーゼ試験や呼気検査・血液検査などで簡単に調べられます。
感染が判明した場合は除菌治療を行いましょう。
ピロリ菌を除菌することで慢性胃炎の進行を食い止め、将来的な胃潰瘍や胃がんの予防につながります。
日本ではピロリ菌陽性の慢性胃炎患者に対して保険適用で除菌治療が受けられますので、医師に相談してください。

定期的に胃の検診を受ける

胃炎そのものを完全に防ぐことは難しいですが、年に1回程度の健康診断を受けていれば、たとえ胃炎が起きていても早期に発見し対処できます。
特にピロリ菌感染者や胃炎を繰り返した経験がある人、胃がんの家族歴がある人などリスクの高い方は、定期検診を怠らないようにしましょう。
早期発見・治療こそが結果的に胃炎を重症化させない最大の予防策になります。

以上のように、胃炎は身近な消化器疾患ですが、その陰にピロリ菌感染など放置すべきでない原因が潜んでいることもあります。
日頃から胃の健康に配慮し、適切な予防と早期対応を行うことで、胃炎による苦痛や合併症を未然に防ぐことができます。
胃の不調が長引く際は自己判断せず、早めに専門医へ相談するよう心がけましょう。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。