病気や症状についてわかりやすく伝える
医学情報サイト
機能性ディスペプシア
疾患の概要
機能性ディスペプシアとは、胃や十二指腸の検査で潰瘍や癌など明らかな病変が認められないにもかかわらず、慢性的に上腹部の不快症状が続く疾患です。
つまり、 胃もたれ や みぞおちの痛み などの症状があるのに検査では異常が見つからない「機能の異常」による胃腸障害で、過敏性腸症候群などと同様に消化管の機能性疾患に分類されます。
機能性ディスペプシアは比較的ありふれた病気であり、一般人口の約1割~2割が該当するとの報告もあります。
実際、健康診断を受けた人のうち11~17%に該当し、胃の不調を訴えて病院を訪れる患者さんでは約半数にこの疾患が見つかるというデータが示されています。
生命予後に直接影響する深刻な病気ではありませんが、症状が長く続くと食事や日常生活に支障をきたし、生活の質を下げてしまいます。
そのため、機能性ディスペプシアと診断された場合は適切な治療によって症状をコントロールし、日常生活への支障を減らすことが大切です。
症状
機能性ディスペプシアの主な症状は、上腹部の慢性的な消化不良様の不快感です。
具体的には次のような症状が挙げられます。
- みぞおち付近の痛み。
- みぞおち付近の焼けるような熱い感じ。
- 食後に胃がもたれる感じ。
- 食事を始めて少しでお腹がいっぱいに感じてしまう。
これらの症状が生活に支障を来す程度に繰り返し現れ、通常少なくとも3か月以上の長期間持続する場合に機能性ディスペプシアと診断されます。
症状には個人差が大きく、中には 吐き気 や 食欲不振、げっぷ などを伴う方もいます。
症状の現れ方によって、機能性ディスペプシアは2つのタイプに分類されることがあります。
一つは食後の胃もたれや早期満腹感が主体の食後愁訴症候群で、もう一つはみぞおちの痛みや灼熱感が主体の心窩部痛症候群です。
これらのタイプは明確に区別できるわけではなく、両方の症状が同時にみられる方も多くいます。
原因
機能性ディスペプシアの明確な原因はいまだ解明されておらず、「なぜ症状が起きるのか」がはっきり分からない疾患です。
しかし、近年の研究からいくつかの要因が関与していると考えられています。
例えば、胃の運動機能の異常や 胃酸分泌過多、胃の知覚過敏といった胃そのものの機能的な変調が挙げられます。
また、精神的な ストレス は症状を悪化させる大きな要因であり、自律神経を介して胃の働きに影響を与えることが知られています。
さらに、ピロリ菌の感染も一部では関連が指摘されており、ピロリ菌が胃に感染している人ではその除菌によって症状が改善するケースがあります。
このほか、 感染症の後遺症 として発症するケースも報告されています。
例えば細菌やウイルスによる胃腸炎から回復した後に、その刺激をきっかけとして機能性ディスペプシアを発症することがあります。
このようなタイプは「感染後ディスペプシア」とも呼ばれます。
同様に、ピロリ菌感染が関与する場合には「ピロリ菌関連ディスペプシア」として機能性ディスペプシアとは別に分類されつつあります。
しかし多くの場合、単一の原因を特定することはできず、複数の要因が重なり合って症状が引き起こされている と考えられています。
治療
機能性ディスペプシアの治療では、薬物療法と生活習慣の改善の両面からアプローチすることが重要です。
症状や原因が人によって異なるため、それぞれの患者さんに合った治療法を組み合わせて症状の改善を目指します。
薬物療法
胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーといった酸分泌抑制薬、胃の動きを促進する消化管運動機能改善薬が治療の柱となります。
日本では2013年に世界初の機能性ディスペプシア治療薬として アコチアミドが発売されており、特に食後の胃もたれや早期満腹感など食後愁訴症候群タイプの症状改善に有効です。
また、漢方薬の 六君子湯は機能性ディスペプシア症状の改善効果があることが報告されています。
ピロリ菌に感染している場合には、ピロリ菌の除菌治療を行うことで症状が改善するケースがあるため、まず除菌を試みます。
そのほか、ストレスや不安が強い患者さんでは 抗うつ薬・抗不安薬 を少量用いることで胃腸の知覚過敏を和らげ、症状緩和に寄与する場合もあります。
生活習慣の改善
薬物療法と並行して、日常生活での工夫も大切です。
食事では胃に負担をかけない食習慣を心がけます。
例えば、脂っこい料理や香辛料のきいた刺激物は控えめにする、夜遅くに大量に食べない といったことに注意します。
よく噛んでゆっくり食べ、一度に食べ過ぎないようにすることも胃の負担軽減につながります。
規則正しい生活リズムを整え、睡眠不足を避けることも重要です。
十分な休息をとり、ストレスを溜めこまないよう適度に発散する工夫をしてください。
症状がつらいときには無理をせず安静にし、暴飲暴食や喫煙・過度の飲酒など胃腸に負担をかける習慣はできるだけ避けましょう。
これらの生活改善は症状の予防にもつながり、薬物療法の効果を高める上でも有益です。
早期発見のポイント
胃の不調が続く場合には、早めに医療機関を受診することが勧められます。
機能性ディスペプシアは検査で明確な異常が見つからない病気ですが、診断を確定するにはまず他の病気が隠れていないか確認する必要があります。
具体的には、胃潰瘍 や 十二指腸潰瘍、胃がん などの有無を調べるために、詳しい問診や胃カメラ検査などを行い、それらの器質的疾患が否定されて初めて機能性ディスペプシアと診断されます。
したがって、胃もたれやみぞおちの痛みが何度も繰り返すのに市販薬では改善しない、といった場合には自己判断で放置せず早期に消化器内科を受診することが大切です。
適切な検査を受けておけば、仮に他の病気が見つかった場合でも早期治療につなげることができますし、異常がなければ機能性ディスペプシアとして速やかに治療を開始できます。
特に注意すべき症状もあります。
例えば、吐血・下血、嚥下困難、原因不明の体重減少、貧血、夜間睡眠中に何度も目覚めるほどの激しい腹痛などは、機能性ディスペプシアでは通常みられない所見です。
これらの症状がある場合は、胃腸の重篤な病気が隠れている可能性があるため、早く精密検査を受ける必要があります。
胃や食道・大腸などの消化管のがんは早期発見できれば治療成績が飛躍的に向上します。
したがって、機能性ディスペプシアが疑われる場合でも、こうした危険徴候を見逃さずチェックすることが重要です。
幸い、機能性ディスペプシアそれ自体は命に関わる疾患ではありませんので、検査で他の疾患がないと確認できれば過度に心配しすぎず、医師と相談しながら根気強く治療と生活改善を続けていくと良いでしょう。
予防
機能性ディスペプシアを予防するためには、日頃から胃に優しい生活を心がけることが有効です。
ポイントとなるのは 食事、ストレス対策、そして 十分な睡眠 の三つです。
食事
普段から胃に負担をかけないバランスの良い食生活を心がけましょう。
具体的には、よく噛んでゆっくり食べる ことで消化を助け、胃への負担を軽減できます。
一度に食べ過ぎず腹八分目にとどめるようにすると良いでしょう。
また、唐辛子など刺激の強い香辛料や脂肪分の多い料理、アルコール飲料やカフェインを多く含む飲み物は症状を悪化させることがあるため、摂り過ぎないよう注意が必要です。
塩辛い食品や糖分の多い菓子類も胃酸の過剰分泌につながりやすいので控えめにします。
規則正しく1日3食とることを基本に、夜遅くの食事や空腹のまま長時間過ごすことを避け、胃に負担をかけないリズムを作りましょう。
ストレスと運動
精神的なストレスは胃腸の働きを乱し、機能性ディスペプシアの症状を引き起こしたり悪化させたりする要因です。
ストレスを溜めこまないよう、自分なりのリフレッシュ法を見つけて実践しましょう。
適度な 運動 も効果的です。
体を動かすこと自体がストレス解消につながる上、運動不足が続くと胃の機能が低下して胃もたれや食欲不振を来しやすくなるため、ウォーキングや軽いジョギングなど無理のない範囲で定期的に体を動かす習慣をつけると良いでしょう。
睡眠
質の良い睡眠も胃腸の健康には欠かせません。
寝不足が続くと自律神経のバランスが乱れ、消化機能が低下して胃の不快感や食欲低下が起こりやすくなるとされています。
毎日できるだけ規則的な睡眠時間を確保し、十分に体と胃腸を休めるようにしましょう。
特にストレスが多い方は睡眠のリズムが乱れがちになるため、生活リズムを整えることが予防につながります。
これらの生活習慣の改善は、機能性ディスペプシアの発症予防や再発予防に有効であるだけでなく、たとえ症状が出てしまった場合でも症状の軽減につながります。
日頃から胃腸に優しい生活を意識し、規則正しい生活とストレス管理を行うことで、機能性ディスペプシアになりにくい胃腸を保つことができます。