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食道炎

喉のつかえ胃の不快感胃もたれ胸やけ 胃・食道の病気

疾患の概要

食道炎とは、食道の内側を覆う粘膜に炎症が起きた状態を指し、さまざまな原因によって発症します。
代表的なものに、胃酸が逆流することで起こる逆流性食道炎がありますが、それ以外にも薬剤の刺激による薬剤性食道炎、真菌やウイルスなどによる感染性食道炎、アレルギー反応が関係する好酸球性食道炎、化学物質の誤飲による腐食性食道炎、放射線治療に関連する放射線性食道炎などがあります。

近年では、食生活の欧米化や高齢化の影響により逆流性食道炎の患者が増加していますが、その他のタイプも含めると、広範囲にわたる疾患として注意が必要です。
放置すると食道に潰瘍ができたり、食道が狭くなる“食道狭窄”や出血などの合併症を引き起こすこともあります。
炎症の原因や症状に応じた適切な治療を受けることにより、多くの場合は改善が見込めます。

症状

食道炎の症状は原因によって多少異なりますが、食道の粘膜が荒れることで次のような症状が現れます。

  • 胸焼け
    胸の中央が焼けるように熱く感じます。 特に食後や横になったときに起こりやすい症状です。
  • 呑酸
    酸っぱい胃液が喉元まで逆流して、口の中に酸味を感じます。
  • 嚥下困難
    食べ物や飲み物がスムーズに飲み込めず、のどや胸に引っかかる感じがします
  • 嚥下痛
    ものを飲み込むと痛みを感じます。 炎症が強いと飲み物でものどや胸にしみるように痛むことがあります。
  • 胸痛・のどの違和感
    食道の炎症が原因で胸が痛むことがあります。 また、のどに異物があるような違和感や原因不明の咳が出る場合もあります

乳幼児では大人のように症状を言葉で表現できないため、ミルクや食事を嫌がる、嘔吐しやすい、体重が増えない等の形で現れることがあります。
年長児では「胸が痛い」などと訴える場合もあります。

原因

食道炎を引き起こす主な原因には次のようなものがあります。

逆流性食道炎

胃酸や消化物が食道へ逆流して起こります。
食道と胃の境目にある筋肉がゆるみ、胃酸が過剰に分泌されることで発症しやすくなります。
過食や高脂肪食、アルコール多飲、肥満、加齢などで逆流が起こりやすくなります。
また食道裂孔ヘルニアがあると胃酸が上がりやすくなります。

薬剤性食道炎

薬の錠剤やカプセルが食道内に留まって粘膜を傷つけることで生じます。
十分な水で服用しなかった場合や、服用直後に横になった場合に起こりやすく、抗生物質・鎮痛薬・骨粗しょう症の薬などが誘因として知られています。

腐食性食道炎

強い酸やアルカリ性の液体を誤飲することで起こります。
家庭用洗剤や漂白剤の誤飲によって幼児に発生しやすいですが、成人では自殺目的で劇物を飲んで発症する例もあります。

感染性食道炎

ウイルスや真菌感染が原因です。
健康な人ではまれですが、HIV感染症の方や抗がん剤・ステロイド治療中の方など免疫力が低下した状態では発症しやすくなります。
カンジダ菌によるカンジダ食道炎が代表的で、ヘルペスウイルスやサイトメガロウイルスによるウイルス性食道炎もあります。

放射線性食道炎

胸部や頸部に対する放射線治療の副作用で起こる食道炎です。
放射線照射によって食道粘膜に炎症や潰瘍が生じます。

好酸球性食道炎

アレルギー反応が関係して発症する特殊な食道炎です。
喘息やアトピー性皮膚炎などアレルギー素因のある人に発症し、炎症が長引くと食道が狭くなる“食道狭窄”につながることがあります。

治療

食道炎の治療は原因と重症度に応じて行います。
基本的には、炎症の原因を取り除き、粘膜が自然に修復するのを助けることが柱となります。
そのため、生活習慣の改善と薬物療法が中心です。
主な治療法を原因別に解説します。

逆流性食道炎

まず生活習慣の見直しと胃酸の分泌を抑える薬の内服を行います。
胃酸の分泌を抑える薬により多くの場合症状が速やかに改善し、炎症も治癒します。
逆流を繰り返す場合は医師の判断で薬を続けたり、薬などの治療で良くならない場合は手術が検討されます。

薬剤性食道炎

原因となった薬の服用を中止できる場合は中止し、難しい場合は他の薬に変更します。
同時に胃酸抑制薬や粘膜保護薬を一時的に用いて症状の緩和を図ります。
通常は時間経過とともに炎症は治まるため、数日間は刺激の少ない柔らかい食事を心がけて経過をみます。

腐食性食道炎

損傷が激しい場合は緊急入院して治療します。
早期に内視鏡で損傷の程度を確認し、絶食・点滴などによる集中的な治療を行います。
炎症後に狭窄が生じた場合には、後日内視鏡でバルーン拡張術を実施します。

感染性食道炎

背景の免疫低下状態に対処しつつ、原因となった感染症の治療を行います。
カンジダ性食道炎には抗真菌薬、ヘルペス性食道炎やサイトメガロウイルス食道炎には抗ウイルス薬を用いて炎症を鎮めます。

放射線性食道炎

胸部や頸部に放射線治療を行った際に生じる食道の炎症に対しては、胃酸の分泌を抑える薬や粘膜を保護する薬を用いて治療します。
症状が強い場合には、点滴や入院による対応が必要となることもあります。

好酸球性食道炎

原因食品が疑われる場合は除去食など食事療法を行います。
まず胃酸の分泌を抑える薬を試みます。
効果がない場合はステロイド薬を内服または食道に付着させて炎症を抑えます。
近年ではデュピルマブという注射の生物学的製剤も使用可能です。
狭窄がある場合は内視鏡的拡張術を行います。

早期発見のポイント

症状に気付いた段階で早めに対処すれば、重症化や合併症の発生を防ぐことができます。
次のようなケースでは早めに医療機関を受診しましょう。

胸焼けや酸の逆流が頻繁に起こる:週に何度も胸焼けが起きたり、夜間に胃酸がこみ上げたりする場合は逆流性食道炎による食道炎が疑われます。
慢性的な胃酸逆流を放置すると食道に潰瘍が生じ、バレット食道という前がん病変に進展する恐れもあります。
症状が繰り返す場合は早めに消化器内科を受診しましょう。

飲み込みにくい・痛みを感じる:食べ物がのどや胸に引っかかる、飲み込むと痛むといった症状は、食道炎が重症化していたり食道が狭くなり始めているサインかもしれません。
早めに検査を受けて適切な治療を行うことが重要です。

薬の服用後に胸の痛みが出現:薬を飲んだ後にのどや胸に痛み・違和感を感じる場合、薬剤性食道炎を起こした可能性があります。
特に服用後半日以内に症状が出た場合は薬剤が食道にとどまって炎症を起こした疑いが高いです。
次の服用は中止し、医師に相談してください。

腐食性物質の誤飲:洗剤や漂白剤などの強い薬品を誤って飲んでしまった場合、口から胸・腹にかけて激しい痛みが起こり、嘔吐や吐血がみられます。
直ちに救急車を呼び、医療機関で処置を受けてください。

免疫力が低い方の注意:免疫力が低下している状態では、軽い嚥下痛でも感染性食道炎の可能性があります。
早めに医師の診察を受けてください。

胃酸逆流の治療で良くならない:胃酸の分泌を抑える薬などを服用しても胸焼けが改善しない場合は、好酸球性食道炎の可能性があります。
専門医による検査を検討しましょう。

早期に内視鏡検査などで正確に診断すれば、適切な治療によって食道の狭窄や潰瘍・出血といった重篤な症状や合併症を防ぐことができます。

予防

日頃から生活習慣に気を付けることで、食道炎の発症や再発を予防することができます。
特に胃酸の逆流を防ぎ、食道の粘膜を守るために次のポイントを心がけましょう。

腹八分目

暴飲暴食を避け、普段から腹八分目を心がけます。

食事内容に注意

脂肪分の多い料理や香辛料の効いた刺激物、アルコール類は控えめにしましょう。

姿勢・服装

食後すぐ横にならず、前かがみの姿勢も極力避けます。
また、ベルトやガードルなど腹部を強く締め付ける服装は避けましょう。

禁煙

喫煙は胃酸の逆流を起こりやすくし、食道粘膜の防御機能も低下させます。
逆流性食道炎の予防のためにも禁煙が勧められます

薬の飲み方

薬剤性食道炎を防ぐには、薬はコップ一杯の水で服用し、服用後すぐ横にならないようにしましょう。

誤飲防止

小児のいる家庭では、洗剤・漂白剤などの家庭用化学製品を子どもの手の届かない場所に保管しましょう。
大人も劇物の取り扱いに十分注意してください。

免疫力低下時の対策

ステロイド吸入薬を使用している場合は、使用後にうがいをして口腔内を清潔に保ちましょう。
抗がん剤治療中など免疫力が低い方も、主治医と相談のうえ感染症の予防策を講じてください。

治療の継続

逆流性食道炎や好酸球性食道炎と診断された方は、医師の指示に従って治療を継続することが大切です。
症状が落ち着いても自己判断で薬を中止せず、生活習慣の改善を続けましょう。

これらの予防策を実践することで食道への負担を減らし、食道炎のリスクを下げることができます。
万一症状が現れても、軽いうちに対処すれば重症化を防ぐことが可能です。
規則正しい生活と適切な食習慣を心がけ、健康な食道を保ちましょう。

リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。