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下痢症
疾患の概要
下痢とは、便の水分量が増えて軟便から水様便になる状態を指し、回数が増える、急激に出る、排便後もすっきりしないといった変化も伴います。
通常、健康な成人での排便回数は1日1~2回が一般的とされますが、これが1日3回以上になり、かつ便が柔らかいか水様状である状態が数日以上続く場合は「下痢症」とみなされます。
下痢には大きく分けて、数日以内に治まる「急性下痢」と、数週間から数か月以上続く「慢性下痢」があります。
急性下痢はウイルスや細菌による感染、食中毒、暴飲暴食などが原因となることが多く、比較的短期間で回復します。
一方で、慢性的な下痢の場合には、過敏性腸症候群、慢性膵炎、炎症性腸疾患、吸収不良症候群など、背景にある病気の存在が疑われるため、詳しい検査と治療が必要になります。
また、下痢症そのものが命に関わる病気ではない場合がほとんどですが、繰り返す水様便により脱水や電解質異常を引き起こすことがあり、特に高齢者や乳幼児では注意が必要です。
生活の質にも大きな影響を与えることから、軽視せず適切な対応が求められます。
下痢の原因は多岐にわたり、大きくは分泌性、浸透圧性、腸運動性、炎症性、吸収不良性の5つの病態メカニズムに分類されます。
分泌性下痢は腸管から水分や電解質が過剰に分泌されることによって起こり、コレラ菌や毒素産生型の大腸菌などが典型です。
浸透圧性下痢は、腸管内に吸収されにくい物質(人工甘味料や乳糖など)が残って水分を引き込むことが原因で発生します。
腸運動性の下痢では、腸のぜん動運動が過剰になり、内容物が腸を通過するスピードが速くなるため、水分の吸収が不十分なまま排出されます。
これは過敏性腸症候群(IBS)などで見られることが多い病態です。
炎症性下痢は腸粘膜が炎症を起こしている状態で、潰瘍性大腸炎やクローン病、感染性腸炎などが含まれます。
便に血液や粘液が混ざることもあり、重篤な疾患のサインとなることがあります。
吸収不良性下痢では、小腸での栄養素や水分の吸収障害が原因で、セリアック病や慢性膵炎、胆汁酸吸収不全などが該当します。
さらに、ストレスや精神的緊張も下痢の誘因となることがあります。
神経性下痢や、過敏性腸症候群における下痢型(IBS-D)では、心理的な要因が腸の動きに影響し、症状を引き起こします。
このように、下痢は単なる一時的な不調ではなく、体の中でさまざまな異常が起こっているサインでもあります。
医療機関では、問診や便の検査、血液検査、内視鏡検査などを通じて原因を特定し、それに応じた治療が行われます。
急性の下痢では水分補給と安静が基本ですが、原因が特定できれば抗菌薬や整腸剤などが使用されることもあります。
慢性的な下痢の場合は、背景にある疾患の治療と並行して、食事の見直しや生活習慣の改善が必要になります。
このように、下痢はその原因や経過、合併症のリスクによって対応が大きく異なるため、軽い症状であっても長引く場合には、早期に医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが勧められます。
症状
下痢の主な症状は、水分を多く含んだ軟便または水様便が頻繁に出ることです。
1日3回以上の排便が続くと、それだけでも生活に支障をきたしますが、下痢に伴って腹痛や腹部の張り、しぶり腹(何度も便意があるが少量しか出ない状態)、吐き気などの症状を伴うこともあります。
これらは日常生活や仕事に影響を及ぼし、外出を控えるなど行動の制限を招くこともあります。
特に感染性の急性下痢では、急激な発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛などの全身症状とともに、強い腹痛や頻回の排便が見られます。
食後すぐに下痢になる場合や、旅行中・外食後に発症した場合などは、ウイルスや細菌による食中毒の可能性があります。
ロタウイルスやノロウイルスなどは冬季に流行しやすく、集団感染の原因にもなります。
慢性的に続く下痢では、体重の減少、倦怠感、栄養不良、貧血などが起こることがあります。
長期的な下痢により腸から栄養分がうまく吸収されなくなることで、全身の不調につながっていきます。
皮膚の乾燥や口内炎、爪のもろさなど、見落とされがちな症状も栄養障害に起因することがあります。
また、下痢と便秘を繰り返すタイプの人では、過敏性腸症候群が疑われます。
この場合、ストレスや緊張などの心理的な要因が大きく関与しており、症状の波があることが特徴です。
腹痛が排便によって軽快する、ガスがたまりやすい、緊張すると症状が悪化するなどのパターンが見られます。
症状が慢性的に続く場合には、放置せず医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けることが勧められます。
原因
下痢の原因は非常に多岐にわたりますが、大きく分けて感染性のものと非感染性のものに分類されます。
急性の下痢の中で最も多いのはウイルスや細菌による腸管感染症です。
ノロウイルス、ロタウイルス、腸炎ビブリオ、サルモネラ、大腸菌などが代表的で、これらは飲食物や接触感染によって体内に侵入し、腸に炎症を起こします。
これにより、腸の水分吸収機能が乱れ、大量の水分が便とともに排出されるようになります。
また、食中毒も重要な原因の一つです。
調理不十分な食品や、衛生管理が不適切な食材を摂取した場合に起こるもので、発症は数時間から数日以内と早く、急激に症状が出現します。
薬の副作用による下痢も少なくありません。
特に抗生物質を使用した際に腸内細菌のバランスが崩れ、腸が正常に働かなくなることで下痢が起こることがあります。
これを「抗生物質関連下痢」と呼びますが、重症化すると「偽膜性腸炎」となり、入院加療が必要になるケースもあります。
一方、慢性的な下痢の背景には、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、膵臓や肝臓の機能低下、甲状腺機能亢進症、糖尿病性神経障害など、全身の疾患が隠れていることもあります。
また、乳糖不耐症やグルテン過敏症のように、特定の食品に対する消化吸収能力が低いために起こる下痢もあります。
さらに、心理的なストレスや不安が引き金になることもあります。
試験前や会議の前など、緊張状態で下痢をする人は多く、自律神経のバランスが崩れることで腸の動きが過剰になり、排便が促進されてしまうためです。
治療
下痢の治療は、原因に応じて異なります。
まずは症状の経過や頻度、便の性状、食事内容、服薬歴、旅行歴などを丁寧に確認することが大切です。
そのうえで、必要に応じて便培養検査や血液検査、大腸内視鏡検査などを行い、正確な診断につなげます。
軽度の急性下痢であれば、水分と電解質の補給をしっかり行いながら、腸を安静に保つことが基本となります。
整腸剤や収斂剤(腸の水分を吸着して便を固める薬)を使用することで、症状の軽減が期待できます。
ただし、細菌性の腸炎が疑われる場合には、止痢薬の使用を避けることもあり、下痢によって体外に排出されるべき病原体を無理に止めることで悪化することもあるため、自己判断での薬の使用は避けるべきです。
慢性の下痢では、原因となる基礎疾患の治療が優先されます。
例えば、潰瘍性大腸炎では抗炎症薬や免疫調整薬、過敏性腸症候群では腸の運動を調整する薬やストレス軽減のための治療が行われます。
乳糖不耐症が原因であれば、乳製品の制限が有効です。
また、精神的な影響が大きい場合には、生活指導や心理的アプローチも大切になります。
ストレスマネジメント、適度な運動、十分な睡眠などを通じて、自律神経の安定化を図ることで、腸の状態も改善していくことがあります。
早期発見のポイント
多くの下痢は数日以内に自然に改善しますが、次のような場合には早期に医療機関を受診することが重要です。
- 発熱や激しい腹痛、血便を伴っている
- 脱水症状(口の渇き、尿が少ない、めまい)が見られる
- 1週間以上にわたって下痢が続いている
- 体重の減少や貧血症状がある
- 繰り返し同じ症状が起こる
これらは、単なる一過性の不調ではなく、背景に重大な病気があるサインかもしれません。
特に血便を伴う場合や、夜間にも下痢がある場合は炎症性腸疾患などの疑いもあるため、適切な検査と診断が必要になります。
予防
下痢を予防するには、まず食生活の見直しが基本となります。
生ものや不十分に加熱された食品の摂取は避け、衛生的に調理されたものを選ぶようにしましょう。
特に夏場や旅行中は食中毒のリスクが高まるため、水や氷にも注意が必要です。
腸内環境を整えるために、食物繊維や発酵食品、乳酸菌を含む食品を日常的に取り入れるとよいでしょう。
暴飲暴食を避け、よく噛んでゆっくり食べることも腸への負担を減らす上で重要です。
ストレスをためこまないようにすることも、下痢予防には欠かせません。
特にストレスが下痢のきっかけになるタイプの人は、自分に合ったストレス解消法を見つけておくことが役立ちます。
生活リズムを整え、適度な運動や十分な睡眠を確保することで、腸の働きも安定していきます。