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便秘症
疾患の概要
便秘症とは、排便の回数や量が少なくなる、排便時に強くいきまなければならない、残便感がある、便が硬くて出にくいなどの状態が持続する病気です。
日本人の多くが経験する身近な症状であり、一般的には「3日以上排便がない」状態が便秘とされることが多いですが、実際には排便の頻度だけでなく、排便の性状や排便時の不快感なども含めて総合的に診断されます。
慢性の便秘症は、女性や高齢者に多く見られます。
特に女性では、ホルモンバランスや筋力の低下、ダイエット、ストレスなどが影響して便秘になりやすく、加齢とともに腸の動きが弱まることで、高齢者においても頻度が増加します。
生活の質を大きく低下させる要因となるだけでなく、重症の場合には腸閉塞や直腸脱、痔の悪化といった合併症を引き起こすこともあります。
便秘症には大きく分けて、「機能性便秘」と「器質性便秘」、そして「症候性便秘」があります。
機能性便秘は、大腸の動きや排便反射の異常によるもので、腸の構造には異常がないタイプです。
一方、器質性便秘は、大腸がんや炎症、腸の癒着など物理的な障害が原因です。
症候性便秘は、他の病気や薬の副作用などが背景にある場合を指します。
さらに、機能性便秘は3つのタイプに細分化されます。
「弛緩性便秘」は、腸のぜん動運動が低下して内容物が滞るもので、高齢者や運動不足の人に多く見られます。
「けいれん性便秘」は、腸の運動が過剰で便の通過が遅くなるタイプで、ストレスが主な要因とされます。
「直腸性便秘」は、排便の反射が鈍くなることで便意が起こりにくくなる状態で、長期的な便意の我慢が原因になることもあります。
近年では、食生活の欧米化や運動不足、社会的ストレスの増加により、若年層でも慢性便秘を訴える人が増えています。
また、スマートフォンやデスクワークによる長時間の座位も腹筋の低下につながり、排便をサポートする筋力の低下が便秘の一因となっています。
便秘は単なる不快感にとどまらず、集中力の低下、睡眠障害、肌荒れなど、日常生活にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
便秘症の評価には、便の性状や頻度に加え、ブリストル便形状スケールなどの客観的指標を用いた分類が有効です。
また、便秘の背景に重篤な疾患が隠れていることもあるため、長期的な便秘や突然発症した便秘では、内視鏡検査や腹部画像検査などの精密検査が必要となることがあります。
一時的な便秘は誰にでも起こり得ますが、症状が長期間にわたって続く場合は、体からのサインと捉えて医療機関での相談が必要です。
放置すれば悪化することもあるため、早期に原因を明らかにし、食生活の改善や薬物療法、運動習慣の見直しなど、自分に合った方法で便秘と向き合うことが大切です。
症状
便秘症の主な症状は、排便の回数が減ることですが、それ以外にもさまざまな不快症状を伴います。
たとえば、強くいきまないと出ない、便が硬くてコロコロしている、排便後にもすっきりしない、という感覚が長く続くことがあります。
排便の間隔が3日以上空いてしまう人もいれば、毎日排便があっても出し切れた感じがせず、排便に不満が残るという方もいます。
便が腸に長くとどまることで水分が吸収され、さらに硬くなり、排便に苦痛を伴うようになります。
その結果、排便を避けるようになり、便秘がさらに悪化するという悪循環に陥ることがあります。
慢性的な便秘では、腹部膨満感やガスがたまりやすくなるなどの症状も加わります。
また、便秘が原因で食欲が落ちたり、肌荒れ、集中力の低下、イライラ、不眠など、全身に影響を及ぼすこともあります。
痔や肛門裂傷の原因になることもあり、排便に対する恐怖感を助長してしまう場合もあります。
原因
便秘の原因は非常に多岐にわたり、一人ひとりの生活習慣や体質、年齢、病歴などによって背景が異なります。
もっとも多いのは、生活習慣や食事内容の乱れによる「機能性便秘」です。
たとえば、食事の時間が不規則だったり、朝食を抜く習慣があると、腸のぜん動運動が鈍くなりやすくなります。
特に、朝は腸の活動が活発になる時間帯であり、朝食をとることで腸に刺激が伝わり、排便が促されると考えられています。
このため、朝食抜きは便秘の一因とされます。
水分の摂取量が不足していると、便が硬くなり排出されにくくなります。
さらに、食物繊維の摂取不足も大きな要因です。
野菜や海藻、きのこ類、穀物などに含まれる食物繊維は、腸内で水分を吸収して便のかさを増やし、腸を刺激して自然な排便を促す役割を果たします。
これらの食品が不足していると、便が小さく硬くなり、排便時の困難を感じるようになります。
運動不足も見逃せない要因です。
特に腹筋や骨盤底筋は、排便時に腹圧を高めて便を押し出すために必要な筋肉ですが、これらの筋力が衰えていると排便力が低下します。
デスクワーク中心の生活や高齢による筋力低下は、腸の運動機能そのものを低下させ、便秘を引き起こします。
長時間の座位姿勢や不規則な生活サイクルも腸内リズムを乱し、便通異常の原因となります。
心理的ストレスや自律神経の乱れも、便秘に密接に関係しています。
腸の動きは自律神経によって調整されていますが、強い緊張やストレスが続くと、副交感神経の働きが抑えられてしまい、腸のぜん動が弱くなります。
これにより、腸内に便が長く滞留するようになり、さらに水分が吸収されて硬くなり、便秘が悪化します。
ホルモンの変化も女性の便秘に影響します。
女性ホルモンの一種であるプロゲステロンには、腸の運動を抑制する作用があるため、月経前や妊娠中には便秘が悪化しやすくなります。
更年期においてもホルモンバランスの乱れが腸機能に影響を及ぼすことが知られています。
また、病気や薬の副作用によって起こる「症候性便秘」もあります。
たとえば、糖尿病による神経障害、パーキンソン病による運動障害、甲状腺機能低下症、うつ病などは、腸の運動や排便反射を弱めてしまうことで便秘の原因となります。
さらに、抗コリン薬、抗うつ薬、カルシウム拮抗薬、鉄剤、麻薬性鎮痛薬などの薬剤は、腸の活動を抑える副作用を持ち、慢性的な便秘を引き起こすことがあります。
高齢者では複数の薬剤を服用していることも多く、薬剤性便秘が見逃されやすいため注意が必要です。
このように、便秘は一つの原因だけで起こることは少なく、複数の要因が重なって発症しているケースがほとんどです。
そのため、背景にある原因を見極めたうえで、個々の状態に応じた対処が求められます。
症状が軽いうちから原因を特定し、早期の生活改善や治療に取り組むことで、慢性化や重症化を防ぐことが可能です。
治療
便秘症の治療は、まず生活習慣の見直しから始めます。
バランスの良い食事と規則正しい生活、適度な運動、そして排便の習慣づけが基本となります。
朝食をしっかり摂ることで腸の活動が促され、毎日決まった時間にトイレに行く習慣を持つことが効果的です。
食事では、食物繊維の多い野菜や果物、海藻類、豆類などを意識的に摂ることが推奨されます。
また、水分の摂取量を増やすことも腸内での便の移動を助けます。
1日に1.5〜2リットル程度の水分を目安に、こまめな水分補給を心がけましょう。
運動も大切な要素であり、ウォーキングやストレッチなどの軽い運動でも腸の動きが活発になります。
特に、腹筋を使う運動は排便力を高めるうえで有効です。
薬物療法では、便の性質や症状に応じて、いくつかのタイプの下剤が使われます。
便を柔らかくする浸透圧性下剤や、腸の動きを促す刺激性下剤、便のかさを増して排便を促す膨張性下剤などがあります。
近年では、腸内環境を整えることを目的とした漢方薬や、腸の水分分泌を高める新しいタイプの薬も使用されています。
ただし、刺激性下剤を長期に使い続けると腸の機能が低下する恐れがあるため、医師の指導のもとで適切に使用することが重要です。
早期発見のポイント
便秘は日常的な不快感として見過ごされがちですが、症状が数週間以上続く、便に血が混じる、急に便秘の状態が始まった、体重が減ってきた、夜間にも排便したくなるといった症状がある場合には、器質的な疾患が隠れている可能性があります。
特に大腸がんや炎症性腸疾患などが背景にあることもあるため、内視鏡検査などによる精査が勧められます。
また、高齢者や持病のある方が急に排便困難を訴えるようになった場合は、腸閉塞や排便障害の可能性もあるため、早めの医療機関受診が大切です。
予防
便秘症の予防には、日々の生活習慣の見直しが最も効果的です。
まず、食事では食物繊維の豊富な食品を積極的に取り入れ、バランスのよい食生活を意識します。
白米よりも玄米や雑穀米、根菜類、海藻、キノコ類などが適しています。
また、水分をしっかりと補うことも重要です。
冷たい水よりも常温の水や白湯が腸に優しく、朝起きてすぐにコップ1杯の水を飲むことで腸のスイッチが入りやすくなります。
リスクの有無に関わらず、体調に異変を感じたら早めに受診し、医師に相談しましょう。
運動不足は便秘の大きな要因になるため、1日20〜30分程度のウォーキングなど、継続しやすい運動を取り入れると良いでしょう。
お腹のマッサージや腹式呼吸なども腸への刺激になります。
精神的な安定も重要であり、ストレスが便秘に影響を与えることはよく知られています。
自分なりのストレス解消法を見つけて、リラックスする時間を持つことが便秘予防に役立ちます。