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胆嚢炎
疾患の概要
胆嚢炎とは、胆嚢に炎症が生じた状態を指します。
胆嚢は肝臓の下に存在し、胆汁を一時的に蓄える袋状の臓器です。
胆汁は脂肪の消化を助ける消化液であり、胆嚢はそれを濃縮・保管して、食事の際に十二指腸へ排出する役割を担っています。
胆嚢炎の多くは胆石が原因で発症する「急性胆嚢炎」です。
胆石が胆嚢の出口を塞ぎ、胆汁の流れが滞ることで細菌感染や炎症が引き起こされます。
胆嚢炎は急性と慢性に分けられます。
急性胆嚢炎は短期間で強い症状を伴い、右上腹部痛、発熱、悪心、嘔吐などが見られます。
適切な治療を受けなければ、膿瘍形成や穿孔、腹膜炎などの合併症を引き起こす危険があるため、迅速な診断と治療が求められます。
慢性胆嚢炎は、胆石の刺激により胆嚢の内壁が長期的に炎症を繰り返す状態で、無症状のこともありますが、慢性的な不快感や胆嚢の収縮障害が生じることがあります。
胆嚢炎は中高年に多く発症し、特に女性、高脂肪食を好む人、肥満、糖尿病、脂質異常症のある人にリスクが高い傾向があります。
最近では、絶食や人工栄養などによる胆汁うっ滞が関与した胆石非依存性の胆嚢炎も増加しており、高齢者や重症疾患患者に見られます。
胆嚢炎は胆道系疾患の中でも頻度が高く、放置すると命に関わることもあるため、早期発見と適切な治療が重要です。
急性胆嚢炎の発症メカニズムとしては、胆石が胆嚢管または胆嚢頸部に詰まることで胆汁が胆嚢内にうっ滞し、細菌感染や局所的な虚血が引き金となり炎症が起こります。
主な起因菌は大腸菌や腸球菌、クレブシエラなどの腸内常在菌であり、これらの菌が胆汁に混入し、炎症反応を助長します。
重症化した場合には、感染が胆嚢周囲の組織や血流に波及し、敗血症を引き起こすこともあります。
診断には、身体診察に加え、血液検査や画像検査が重要な役割を果たします。
血液検査では白血球数やCRPの上昇、肝酵素の異常などが認められることが多く、超音波検査では胆嚢壁の肥厚、胆石の存在、胆嚢周囲の液体貯留などが診断の根拠となります。
さらに、CT検査やMRI、MRCPなどの画像検査が加えられることで、胆道全体の評価が可能となり、合併症の有無も判断できます。
慢性胆嚢炎は、診断が難しいこともあります。
症状があいまいであることが多く、他の消化器疾患と区別がつきにくいため、画像所見や患者の病歴をもとに慎重に診断が行われます。
胆嚢壁の肥厚や萎縮、胆石の存在などが慢性胆嚢炎を示唆する所見とされ、治療方針を決めるうえで重要な判断材料となります。
症状
胆嚢炎の症状は炎症の程度や急性・慢性の違いによって異なります。
急性胆嚢炎では、突然発症する右上腹部の激しい痛みが最も特徴的です。
痛みは持続性で、背中や右肩に放散することもあります。
痛みに加えて、発熱、寒気、吐き気、嘔吐、食欲不振などの全身症状が伴うことが一般的です。
体を動かすと痛みが悪化するため、動作が制限されることもあります。
症状が進むと、腹筋の緊張や局所的な圧痛、反跳痛(押した後に痛みが増す現象)などが見られることもあります。
典型的な症状として、「マーフィー徴候」と呼ばれる身体診察所見があり、右季肋部を圧迫しながら深呼吸をさせると、痛みにより吸気が中断されるのが特徴です。
この所見は胆嚢炎の診断において有用とされています。
炎症が進行すると、胆嚢壁の壊死や穿孔を引き起こし、腹膜炎や敗血症などの重篤な合併症をきたす危険性があります。
慢性胆嚢炎では、明らかな症状がないことも多く、鈍い腹部不快感や軽度の吐き気、食後の膨満感などが見られる程度であることがほとんどです。
症状が出たり治まったりを繰り返す慢性的な経過をたどり、知らないうちに胆嚢の機能が低下している場合もあります。
胆石を伴うケースが多く、慢性炎症の結果として胆嚢の壁が肥厚し、収縮力が弱まることがあります。
胆嚢炎の症状は、急性膵炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胆道がんなどと類似することがあり、鑑別診断が必要です。
正確な診断のためには、症状の出現様式と持続時間、発熱の有無、過去の病歴などを詳細に確認し、適切な検査を実施することが重要です。
とくに高齢者や糖尿病患者では症状が不明瞭なことがあり、見逃されやすいため、医療従事者による慎重な評価が求められます。
原因
胆嚢炎の主な原因は胆石による胆汁の流れの障害です。
胆石が胆嚢の出口である胆嚢管や胆嚢頸部に詰まると、胆汁のうっ滞が生じ、胆嚢内の圧力が上昇します。
これにより胆嚢の内壁に炎症が発生し、二次的に腸内細菌などが感染することで急性胆嚢炎が引き起こされます。
胆石の存在は胆嚢炎の90%以上に関連しているとされています。
また、胆石がなくても胆嚢炎が起こることがあります。
これを「無石胆嚢炎」と呼び、絶食、重症疾患、外傷、術後、敗血症、人工栄養などのストレスが引き金となって発症することがあります。
無石胆嚢炎は胆嚢の血流障害や胆汁うっ滞による胆嚢虚血が原因とされており、重症化しやすいため注意が必要です。
胆嚢炎を引き起こす菌としては、大腸菌、クレブシエラ、腸球菌などが多く、感染が加わることで炎症が増悪します。
細菌感染が疑われる場合には、抗生物質による治療が必要となります。
その他、胆道閉塞や胆道狭窄、腫瘍性病変なども原因となり得るため、胆嚢炎を繰り返す場合には精密検査が必要です。
高脂肪食や肥満、女性ホルモンの影響、加齢、糖尿病なども胆石形成や胆汁うっ滞に関与するため、間接的に胆嚢炎のリスク因子とされています。
食生活や既往歴を含めて、原因を多角的に評価することが診断と予防の第一歩です。
治療
胆嚢炎の治療は、症状の重症度や合併症の有無によって方針が異なります。
軽症の急性胆嚢炎では、まず絶食と点滴による水分・電解質補正を行い、抗菌薬の投与で炎症の沈静化を図ります。
発熱や痛みがある場合には解熱鎮痛薬も使用されます。
腸管の安静を保つことが重要で、口からの摂取は症状の改善が確認されるまで控えることが基本です。
中等症以上では、入院加療が必要とされ、持続点滴、持続抗菌薬投与、経鼻胆汁ドレナージや経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)などの処置が検討されます。
PTGBDは胆嚢内にたまった膿や胆汁を体外に排出し、炎症を抑えるために行われる処置で、高齢者や手術リスクの高い患者にも適応されます。
重症例では感染のコントロールに加え、全身管理として呼吸循環動態の安定化、栄養管理などの包括的な治療が行われます。
根治的な治療としては、胆嚢摘出術(胆嚢摘出術)が行われます。
炎症が軽快した後、状態が安定したタイミングでの予定手術が推奨されており、腹腔鏡下胆嚢摘出術が主流となっています。
重症胆嚢炎では緊急手術が必要となることもあり、術前管理が不十分だと合併症を引き起こす可能性があるため慎重な判断が求められます。
術後は一時的に軟便や下痢がみられることがありますが、多くは自然に軽快します。
慢性胆嚢炎の場合も、繰り返す痛みや消化器症状がある場合には胆嚢摘出が検討されます。
手術後は胆汁の流れが直接十二指腸へと向かうようになりますが、多くの人は支障なく日常生活を送ることが可能です。
術後の食生活の調整や経過観察によって、再発や合併症の予防が期待されます。
早期発見のポイント
胆嚢炎の早期発見には、特徴的な症状と既往歴を把握することが重要です。
特に、右上腹部の痛みや発熱がある場合は胆嚢炎を疑う必要があります。
胆石が既に存在していると診断されている人では、症状出現時点での胆嚢炎の可能性が高くなります。
脂っこい食事を摂取した後に痛みが起きる、発熱や吐き気が数日続く、右肩や背中に放散する痛みがあるといった症状は典型的な胆嚢炎のサインであり、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。
高齢者や糖尿病患者では症状が不明瞭なこともあるため、注意が必要です。
腹部超音波検査や血液検査(白血球数やCRPの上昇、肝機能異常)などが早期診断に有用であり、異常があれば画像検査を追加して炎症の有無を評価します。
胆嚢壁の肥厚、胆汁のうっ滞、胆石の有無などが診断のポイントとなります。
予防
胆嚢炎の予防には、胆石の形成を防ぐことが重要です。
まず、脂肪の摂取量をコントロールし、バランスのとれた食生活を心がけることが第一歩です。
動物性脂肪や高カロリー食品を控え、野菜や果物、食物繊維を多く含む食事が胆石予防に有効です。
適度な運動を取り入れて肥満を防止し、血糖・脂質コントロールを良好に保つことも胆嚢の健康維持に重要です。
また、長期間の絶食や極端なダイエットは胆汁うっ滞の原因になるため、規則正しい食事を続けることが予防になります。
胆石をすでに持っている場合には、定期的な超音波検査を行い、胆嚢の状態をモニタリングすることが望ましいです。
症状の有無にかかわらず、胆石の増大や数の変化がある場合には医師の判断で早期の治療を検討することもあります。