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喘息
疾患の概要
喘息とは、気管支の慢性的な炎症によって気道が狭くなり、ゼーゼー・ヒューヒューという喘鳴や息苦しさを伴う発作を繰り返す病気です。
日本では現在、子どもの約6%、大人の約3%が喘息にかかっているといわれています。小児喘息は成長とともに症状が和らぐこともありますが、その約半数は成人後に風邪などをきっかけに再発し、また大人になってから初めて喘息を発症する人も少なくありません。
喘息は高血圧症や糖尿病と同じく長く付き合う必要がある慢性疾患で、成人してから発症した喘息は完治が難しいとされています。
しかし現在では治療法が大きく進歩しており、適切な薬物療法と自己管理を続ければ、健康な人とほとんど変わらない日常生活を送ることが可能です。
過去に小児喘息だった方も当時の治療法と現在の標準治療は大きく異なるため、自己判断ではなく専門医の指導のもとで最新の治療を受けることが大切です。
症状
典型的な喘息発作では、息をするたび「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と喘鳴が聞こえ、息苦しさを感じます。激しい咳込みや痰が出ることも多く、症状がひどい時には胸が締めつけられるように苦しくなったり、動けなくなる場合もあります。
一方で、こうした分かりやすい発作がなくても注意が必要です。
風邪が治った後にも咳が長引く場合や、特に夜間から明け方にかけて咳で目が覚める・胸苦しくなるといった症状は喘息のサインかもしれません。
このような症状がみられる場合は、喘息を疑って早めに医療機関を受診することが望ましいでしょう。
原因
喘息の直接的な原因は、気道の慢性炎症によって気道が極めて過敏な状態になっていることです。
炎症で敏感になった気道にダニやホコリ、花粉、カビ、ペットの毛、タバコの煙、冷たい空気、運動、ストレスなど様々な刺激が加わると、気管支の平滑筋が収縮して空気の通り道が急激に狭くなり、ゼーゼーという喘鳴や咳発作が引き起こされます。
喘息患者の約半数にはダニやハウスダスト、花粉などに対するアレルギー体質があり、それらのアレルゲンの吸入が発作の大きな誘因となります。
一方で大人の喘息では明らかなアレルゲンが見つからない「非アレルギー性」のケースも少なくありません。
また、風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症は喘息悪化のきっかけとして最も多い要因であり、喫煙習慣のある方では症状が悪化しやすくなります。
さらに、一部の喘息患者では解熱鎮痛薬によって重篤な喘息発作が誘発されることが知られています。
特に鼻ポリープの合併や嗅覚障害を伴うタイプの喘息に多く、薬を飲んでから30分~2時間ほどで人工呼吸器が必要なほど激烈な発作を起こす例もあるため注意が必要です。
治療
喘息治療では、気道の炎症を鎮めて発作を予防する長期管理薬と、発作時の症状を速やかに改善する救急薬を使い分けます。
現在の喘息治療の基本は炎症を抑える吸入ステロイド薬で、世界中で標準治療となっています。
ステロイド薬と聞くと副作用が心配になるかもしれませんが、喘息治療で用いる吸入ステロイドはごく少量で気道に直接作用するため全身的な副作用はほとんどなく、長期間使用しても気管支粘膜が弱くなる心配もありません。
吸入ステロイド薬は発作を未然に防ぐ予防薬であり、症状がない時も毎日1~数回、継続して吸入することが重要です。
使い始めて数日目には発作が減り始めますが、気道の炎症自体がすぐに消えるわけではないため、自己判断で中止すると短期間で再発してしまいます。
最低でも数か月以上は継続し、医師の指示に従って徐々に減量していきます。
吸入ステロイドだけで症状を十分に抑えられない場合には、気管支を広げる作用のある吸入薬を併用します。
ただし、調子が良くなったからといってステロイドの吸入を中断してしまうと、喘息はかえって悪化しかねません。
発作時には短時間作用型の気管支拡張を追加で吸入します。2~3分で症状が和らぎますが、繰り返し吸入しても改善しない場合は早めに医療機関を受診してください。
それでもコントロールが難しい重症喘息の患者さんには、近年、新たな治療法として生物学的製剤が利用できるようになっています。
喘息の発症メカニズムに関わる物質を標的とする注射薬で、従来の治療では効果が不十分だった難治性の喘息にも改善が期待できます。
早期発見のポイント
喘息は早期に発見し適切な治療を始めることで、重症化や長期的な肺機能低下を防ぐことができます。
典型的な喘息発作を起こす前段階として、「咳喘息」と呼ばれる状態がみられることがあります。
これは風邪などの感染症が治った後も8週間以上にわたり咳が続く場合に疑われ、夜中から明け方にかけて発作的な激しい咳込みが起こる点や、気道が刺激に過敏になっている点は喘息とよく似ていますが、喘鳴や強い呼吸困難を伴わないのが特徴です。
咳喘息は1~2か月の治療で多くは改善しますが、成人例では約3~4割が典型的な喘息に移行するとの報告もあります。
そのため、長引く咳症状がある場合は放置せず、早めに呼吸器科などを受診しておくことが重要です。
診察では、喘息が疑われる場合に肺機能検査を行い、気道の閉塞の有無を評価します。
しかし症状が落ち着いている時期には検査で異常が見つからないこともあります。
その場合でも追加の検査によって気道炎症の有無を調べることで早期診断が可能です。
具体的には、痰中の細胞を検鏡したり、吐く息中の一酸化窒素濃度を測定したりする検査で気道粘膜の炎症状態を確認します。
これらの検査は専門機関でしかできない場合もありますが、必要に応じて実施することで初期の喘息でも見逃さずに発見できます。
予防
喘息の発作を予防するには、原因となる刺激をできるだけ避ける工夫をするとともに、気道を広げておく治療を継続することが大切です。
特に風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症は喘息悪化の引き金として最も頻度が高いため、日頃から手洗いやマスクの着用など感染予防に努め、必要に応じてワクチン接種も検討が必要です。
喫煙習慣のある方は禁煙が不可欠で、受動喫煙も含めタバコの煙は徹底的に避けましょう。
また、ダニやホコリ、カビなどがアレルゲンの場合は寝具の洗濯やこまめな掃除・換気などで室内環境を整えることが発作予防に有効です。
花粉症などアレルギー性鼻炎を合併している場合は、その治療も行い、鼻の通りを良くしておくと喘息の悪化防止に役立ちます。
運動で症状が出る方は、運動前に十分なウォーミングアップを行い、必要に応じて発作予防の吸入薬を事前に使用します。寒冷刺激も気道を収縮させるため、冬場はマフラーを着用するなど冷たい空気を直接吸い込まない工夫をしましょう。
さらに、日頃から長期管理薬を指示通り継続することも発作予防の要です。
症状が落ち着いていても自己判断で薬の使用を中断せず、必ず医師と相談のうえで減量・中止を検討してください。
特に痛み止めの服用で喘息発作を起こした経験がある方は、同じ成分を含む薬剤の再使用に細心の注意が必要です。
医師や歯科医には自分が喘息であること、使用できない薬があることを事前に伝えておき、誤って誘因となる薬剤を使用しないようにしましょう。