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花粉症
疾患の概要
花粉症は、植物の花粉によって引き起こされるアレルギー性疾患で、医学的には「季節性アレルギー性鼻炎」に分類されます。体内に花粉が侵入すると、免疫機能がそれを「異物」として認識し、排除しようとする過剰な反応を起こすことで、くしゃみ、透明な鼻水、鼻づまり、目のかゆみや充血などの症状が引き起こされます。症状は花粉の飛散時期に合わせて現れ、毎年同じ季節に同様の不調を繰り返すことが特徴です。
日本では特に春のスギ花粉やヒノキ花粉による花粉症が多く、2月から4月にかけての発症が一般的です。ほかにも秋にはブタクサやヨモギなどの雑草の花粉が原因となるケースもあり、春以外にも症状を訴える人が増えています。近年は地球温暖化や都市化、生活環境の変化などが影響し、花粉の飛散量が増加傾向にあることから、花粉症の有病率も年々高まっています。
厚生労働省の調査では、スギ花粉症の有病率は全国平均で40%を超えるとされており、特に都市部ではさらに高く、東京都内ではおよそ2人に1人がスギ花粉症に罹患しているともいわれています。こうした背景から、花粉症は単なるアレルギー疾患にとどまらず、「国民病」として広く認識されるようになっています。
花粉症は風邪と症状が似ていることから、初期には間違われることもありますが、アレルギーによる症状の多くはくしゃみの回数が多いことや、透明でさらさらした鼻水が続くこと、目の強いかゆみや充血を伴うことが特徴です。また、発熱はあっても微熱程度で、高熱になることは少なく、咳やのどの痛みといった典型的な風邪症状が目立たない場合が多い点でも違いがあります。
一見すると軽い不調に見えるかもしれませんが、症状が強くなると睡眠障害や集中力の低下、学業や仕事への支障など、生活の質(QOL)を大きく下げる原因となります。また、適切な治療を行わずに放置してしまうと、副鼻腔炎や中耳炎、喘息の悪化などを引き起こすこともあり、軽視することはできません。したがって、毎年同じ時期に症状が繰り返される場合は、早めに耳鼻咽喉科などを受診し、正確な診断と適切な治療を受けることが重要です。
症状
花粉症の主な症状は、くしゃみ、透明な鼻水、鼻づまりの三大症状に加えて、目のかゆみや充血、涙目などの目の症状が強く現れる点が特徴です。これらの症状は花粉の飛散量に応じて強くなり、風の強い日や雨の翌日など、花粉が大量に舞いやすい条件では特に悪化しやすくなります。
鼻の症状は、連続したくしゃみや水のような鼻水、鼻がつまって息がしにくくなるといった形で現れ、日常生活に大きな影響を与えます。鼻づまりがひどくなると、匂いが分かりにくくなったり、口呼吸になってのどが乾燥したり、いびきをかくなど睡眠の質にも影響が出ることがあります。
目の症状も強く、かゆみ、充血、まぶたの腫れ、涙目などが出現し、コンタクトレンズの使用が困難になったり、仕事や学業に集中できなくなったりすることもあります。さらに、目をこすりすぎると結膜炎を併発することもあるため注意が必要です。
その他、のどのかゆみ、咳、皮膚のかゆみ、頭重感、全身のだるさといった全身症状を訴える人もおり、重症例では日常生活に大きな支障をきたします。症状は個人差が大きく、花粉飛散量が少ない日でも症状が出る人もいれば、ある程度飛んでも軽症で済む人もいます。
原因
花粉症の主な原因は、特定の植物から飛散する花粉に対する免疫反応です。日本では、スギ、ヒノキ、ブタクサ、ヨモギ、シラカンバ、カモガヤなどが代表的なアレルゲン(抗原)として知られています。特にスギは日本全国に広く分布しており、花粉症の中でも最も患者数が多く、2月頃から飛び始めて3月にピークを迎えます。ヒノキ花粉はその後4月中旬まで飛散し、春の花粉症の主要な原因となっています。一方、秋にはブタクサやヨモギなどの雑草が花粉を飛ばすため、春だけでなく秋にも症状が出る人が少なくありません。カモガヤやオオアワガエリなどのイネ科植物は初夏に飛散のピークを迎え、夏に症状を感じる方もいます。
花粉は非常に小さく、空気中に長時間漂いやすいため、風の強い日や雨上がりなどは特に飛散量が増加します。鼻や目の粘膜に付着した花粉が体内に侵入すると、免疫系はそれを「異物」と認識し、IgE抗体という特定の免疫物質を産生します。この抗体が次に同じ花粉に接触した際、アレルゲンと反応してヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出されます。これにより、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみといった典型的なアレルギー反応が引き起こされます。
一度花粉症を発症すると、翌年以降も同じ季節に繰り返し症状が出ることが多く、症状は年々強まる傾向もあります。また、複数の花粉にアレルギー反応を示す「多感作」の人も増えており、春だけでなく夏や秋にも症状が出続けるケースも少なくありません。さらに、遺伝的な体質や住環境、都市部における大気汚染、食生活の変化などが花粉症の発症や悪化に関与していると考えられており、現代社会においてますます注目される疾患の一つとなっています。
治療
花粉症の治療は、アレルゲンの回避、薬物療法、アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法など)、手術療法の4つが柱となります。
アレルゲンの除去・回避
たとえば花粉飛散情報をチェックして外出を控える、外出時はマスク・眼鏡・帽子を着用する、帰宅時は衣服や髪の花粉を落とす、洗顔・うがいをする、洗濯物を部屋干しにするなどの工夫が効果的です。室内では空気清浄機の使用やこまめな掃除、窓を閉めて換気時間を短くするなどの対策も有効です。
薬物療法
多くの患者さんは内服薬や点鼻薬などによる治療で症状をコントロールしています。
一般的によく使われる薬は、くしゃみ・鼻水・鼻のかゆみを和らげる抗ヒスタミン薬、主に鼻づまりなど炎症を抑える抗ロイコトリエン薬、鼻の粘膜の炎症を直接抑えるステロイド点鼻薬などです。
症状や目的に応じて点眼薬や血管収縮薬の点鼻を併用することもあります。
これらの薬は根本的にアレルギー体質を治すものではありませんが、正しく使えばつらい症状を十分に抑えることができます。
市販薬にも同じ成分のものがありますが、症状が重かったり複数の薬を併用したりする必要がある場合には、早めに耳鼻咽喉科を受診して適切な薬を処方してもらうとよいでしょう。
アレルゲン免疫療法
アレルギーの原因物質に体を慣らしていくことで、アレルギー反応そのものを起こりにくくする治療法です。
少量のアレルゲンを繰り返し体内に取り込み、免疫の過剰反応を和らげます。
方法にはアレルゲンを皮下注射する皮下免疫療法とアレルゲンを舌の下に含んで投与する舌下免疫療法の2種類があります。
舌下免疫療法は自宅で毎日薬を服用できる手軽さから広く行われており、現在日本ではスギ花粉症とダニアレルギーに対して公的に認められています。
治療期間は3~5年と長期にわたりますが、終了後も効果が持続し、通常の薬物療法より症状が大きく改善するケースも期待できます。
ただし、効果が現れるまで数ヶ月以上かかるため、花粉症の場合は症状のないオフシーズンから開始する必要があります。
また、十分な効果を得るには根気強く治療を継続することが大切です。
手術療法
薬物療法で十分に症状が抑えられない重症例や、鼻の構造上の問題があって鼻づまりが強い場合には、手術による治療も検討されます。
アレルギー性鼻炎に対する代表的な手術として、鼻の粘膜をレーザーで焼いて一時的に過敏な反応を抑える下鼻甲介粘膜焼灼術や鼻粘膜の腫れを引き起こす神経を切断し、鼻水・鼻づまりを長期間緩和する後鼻神経切断術などがあります。
手術によってアレルギーそのものが治るわけではありませんが、鼻づまりの改善により日常生活がかなり楽になる場合があります。
治療の選択肢の一つとして、症状や生活への支障が大きい場合は専門医に相談するとよいでしょう。
早期発見のポイント
花粉症は毎年同じ季節に、くしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみといった症状が繰り返し現れることが特徴です。特に透明でさらさらした鼻水が大量に出る、くしゃみが連続して止まらない、目のかゆみや充血、涙が出るといった症状が毎年決まった時期に起こる場合は、花粉症を強く疑います。風邪との違いとしては、発熱が出にくく、症状が長引くことが多い点が挙げられます。
初期の段階で気づき、花粉の飛散が本格化する前に治療を開始することで、シーズン中の症状を軽く抑えることが可能です。特に過去に症状が出た経験のある方は、飛散開始の2週間ほど前から抗アレルギー薬を飲み始める「初期療法」が効果的です。少しでも違和感がある段階で耳鼻咽喉科を受診し、自分のアレルゲンや体質を把握しておくことが、快適な春を過ごすための第一歩となります。
予防
花粉症の発症を完全に防ぐことは難しいですが、日常生活で工夫することで発症や悪化のリスクを減らすことができます。
季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)の予防
花粉症の予防には、花粉との接触をできるだけ減らすことが基本となります。花粉の飛散量が多い時期には、不要不急の外出を控えることが望ましく、外出時にはマスク、眼鏡、帽子を正しく着用することで、鼻や目、髪の毛、衣類などへの花粉の付着を最小限に抑えることができます。とくにマスクは、花粉を約50〜70%カットできるとされ、予防の第一歩です。眼鏡も着用することで、目のかゆみや充血といった症状の軽減に効果が期待できます。
帰宅後は、玄関先で衣類や髪に付着した花粉を丁寧に払い落とし、すぐに洗顔、手洗い、うがいを行いましょう。鼻をかんで鼻腔内の花粉を取り除くことも有効です。洗濯物はできるだけ室内干しにし、やむを得ず外で干す場合は、取り込む前に花粉をしっかりと払い落とすようにします。また、布団を干す際にも同様の配慮が必要です。
室内では空気清浄機を使用して花粉の浮遊を抑え、加湿器によって適度な湿度(50〜60%)を保つことが快適な空気環境づくりに役立ちます。花粉は床に落ちやすいため、フローリングや畳、カーペットなどの床面をこまめに掃除し、掃除機は排気が少ないタイプを使用すると効果的です。カーテン、ソファ、寝具など布製品にも花粉は付着しやすいため、定期的に洗濯や掃除を行い、清潔な環境を保ちましょう。換気は必要最低限の時間にとどめ、花粉が飛びやすい午前中や風の強い日には窓をできるだけ開けないようにする工夫も大切です。
生活習慣の改善
また、花粉症の発症や悪化を防ぐためには、免疫機能を整える生活習慣も欠かせません。睡眠をしっかりと取り、疲労をためないようにし、ストレスを上手に解消することが、過剰な免疫反応を抑えるのに役立ちます。栄養バランスのとれた食事を心がけ、特に腸内環境を整える発酵食品や野菜類の摂取も推奨されます。適度な運動を日常生活に取り入れることで体力と抵抗力を維持することも予防の一環です。飲酒や喫煙は粘膜を刺激して症状を悪化させる可能性があるため、控えることが望ましいでしょう。