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急性膵炎
疾患の概要
急性膵炎は、膵臓に突然炎症が起こる病気で、膵臓の細胞が自ら分泌する消化酵素によって自己消化され、激しい腹痛などの症状を引き起こす疾患です。
膵臓は胃の裏側に位置し、消化酵素やインスリンなどのホルモンを分泌する重要な臓器ですが、急性膵炎になるとその働きが障害されるだけでなく、重症化すると全身に影響を及ぼす可能性があります。
急性膵炎は軽症から重症まで病態の幅が広く、軽症では膵臓周辺のみに限局した炎症ですが、重症になると膵臓が壊死したり、膿瘍が形成されたりして、敗血症や多臓器不全を引き起こすことがあります。
日本では年間約3万人が急性膵炎で入院しており、そのうちの数パーセントが重症化しています。
重症急性膵炎では、死亡率が10〜20%に達することもあり、集中治療が必要な緊急疾患とされています。
発症の原因として最も多いのはアルコールの多量摂取と胆石です。
特に男性では飲酒が原因のケースが多く、女性では胆石が関係していることが多いです。
胆石が膵管を一時的に閉塞することで膵液の流れが妨げられ、膵酵素が膵臓内で活性化されると自己消化が始まり、炎症が起こります。
その他、脂質異常症、高カルシウム血症、薬剤性、ウイルス感染、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)後なども原因として知られています。
急性膵炎は放置すると命に関わることもあるため、早期発見と迅速な治療が重要です。
特に上腹部の激痛や発熱、嘔吐がある場合はすぐに医療機関を受診し、入院加療が必要になるケースも少なくありません。
診断には血液検査でアミラーゼやリパーゼといった膵酵素の上昇を確認し、腹部CTや超音波検査で膵臓の腫脹や炎症の範囲を評価します。
重症度の判定には、日本膵臓学会の重症度分類(APACHE IIスコア、CTグレーディングなど)を用い、全身状態に応じた治療方針が決定されます。
軽症であれば絶食と点滴による支持療法が基本ですが、重症例では集中治療室(ICU)での管理が必要となり、感染性壊死や臓器不全への対応も行われます。
また、急性膵炎の合併症として、仮性のう胞や膵液漏、感染性膿瘍、呼吸不全、腎不全などが挙げられ、これらが発症すると病状が長期化することがあります。
感染性膵壊死では外科的または内視鏡的なデブリードマン(壊死組織の除去)が必要となることもあり、専門的なチームによる包括的治療が求められます。
近年では、早期の補液療法、栄養療法(経腸栄養の早期導入)、抗菌薬の適正使用、微創手術技術の進歩により、重症急性膵炎の死亡率は徐々に改善してきています。
また、膵炎の再発を防ぐためには、原因となる胆石の治療や禁酒・禁煙、食事指導など、退院後の生活指導も極めて重要です。
症状
急性膵炎の代表的な症状は、みぞおちから左上腹部にかけての強い痛みです。
痛みは持続的で、背中にまで放散することが多く、体を前かがみにするとやや軽減されるといわれています。
多くの場合、発症は突然で、痛みによって身動きがとれなくなるほど激しいこともあります。
この痛みは深夜から早朝にかけて出現することが多く、寝ている最中に強い腹痛で目が覚めるというケースも珍しくありません。
そのほか、嘔吐、吐き気、発熱、食欲不振、膨満感、便秘、下痢などの症状が見られることもあります。
ときに、腹部を触ったときの圧痛や筋性防御(腹筋が硬直する現象)を伴うこともあり、これらは膵炎が広範囲に及んでいる兆候です。
重症化すると呼吸困難や意識障害を伴い、多臓器不全に至ることがあります。
さらに、膵臓からの酵素が血中に漏れ出し、全身の炎症反応を引き起こすと、敗血症やショック状態となる危険もあります。
呼吸機能、腎機能、循環動態などが急激に悪化する場合には、集中治療室での管理が必要です。
痛みの程度や症状の広がりは、炎症の範囲や膵臓自体の壊死の有無によって大きく異なります。
軽症であれば絶食と点滴のみで回復することが多いですが、重症例では集中治療が必要となることもあります。
患者の全身状態、炎症の指標、画像所見をもとに重症度を早期に見極めることが重要で、これにより治療の方向性や管理レベルが決定されます。
また、膵臓の腫脹が周囲の臓器を圧迫することで、黄疸や腸閉塞様症状が出現することもあります。
腸管麻痺によって腹部膨満が著しくなり、嘔吐を繰り返すケースも報告されています。
病状の経過を予測するためには、症状の詳細な聞き取りと血液検査、画像検査などが不可欠です。
特にCRPや白血球数、アミラーゼ、リパーゼなどの膵酵素、腎機能、肝機能などのモニタリングが重要です。
原因
急性膵炎の原因として最も多いのはアルコールの過剰摂取と胆石です。
特に大量の飲酒を続けている人は、膵臓に対する慢性的な負担が蓄積されており、突然膵炎を引き起こすことがあります。
飲酒翌日に症状が出ることが多く、若年層にも見られる疾患です。
胆石は、胆のうや胆管内にできる結石で、これが膵管の流れを一時的に妨げると、膵液が膵臓内に逆流し、酵素が自己活性化されて炎症を引き起こします。
特に中高年女性に多く見られ、胆石の存在が知られていないまま発症することもあります。
そのほか、原因として高脂血症、高カルシウム血症、ウイルス感染(ムンプス、C型肝炎など)、膵管閉塞、薬剤性(免疫抑制薬、利尿薬など)、自己免疫性膵炎、外傷、内視鏡検査(ERCP)などが知られています。
また、明らかな原因が特定できない「特発性急性膵炎」も一定数存在します。
これらの原因は複合的に関与することも多く、たとえばアルコールと高脂血症、胆石と膵管異常などが重なることで発症リスクが高まることがあります。
再発の防止には、原因の明確化と生活習慣の見直しが不可欠です。
治療
急性膵炎の治療は、まず膵臓を安静に保つために絶食と点滴が基本となります。
食事を中止し、消化酵素の分泌を抑えることで、炎症を沈静化させることが狙いです。
点滴により水分と電解質の補正を行い、栄養補給が必要な場合には経静脈栄養が使用されます。
痛みが強い場合には鎮痛薬を使用します。
中等度以上の痛みに対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やオピオイド系鎮痛薬が用いられます。
感染が疑われる場合や重症例では、抗生物質の投与も検討されます。
膵臓の壊死が進んで膿瘍が形成された場合や、膿が周囲に広がった場合には、ドレナージといって体外へ排出する処置が行われます。
場合によっては、外科的手術や内視鏡的処置が必要になることもあります。
胆石が原因の場合には、胆道の閉塞を解除するために内視鏡的胆管ドレナージや、退院後に胆のう摘出術が行われます。
膵臓の腫脹によって他の臓器に影響が及んでいる場合には、呼吸管理や血圧管理を含めた集中治療が必要となることもあります。
早期発見のポイント
急性膵炎の早期発見には、典型的な症状とリスク因子の把握が重要です。
みぞおちの強い痛み、背中への放散痛、吐き気や嘔吐、発熱などが同時に見られる場合には膵炎を疑う必要があります。
特に飲酒歴や胆石の既往がある人では、軽い症状でも早めの受診が勧められます。
診断には血液検査で膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)の上昇を確認し、画像検査(超音波、CT、MRI)で膵臓の腫脹や周囲の炎症を評価します。
症状の強さと検査結果の乖離があることも多いため、早期に専門医の診察を受けることが望まれます。
予防
急性膵炎を予防するためには、日頃から膵臓に負担をかけない生活を心がけることが大切です。
ポイントは、食生活の見直しと飲酒・ストレス管理を含む生活習慣の改善と維持です。
アルコールの過剰摂取を控える
まず第一にアルコールの過剰摂取を控えることが重要です。
慢性的な多量飲酒は膵臓に負担をかけ、膵酵素の異常分泌を招くことで膵炎の発症リスクを高めます。
特に飲酒習慣のある人は、休肝日を設ける、飲酒量を減らすなど、継続的な管理が求められます。
胆石の定期検査
胆石が体内にあることが分かっている人は、定期的な画像検査を行い、症状の有無や石の大きさ・位置に応じて外科的介入を検討する必要があります。
胆石が原因で膵炎を繰り返す場合には、胆のう摘出が推奨されることもあります。
中性脂肪やコレステロール値の管理
脂質異常症や高脂血症を抱えている人では、血中の中性脂肪やコレステロール値の管理が必要です。
高脂血症は急性膵炎の独立したリスク因子とされており、薬物療法や食事療法を通じて脂質管理を行うことで膵炎の予防が可能です。
食生活では、脂っこい食事を控え、バランスの良い食事を心がけることが望まれます。
また、暴飲暴食を避け、規則正しい生活リズムを維持することも予防には欠かせません。
ストレス管理や睡眠の確保など、全身状態の安定も膵臓への負担軽減につながります。