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食中毒(ウェルシュ菌食中毒、サルモネラ食中毒など)
疾患の概要
食中毒とは、細菌やウイルス、化学物質、自然毒などが原因となって引き起こされる急性の健康障害の総称です。
特に細菌性食中毒は、日常生活において非常に身近であり、毎年多くの患者が発生しています。
中でもウェルシュ菌やサルモネラ菌による食中毒は、集団感染を引き起こすことも多く、注意が必要な疾患です。
ウェルシュ菌は、加熱調理された食材に残存しやすく、特に大量調理された煮込み料理などが原因になることが多くあります。
酸素の少ない環境で増殖する嫌気性の菌であり、調理後に常温で放置された食品内で大量に増殖します。
食事を摂取してから6~18時間ほどで腹痛や下痢が出現し、比較的軽症で済むことが多いものの、高齢者や体力の低下している人では重症化する場合もあるため油断はできません。
一方、サルモネラ菌は、生または加熱不十分な卵や鶏肉などを通じて感染することで知られており、小児や高齢者においては重症化するケースも報告されています。
感染後6〜72時間で発症し、発熱、腹痛、水様性下痢、嘔吐などの症状を呈します。
時に菌が腸から血液中に移行し、敗血症を引き起こす例もあるため、症状が強い場合には医療機関での診察と治療が必要です。
これらの菌は、体内に入ると胃腸に炎症を引き起こし、下痢や腹痛などの症状をもたらします。
夏季を中心とした気温の高い時期には特に発生件数が多くなり、梅雨〜初秋は食材の保存や調理時の温度管理に対して一層の注意が求められます。
食品を調理したあとに室温で長時間保存することや、再加熱が不十分なまま提供することが食中毒の大きな引き金となります。
食中毒は、発症の速さや症状の強さに個人差があるものの、感染源の特定と早期対応によって重症化を防ぐことができます。
また、食品の取り扱いや調理時の温度管理、手指の衛生状態などを適切に管理することで、多くの食中毒は未然に防ぐことが可能です。
特に施設給食や飲食店での発生は社会的影響が大きいため、食品衛生法に基づく衛生管理やHACCP(危害要因分析に基づく衛生管理)に沿った調理体制の徹底が重要です。
家庭でも、肉類と野菜の調理器具を分ける、中心温度を確認して十分に加熱する、調理後すぐに食べる、清潔な手で取り分けるなど、日常的な配慮が感染予防に直結します。
また、冷蔵庫内でも温度の確認や食材の賞味期限、保管方法に注意することで、細菌の繁殖を防ぐことができます。
近年は、高齢化社会の進展により、免疫力が低下した高齢者の食中毒が注目されています。
老人ホームや病院などでは食材の選定や提供方法に一層の慎重さが求められています。
また、乳幼児にとっても食中毒は命に関わる事態につながるため、家庭内での調理や衛生管理の見直しも不可欠です。
症状
細菌性食中毒の症状は、原因菌によって異なりますが、共通して見られるのは下痢、腹痛、発熱、吐き気、嘔吐などの消化器症状です。
症状の出現までの時間、持続期間、重症度なども菌の種類によって異なるため、原因菌の特定には症状の経過や食事歴の確認が重要になります。
ウェルシュ菌による食中毒では、感染後6〜18時間ほどの潜伏期間を経て、水様性下痢と軽度から中等度の腹痛が主な症状として現れます。
発熱や嘔吐は少ないことが特徴で、症状は通常1〜2日で軽快することが多いです。
感染者が多くても一部は無症状で経過することもあります。
サルモネラ菌による食中毒では、6〜72時間の潜伏期間を経て、発熱、腹痛、激しい下痢、嘔吐などの症状が現れます。
発熱は38℃以上になることが多く、全身倦怠感や頭痛を伴うこともあります。
症状は数日から1週間続くこともあり、高齢者や小児では脱水や菌血症に至ることもあるため注意が必要です。
いずれの場合も、脱水症状には十分な注意が必要です。
口の渇き、尿量の減少、皮膚の乾燥、倦怠感などが見られた場合は、速やかに医療機関を受診し、必要に応じて点滴などの対応が必要となります。
特に体力の低い人では重篤化しやすいため、早めの対応が重要です。
原因
食中毒の原因となる細菌には多くの種類がありますが、この記事ではウェルシュ菌とサルモネラ菌に焦点を当てます。
これらはともに食品を通じて感染し、腸管内で増殖して症状を引き起こします。
調理方法や食品の保存状態、衛生環境などが発症に大きく関与しています。
ウェルシュ菌は土壌や動物の腸内など自然界に広く存在する嫌気性菌で、酸素のない環境下で繁殖します。
加熱に対して強い芽胞を形成するため、調理中に死滅せず、煮込み料理や大量調理された食品の中で常温放置された場合に増殖します。
給食施設や老人ホーム、飲食店などでの集団感染が多く報告されています。
サルモネラ菌は動物性食品、特に生卵、生の鶏肉、加熱不十分な牛・豚肉、ペットなどが感染源になります。
卵の殻に付着している場合や、卵内部に菌が存在することもあります。
生肉を触った調理器具でそのまま他の食品を扱うなどの交差汚染も発症の要因になります。
常温で長時間放置された調理済み食品も、菌の増殖を助けてしまいます。
いずれの菌も、調理・保存・再加熱の各段階で適切な温度管理が行われていないと発症リスクが高まります。
とくに夏場など気温が高くなる時期は、細菌の増殖が速くなるため、衛生管理を徹底することが必要です。
治療
食中毒の治療は、原因菌によって異なる部分もありますが、基本的には対症療法が中心です。
多くのケースでは、水分補給と安静を守ることで自然に回復します。
特に下痢や嘔吐によって失われる水分と電解質を補うことが、治療の最優先事項となります。
軽度の症状であれば、経口補水液をこまめに摂取することで脱水を防ぎます。
食事は無理にとる必要はありませんが、症状が落ち着いてきたらおかゆやうどんなどの消化の良い食品から再開します。
脂っこい食事や生ものはしばらく避けるのが望ましいです。
サルモネラ菌による重症例や、高齢者・小児・免疫力が低下している人の場合は、抗菌薬が使用されることもあります。
ただし、軽症例ではむしろ抗菌薬の使用が腸内細菌叢の乱れを引き起こし、回復を遅らせる場合もあるため、医師の判断に従って使用されます。
ウェルシュ菌に対しては通常、抗菌薬の使用は必要ありません。
下痢止めなどの薬を自己判断で使用することは避けるべきです。
病原菌を体外へ排出しようとする生体の防御反応を妨げてしまう可能性があるため、かえって症状を長引かせる原因になります。
症状が強い、長引いている、血便が出るなどの場合には、早めの医療機関受診が必要です。
早期発見のポイント
食中毒は突然の発症が特徴で、短時間のうちに腹痛や下痢、嘔吐が出現することが多いため、普段と違う症状を感じた際には食事内容を思い出すことが重要です。
潜伏期間が比較的短い菌が多く、原因となる食品を摂取してから24時間以内に症状が出るケースも少なくありません。
特に、調理から時間が経過した煮物やスープを食べた後に下痢や腹痛が現れた場合はウェルシュ菌を、卵料理や鶏肉を食べた後に発熱や嘔吐がある場合はサルモネラ菌を疑うことができます。
症状がある人が同じ食品を食べていた場合には、食中毒の可能性がより高くなります。
家族や職場などで複数人が同時期に似た症状を呈している場合には、集団感染の可能性があります。
その場合は、医療機関だけでなく保健所への連絡も必要になることがあります。
診断のためには、便培養によって原因菌を特定することが有効です。
脱水の兆候や意識の低下、血便などが見られた場合には、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
早期に対応することで、重症化や感染拡大を防ぐことが可能です。
食中毒は自己判断せず、異常を感じたらすぐに行動することが大切です。
予防
食中毒の予防には、基本的な衛生管理が不可欠です。
手洗い、調理器具の消毒、食材の適切な保存方法といった日常の注意が、発症リスクを大幅に下げることにつながります。
特に、夏場や大量調理の現場では徹底した管理が求められます。
まず、調理前後やトイレの後には必ず石けんで手を洗い、清潔なタオルやペーパーで拭くようにします。
生肉を扱う際は、専用のまな板や包丁を使い、他の食材と器具を共用しないことが大切です。
調理後の器具はすぐに洗浄し、熱湯や塩素系消毒剤で殺菌します。
加熱調理では、中心温度が75℃以上になるまでしっかり火を通すことが重要です。
特に鶏肉や卵料理は加熱不足によるリスクが高いため注意が必要です。
また、加熱後の食品も長時間常温に置かず、早めに食べるか冷蔵庫で保管します。
再加熱する際も中心部まで十分に加熱し、食材の内部に残った菌を死滅させるようにします。
冷蔵庫の温度管理や食材の消費期限の確認も、細菌の増殖を防ぐうえで重要なポイントです。
少しの工夫と注意で、大半の食中毒は予防可能です。