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麻疹
疾患の概要
麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスによって引き起こされる急性のウイルス性疾患です。
非常に感染力が強く、患者が咳やくしゃみをすることで空気中に飛散したウイルスを吸い込むことで感染します。
いわゆる空気感染を起こす数少ない感染症の一つであり、感染者の近くに短時間いるだけでも感染する恐れがあります。
そのため、麻疹は一人の患者から多くの人に広がるリスクがあり、集団感染(アウトブレイク)につながりやすい特徴を持っています。
麻疹は乳幼児から成人まであらゆる年代で発症する可能性があり、特にワクチン未接種者やワクチン効果が切れている人にとっては注意が必要です。
麻疹ウイルスに対して自然免疫がない状態で感染すると、ほぼ確実に発症し、重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。
発熱や発疹、咳などが主な症状で、一度発症すると自然に回復するまでの過程で全身状態が著しく悪化することも珍しくありません。
世界保健機関(WHO)は、麻疹の根絶を目標としており、多くの先進国では麻疹の大流行を防ぐためにワクチン接種を国策として推進しています。
日本でも、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の定期接種が進められており、過去に比べて患者数は大幅に減少しました。
しかし、海外からの持ち込み症例やワクチン接種率の低下により、局所的な流行が散発的に発生しています。
また、麻疹は感染すると免疫が一生続くとされますが、ワクチンによる免疫は時間とともに低下することがあり、2回接種を完了していない成人では発症のリスクが残ります。
医療従事者や教育関係者など、人と接する機会が多い職種では、定期的な抗体価の確認と必要に応じた追加接種が推奨されています。
社会全体で高い免疫水準を維持することで、流行の再燃を防ぐことができます。
麻疹は、感染すればほぼ全例が発症する疾患であり、ワクチンによる予防が最も重要です。
適切な予防接種に加え、感染者との接触を避けること、早期診断と隔離措置の徹底が感染拡大を防ぐ鍵となります。
医療機関や保健所による迅速な対応とともに、社会全体で麻疹への正しい理解を深め、予防意識を高めることが重要です。
症状
麻疹の症状は感染後約10日間の潜伏期間を経て現れます。
初期には風邪のような症状が現れ、発熱、鼻水、咳、結膜炎(目の充血)などが主な症状です。
特に高熱(38~40度)を伴うことが多く、体力の消耗を強く感じることがあります。
これらの症状が2〜4日続いた後、いったん熱が下がるように見えますが、再び高熱とともに全身に発疹が出現します。
発疹は通常、耳の後ろから始まり、顔、首、体幹、四肢へと広がっていきます。
発疹と同時に再度高熱が出現するのが麻疹の典型的な経過です。
発疹は赤く盛り上がった斑状で、数日間続いた後に色素沈着を残して消退します。
この発疹期は体調が最も悪化する時期であり、水分摂取や食事が困難になることもあります。
また、発疹が出現する1〜2日前に、口腔内の頬粘膜に白い小斑点(コプリック斑)がみられることがあります。
これは麻疹に特有の所見であり、診断の手がかりになります。
コプリック斑は短期間で消失するため、発見できるタイミングは限られています。
合併症と重症化
・肺炎、中耳炎、脳炎などを引き起こすことがあります。
・特に乳幼児や免疫力が低下している人では命に関わることも。
・ごくまれに、数年後に発症する致死的な神経疾患「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」を合併することがあります。
脳炎は発症率は低いものの重篤な後遺症を残す可能性があり、注意が必要です。
原因
麻疹は、パラミクソウイルス科モルビリウイルス属に属する麻疹ウイルスへの感染によって起こります。
感染経路には、主に以下があります。
・空気感染
ウイルスは空気中で比較的長く生存し、乾燥や熱には弱いものの、密閉空間や人混みでは特に感染しやすくなります。感染源は発症者であり、症状出現の数日前から感染力を持つため、発疹が出る前から他人に感染させていることが多く、感染拡大を防ぐのが困難です。
・飛沫感染
ウイルスは、気道から侵入しリンパ節で増殖した後、血流に乗って全身に広がり、発熱や咳、発疹といった全身症状を引き起こします。免疫を持たない人はほぼ100%の確率で感染・発症するとされており、ワクチンによる予防が極めて重要です。
・接触感染
日本では、麻疹に対する定期予防接種(MRワクチン)が導入されており、1歳時と小学校入学前の2回の接種が推奨されています。しかし、過去に予防接種の機会を逃した人や、1回しか接種していない成人が多く存在しており、こうした人々が麻疹の集団感染の引き金になることがあります。
流行地域への渡航歴がある人や、接触者として発症リスクがある人では、抗体価の確認や追加接種が勧められます。
治療
麻疹には特効薬がなく、対症療法が中心となります。
・解熱剤、咳止め、水分補給など
・食事・水分摂取が困難な場合は点滴による補液
・重症化や合併症がある場合は入院管理
・肺炎:抗菌薬投与
・脳炎:集中治療(ICU)
また、感染リスクが高い接触者に対しては、免疫グロブリン製剤の投与により、発症予防や症状軽減が期待されることもあります。
自己判断での市販薬使用は危険なため、医療機関での適切な診断と治療が重要です。
特に乳幼児や妊婦、免疫抑制状態の患者では重症化リスクが高く、早期の対応が求められます。
早期発見のポイント
以下の症状がある場合は、麻疹の可能性を考慮する必要があります。
・発熱、咳、鼻水、結膜炎
・口腔内の白い斑点(コプリック斑)
・数日後の全身性の赤い発疹
発疹が出る1〜2日前から感染力があるため、診断がついた時点で周囲にすでに感染が広がっている可能性があります。
感染拡大防止のために
・学校や職場などの集団生活から早期に離れる・医師による診断後は、保健所への届け出が必要
・行政による疫学調査と接触者管理が行われる
予防
最も効果的な予防法は、MRワクチンの2回接種です。
・1歳児
・小学校入学前(5~6歳)
この2回の定期接種で、95%以上の免疫効果が得られるとされています。
1回接種では不十分なことがあるため、2回接種の完了が重要です。
ワクチン追加接種が推奨される人
接種歴が不明・1回接種の成人・海外渡航予定者
・医療・教育関係者
・妊娠を希望する女性(妊娠中は接種不可)
麻疹は1人の感染者から12〜18人に広がるとも言われており、非常に高い集団免疫率(95%以上)が必要です。
一人ひとりの予防行動が、社会全体を守ることにつながります。